整骨院という立場から悪性腫瘍をどう考えるか。腰痛・背部痛を抱え込まないための視点
瀬谷崎コラム
怖がらせず、見落とさず、抱え込まないために
腰痛や背中の痛みの多くは、重篤な疾患ではありません。それでも、整骨院で患者さんに関わる以上、「これは施術だけで見てよいのか」という問いを持つ必要があります。
整骨院で悪性腫瘍を診断するわけではありません。大切なのは、がんの既往、体重減少、発熱、安静時痛・夜間痛、進行性の痛み、歩行障害や脱力などが重なる時に、抱え込まず医療機関での確認につなぐことです。
整骨院には、腰痛、背部痛、肩こり、手足の痛み、腱鞘炎のような症状を訴える患者さんが来院されます。
その多くは、運動器の問題として整理できるものです。
だからといって、すべてを「筋肉」「関節」「姿勢」「骨盤」で説明してよいわけではありません。
まれではあっても、悪性腫瘍や感染、血管性疾患、内臓疾患など、整骨院だけで抱え込むべきではない病態が隠れていることがあります。
ここで必要なのは、恐怖を煽ることではありません。
逆に、「どうせ筋肉だろう」と流してしまうことでもありません。

まなぶ先生

瀬谷崎
整骨院の役割は、診断ではなく違和感を拾うこと
悪性腫瘍を確定するのは医師の仕事です。
整骨院で画像検査や血液検査を行うことはできませんし、「これは腫瘍です」と診断する立場でもありません。
しかし、整骨院で患者さんに触れ、問診をし、経過を追う以上、明らかに通常の運動器痛と違うサインを拾う責任はあります。
たとえば、施術でその場の痛みが少し軽くなったとしても、違和感が消えないことがあります。
痛みの出方が説明しにくい。経過が悪い。全身状態が気になる。本人が話していない既往がありそう。
こうした時に、「施術で少し変わったから大丈夫」と考えすぎるのは危険です。
整骨院の安全性は、何でも施術で解決することではなく、施術で抱え込まない判断ができることにあります。
患者さんが来なくなった時に、「最近来ないな」で終わらせないことも大切です。
改善して来なくなったのか、悪化して来られなくなったのか、病院に行ったのか。
全員を追いかけることは現実的ではありませんが、違和感があった患者さんほど、経過確認の意識を持つ必要があります。
腰痛・背部痛で知っておきたい転移性脊椎腫瘍
悪性腫瘍を考える時、腰痛や背部痛では転移性脊椎腫瘍が重要な鑑別の一つになります。
転移性脊椎腫瘍は、他の臓器に発生した悪性腫瘍が脊椎に転移した状態です。
固形腫瘍の患者さんを対象にした系統的レビューでは、臨床的な脊椎転移の発生割合は15.67%と報告されています。
原発巣としては、肺がん、乳がん、前立腺がんが多く、脊椎では胸椎に多いとされています。
腰痛や背部痛があるから、すぐに転移性脊椎腫瘍という話ではありません。重要なのは、がんの既往、痛みの性質、年齢、神経症状、全身症状が重なるかどうかです。
腰痛全体の中で、悪性腫瘍などの重篤疾患が占める割合は高くありません。
だからこそ、全員に恐怖を煽る説明をする必要はありません。
一方で、低頻度だから考えなくてよいということでもありません。
低頻度でも、見落とした時の影響が大きいものは、最初の問診で必ず頭に置いておきます。
悪性腫瘍を疑う時に見るサイン
悪性腫瘍の鑑別で、特に確認したいのは「単発のサイン」ではなく、「複数の違和感の重なり」です。
夜間痛があるから腫瘍、50歳以上だから腫瘍、体重が減ったから腫瘍、と単純には言えません。
ただし、いくつかの所見が重なる場合は、整骨院だけで様子を見る判断は慎重にした方がよいです。
過去のがん、治療歴、現在の通院状況、定期検査の結果は重要です。患者さんが自分から話さないこともあります。
食事制限や運動では説明できない体重減少、発熱、寝汗、強い倦怠感などは全身状態として確認します。
動作に関係なく痛い、寝ていて痛みで起きる、姿勢を変えても楽にならないなどは、通常の運動器痛と違う材料になります。
痛みが時間とともに悪化する、歩行障害、下肢脱力、広範な感覚障害、排尿・排便の異常がある場合は特に注意します。
レッドフラッグは、チェックリストを埋めるためのものではありません。
「この患者さんは、いつもの腰痛として扱ってよいのか」を考えるための材料です。
がんの既往は、必ず丁寧に聞く
悪性腫瘍の鑑別で、忘れずに聴取したいのが、がんの既往です。
レッドフラッグに関するレビューでも、がんの既往は、背部痛における悪性腫瘍の可能性を考えるうえで重要な材料として扱われています。
ただし、患者さんが問診票に必ず書いてくれるとは限りません。
「もう治ったから関係ないと思った」
「整骨院で言う必要はないと思った」
「大きな病気の話をしたくなかった」
こういうことは実際に起こり得ます。
「大きな病気をされたことはありますか」だけでなく、「がん、感染症、内科疾患、手術歴、現在通院中の病気はありますか」と具体的に聞く方が、必要な情報が出やすくなります。
もちろん、がんの既往がある人の痛みがすべて転移という意味ではありません。
しかし、既往があるかどうかで、同じ腰痛や背部痛の解釈は変わります。
がんの既往がある。痛みが進行している。夜間痛や安静時痛が強い。神経症状がある。
このように材料が重なる場合は、医療機関での確認を強く考えます。
過度に怖がらせることも、見落とすことも避ける
ここで難しいのは、レッドフラッグを知るほど、すべてが危険に見えてしまうことです。
腰痛の多くは自然経過で改善します。
重篤な疾患は全体としては少数です。
医療者側が過度に不安を抱え、その不安を患者さんにそのまま伝えると、患者さんの恐怖や活動制限につながることがあります。
「夜に痛いなら腫瘍かもしれません」「50歳以上なので危険です」と単独所見で強く脅す説明。
「多くの腰痛は重い病気ではありません。ただ、いくつか確認したいサインがあるので、必要なら医療機関で確認しましょう」という説明。
レッドフラッグは、患者さんを怖がらせるための言葉ではありません。
施術で見てよい状態か、医療機関で確認すべき状態かを分けるための安全装置です。
整骨院での実際の運用
整骨院で悪性腫瘍を考える時は、以下の流れを持っておくと運用しやすくなります。
- 初回で既往と全身状態を確認するがんの既往、発熱、体重減少、倦怠感、夜間痛、安静時痛、現在の通院状況を確認します。
- 痛みの性質を動作と照らす動作や姿勢で変化するのか、安静でも変わらないのか、時間経過で悪化しているのかを確認します。
- 神経症状を見落とさない筋力低下、歩行障害、広範な感覚障害、排尿・排便の異常があれば、施術より医療機関での確認を優先します。
- 違和感があれば早めに紹介する「少し変わったから大丈夫」と考えすぎず、複数のサインが重なる場合は医療機関での確認を提案します。
- 来院が途切れた時の意味を考える違和感があった患者さんが急に来なくなった場合、改善したのか、悪化したのか、病院に行ったのかを意識します。
整骨院の強みは、患者さんと近い距離で経過を見られることです。
その強みは、運動器の改善だけでなく、普段と違う変化に気づくことにも使えます。
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施術で抱え込まないことも、臨床の責任
整骨院で悪性腫瘍を診断するわけではありません。
ただし、整骨院で患者さんを見ている以上、通常の運動器痛として扱ってよいかどうかを考える責任はあります。
がんの既往、原因不明の体重減少、発熱、安静時痛、夜間痛、進行する痛み、歩行障害、下肢脱力感。
これらが複数重なる時は、施術で様子を見るより、医療機関で確認する方が安全なことがあります。
一方で、すべての腰痛に腫瘍を疑い、患者さんを過度に怖がらせる必要もありません。
大切なのは、怖がりすぎず、軽く見すぎず、違和感を拾える状態で臨床に立つことです。

瀬谷崎
参考文献・資料
- Cochrane. Physician use of red flags to screen for cancer in patients with new back pain. Cochrane
- Henschke N, et al. Screening for malignancy in low back pain patients: a systematic review. PMC
- Sciubba DM, et al. Epidemiology of spinal metastases, metastatic epidural spinal cord compression and pathologic vertebral compression fractures in patients with solid tumors: a systematic review. PMC
- NICE. Spinal metastases and metastatic spinal cord compression. NICE
- StatPearls. Spinal Cord Compression. NCBI Bookshelf












