腰や背中の痛みで見落としたくないサインとは?転移性脊椎腫瘍を疑う視点
瀬谷崎コラム
腰や背中の痛みで、整骨院だけで抱えないサイン
腰痛や背部痛の多くは、命に関わるものではありません。ただし、安静時痛、夜間痛、進行する痛み、歩行障害や下肢脱力感が重なる時は、いつもの痛みとして流さない方がいいことがあります。
痛みの強さだけで判断しないことが大切です。がんの既往、年齢、痛みの出方、神経症状、生活での変化を合わせて見て、必要なら医療機関での確認につなぐ判断が必要です。
整骨院では、腰痛や背中の痛みを訴える方を多く見ます。
筋肉や関節、神経の問題が関係していることもありますし、姿勢や仕事の負担、睡眠、ストレスが影響していることもあります。
ただ、臨床で本当に大事なのは、「よくある痛み」と「整骨院だけで抱え込まない方がいい痛み」を分けることです。
その一つに、転移性脊椎腫瘍という病態があります。
名前だけ聞くとかなり怖いですが、ここで大切なのは患者さんを怖がらせることではありません。
見逃してはいけない可能性を、必要な時にちゃんと疑えるようにすることです。
転移性脊椎腫瘍は頻度だけで判断するものではなく、症状の出方や背景を合わせて見る必要があります。

まなぶ先生

瀬谷崎
転移性脊椎腫瘍とは何か
転移性脊椎腫瘍は、他の臓器に発生した悪性腫瘍が脊椎に転移した状態です。
脊椎は体幹を支えるだけでなく、脊髄や神経根の近くにあります。
そのため、骨の痛みだけでなく、神経の圧迫、病的骨折、歩行障害などに関係することがあります。
固形腫瘍の患者さんを対象にした系統的レビューでは、臨床的な脊椎転移の発生割合は15.67%と報告されています。
原発巣としては、肺がん、乳がん、前立腺がんが多く、全体の大きな割合を占めます。
腰痛や背中の痛みがあるから、すぐ転移性腫瘍という話ではありません。大切なのは、がんの既往、年齢、痛みの性質、神経症状などを合わせて見ることです。
好発部位としては胸椎が多く、次いで腰椎、頚椎とされています。
腰痛だけでなく、背中の痛みとして出ることがある点も大切です。
整骨院では腰痛に目が向きやすいですが、胸椎まわりの痛みや、普段と違う背部痛にも注意が必要です。
安静時痛・夜間痛・進行性の痛みをどう見るか
レッドフラッグとしてよく挙げられるのが、安静時痛、夜間痛、進行性の疼痛です。
ただし、ここも雑に扱うと危険です。
夜に痛い人はたくさんいます。寝返りで腰が痛い人もいます。疲労や姿勢で、安静時に痛みを感じる人もいます。
つまり、夜間痛があるから腫瘍、安静時痛があるから危険、と単純には言えません。
| 確認したい所見 | 臨床での見方 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 安静時痛 | 動いていない時にも強く痛むかを見る | 姿勢や寝具で説明できる痛みかも合わせて確認する |
| 夜間痛 | 睡眠を妨げる痛み、時間とともに悪化する痛みを確認する | 寝返り痛や一時的な痛みと混同しない |
| 進行性の疼痛 | 日ごと、週ごとに明らかに悪化しているかを見る | 単なる波ではなく、傾向として悪化しているかを聞く |
| 歩行障害・下肢脱力感 | 神経圧迫や脊髄圧迫の関与を疑う材料になる | 急な悪化や左右差、排尿排便の異常があれば特に注意する |
大切なのは、ひとつの言葉だけで判断しないことです。
「夜間痛がありますか」と聞いて終わりではなく、どの時間帯に、どの姿勢で、どれくらい続き、動作で変わるのかまで聞きます。
がんの既往があるか、体重減少や発熱、全身状態の変化があるか、痛みが進行しているかも合わせて見ます。
がんの既往は、かなり重要な情報
腰痛や背部痛で悪性腫瘍を疑う時、がんの既往は重要な情報です。
レッドフラッグの研究でも、既往歴としてのがんは、悪性腫瘍の可能性を上げる材料として扱われています。
もちろん、がんの既往がある人の腰痛がすべて転移という意味ではありません。
でも、既往がある場合は、一般的な腰痛と同じ感覚で長く様子を見るのは避けたいところです。
「以前がんがあったけれど、今は関係ないだろう」と決めつけない。逆に「がんの既往があるから全部危険」とも決めつけない。ここは医療機関での確認を含めて慎重に見たいところです。
患者さん側も、整骨院でそこまで話す必要があるのか迷うことがあります。
でも、がんの既往、現在の治療状況、定期検査の結果、主治医から言われていることは、腰痛や背部痛を評価するうえで大切な情報になります。
言いにくいこともあるかもしれませんが、施術者側は聞き方に配慮しながら確認する必要があります。
整骨院だけで抱え込まない判断
整骨院でできることはあります。
問診をする。痛みの出方を確認する。動作を見る。神経症状の有無を確認する。生活で何に困っているかを聞く。
ただし、転移性脊椎腫瘍の可能性を疑う場面では、整骨院だけで判断しきるものではありません。
画像検査や医学的な診断、治療方針の決定は医療機関の領域です。
がんの既往がある、安静時痛や夜間痛が続く、痛みが進行している、歩行障害や下肢脱力感がある、排尿・排便の異常がある。このような所見が重なる場合は、早めに医療機関で確認した方がよいことがあります。
ここで大事なのは、患者さんを突き放すことではありません。
「うちでは無理です」ではなく、「この痛みは一度確認しておいた方が安全だと思います」と伝える。
その上で、必要な場所へつなぐ。
これも臨床判断の一部です。
同業者ほど、違和感を言語化したい
同業者向けに言うと、レッドフラッグの確認はチェックリストの暗記ではありません。
「夜間痛なし」「発熱なし」「外傷なし」と埋める作業ではなく、問診全体の流れの中で違和感を拾うことです。
痛みの説明が普段の腰痛と違う。
経過が合わない。
動作で変わる痛みとして説明しづらい。
神経症状が進んでいる。
こうした違和感を、なんとなくで流さず、言葉にして整理する必要があります。

まなぶ先生

瀬谷崎
レッドフラッグの多くは、単独では決定打になりません。
だからこそ、複数の所見を合わせて、可能性を低く見積もる材料と、医療機関での確認を考える材料を分けます。
ここを丁寧にしないと、不要な不安を与えるか、必要な確認を遅らせるかのどちらかに寄ってしまいます。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、腰痛や背部痛をすべて同じように扱わないことを大切にしています。
痛い場所だけで判断せず、経過、痛みの性質、神経症状、既往歴、生活での変化を確認します。
整骨院で施術できる可能性がある痛みもあります。
一方で、医療機関での確認を優先した方がよい痛みもあります。
そこを無理に抱え込まないことは、患者さんに対して誠実な判断だと思っています。
- いつもの腰痛と違う経過がある
- 安静時や夜間の痛みが続いている
- 痛みが日ごとに進行している
- 歩きにくさ、下肢脱力感、しびれの悪化がある
- がんの既往や治療歴がある
怖がらせず、見逃さない
レッドフラッグの話は、どうしても怖く聞こえます。
でも、臨床で必要なのは恐怖をあおることではありません。
腰痛や背部痛の多くは、整骨院で評価し、施術や運動、生活上の工夫を考えられるものです。
ただ、その中に少数でも見逃してはいけないものが混ざります。
だから、痛みの強さだけではなく、背景、経過、神経症状を合わせて見る。
必要なら医療機関へつなぐ。
それは臆病なのではなく、安全な臨床のための判断です。

瀬谷崎
参考
- Van den Brande R, et al. Epidemiology of spinal metastases, metastatic epidural spinal cord compression and pathologic vertebral compression fractures in patients with solid tumors: A systematic review.
PMC - Contemporary trends in the incidence and timing of spinal metastases: A population-based study.
PMC - Henschke N, et al. Screening for malignancy in low back pain patients: a systematic review.
PMC - Physician use of red flags to screen for cancer in patients with new back pain.
Cochrane












