昔すべり症と診断された患者さんの腰痛。「原因かどうか」をどう説明するか
セラピスト向け
画像の診断名と、いまの腰痛をどこまでつなげて話すか
バレーボールを続ける40代後半の患者さん。左の上殿部のしびれで整形外科を受診したところ、すべり症と狭窄症の診断が付きました。服薬しても症状は変わらない。この方に、すべり症といまの症状の関係をどう説明するのが正確なのか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、診断名と目の前の症状の距離感を考えます。
相談されたのは、バレーボールをしている40代後半から50歳前後の方の症例です。左の上殿部(お尻の上のほう)にしびれがあり、整形外科を受診したところ、すべり症と狭窄症の診断を受けました。しびれは狭窄によるもの、という判断です。
処方された薬を飲んでいますが、症状はいまのところ特に変わっていません。相談の中心は施術の中身ではなく、説明の仕方でした。この患者さんに、すべり症といまの腰痛の関係をどう伝えるのが正確なのか、という問いです。
- 左の上殿部のしびれ。整形外科ですべり症・狭窄症と診断
- 服薬中だが、症状はいまのところ変わっていない
- 腰椎の伸展(体を反らす方向)で痛みが誘発される
- ジャンプや振動でも症状が出る
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎「原因かどうかは分からない」が正確な線
順番が逆のパターンと比べると考えやすくなります。「昔すべり症と診断されていて、いま腰痛がある」場合は、すべり症が原因ではない腰痛も結構あります、という伝え方がしやすい。今回はその逆で、腰痛の改善が思わしくなく、精密検査を受けたら診断が付きました。
診断が後から付いても、事情は変わりません。検討の場で出た答えは率直で、すべり症が原因かどうかは、やってみないと分からない。人にもよる、というものでした。
判断の口はひとつあります。医師の指示どおりの治療を続けて良くなれば、すべり症由来という見立てと合う。変わらなければ、別の要因の可能性が高まる。実際に治療して反応を確認する以外に、原因かどうかを判断する方法はないわけです。
「すべり症が原因の可能性も、そうでない可能性もあります。治療への反応で確かめていきます」。断定しないこの言い方が、いまの時点でいちばん正確な説明だと考えられます。
高齢で初めて診断されたすべり症の読み方
この年代で新たに分離が起きることは多くない、というのが検討の場の見立てでした。典型として挙がった流れはこうです。
- 若い頃に分離が起きるスポーツなどで腰椎の分離があったものの、診断を受けないまま過ごしてきた。
- 20〜30代は表に出ない筋や靭帯がしっかりしているあいだは、症状につながらない。
- 加齢で軟部組織が弱る50代前後から支えが弱り、変性が少しずつ進む。
- 変性すべり症として発症するこの段階で初めて診断が付くため、いまの腰痛の原因として受け取られやすい。
もしすべり症がいまの症状に関わっているなら、周囲の炎症による関連痛として腰痛や殿部の症状が出ている可能性は考えられなくもない、という見方も出ました。ここも、あくまで可能性のひとつという扱いです。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎ジャンプ・振動での誘発は、介入をどこまで変えるか
この症例では、腰椎の伸展に加えて、ジャンプや振動でも痛みが誘発されていました。相談した先生が気にしたのは、この振動での誘発が何から来るのか、分離症・すべり症の所見としてよくあるものなのか、という点です。
検討の場の感触では、急性期の分離の症例では振動での痛みが見られることがあります。一方で、この年代のすべり症で振動をとくに意識した経験はあまりない、という声でした。
そして実務上の要点は、誘発源の解釈が定まらなくても、対応は大きく変わらないことです。手術をしない限り、軸になるのは腰椎伸展症候群(腰を反らす方向のストレスで症状が出るタイプ)への介入です。
- 体幹前面の筋を強化し、腰椎の伸展をできるだけ出さない使い方をつくる
- 胸椎の伸展可動域を広げる
- 股関節の伸展可動域を広げる
- 体幹の屈曲方向の安定性を高める
振動誘発の解釈が割れても、介入の設計は共有できます。原因の特定を待たずに動ける部分と、反応を見て確かめる部分を分けておくと、説明も施術も進めやすくなります。
高齢者では、歩行・階段の振動も手がかりになる
検討では、手術を予定している80代のすべり症・狭窄症の例も共有されました。長時間の歩行はしていないものの、階段を降りるときに響くという訴えがあります。
高齢者の脊柱管狭窄症では、歩行や階段で受ける振動的な負荷が、間欠性跛行(歩くと症状が出て、休むと楽になる状態)の一形態として症状に関わることもありうる、という見方が出ました。
ジャンプでの確認は高齢の方にはさせられませんが、歩行時・階段時の症状の出方を問診で丁寧に拾う視点は、今後の評価に足せそうです。なお、服薬中の方や手術を検討中の方では判断の軸は主治医にあります。経過が思わしくないときやしびれが強まるときは整形外科の再診を勧め、施術側は治療への反応の記録で医師の判断を支える立ち位置が自然です。
瀬谷崎




