ストレッチで可動域が変わるのは、筋肉が柔らかくなったからなのか

その場の変化を、柔軟性の改善と決めつけない

ストレッチ後に可動域が広がることはあります。ただし、その即時変化を「筋肉が柔らかくなった」と説明するには、少し慎重さが必要です。

この記事の結論

ストレッチ直後のROM改善は、筋そのものの柔軟性が増えたというより、伸張感や痛み感覚への許容が変わった結果として見る方が自然な場面があります。

これを、ストレッチトレランスの変化として整理します。

ストレッチをした直後に、前屈が深くなる。

股関節の可動域が広がる。

肩の動きが軽くなる。

こういう変化を見ると、「筋肉が柔らかくなった」と説明したくなります。

でも、その場で筋肉の構造が大きく変わったと考えるのは少し早いです。

即時的なROM改善には、筋の物理的な変化だけでなく、伸ばされた時の感覚に慣れることが関わる可能性があります。

まなぶ先生
まなぶ先生

ストレッチ後に動きが変わったら、柔らかくなったと言ってしまいがちです。

瀬谷崎
瀬谷崎

変化が出ること自体はあります。ただ、その理由を「筋が柔らかくなった」と断定するのは危ないです。感覚の変化で動ける範囲が広がっている可能性もあります。

ストレッチトレランスとは何か

ストレッチトレランスとは、ストレッチに伴う伸張感や痛み感覚への許容の変化です。

簡単に言えば、「ここまで伸ばすとつらい」と感じていたところが、少し先まで許容できるようになることです。

筋肉がその場で長くなったというより、終末域で感じる不快感や伸張感への反応が変わる。

その結果として、関節可動域が広がったように見えることがあります。

言い換えると

ストレッチでROMが広がった時、「筋肉が伸びた」だけでなく、「伸ばされる感覚を許容できる範囲が広がった」と考える視点が必要です。

もちろん、長期的な介入では筋腱の硬さや受動的な抵抗が変わる可能性もあります。

ただ、数十秒から数分のストレッチ直後に出る変化を、すぐに筋の構造変化として説明するのは慎重でありたいところです。

ROM変化には、物理的変化と感覚的変化がある

ストレッチによるROM変化は、大きく分けると2つの視点で整理できます。

物理的な変化

筋腱複合体の硬さ、受動的抵抗、粘弾性などの変化として考える視点です。長期的な介入ではこの視点も重要になります。

感覚的な変化

伸張感、痛み、不快感への許容が変わる視点です。即時的なROM変化では、この影響を無視できません。

臨床で「ストレッチで柔らかくなりました」と言う時、その中身が曖昧なままになっていることがあります。

柔らかいとは何か。

可動域が広いことなのか。

伸ばされた時の抵抗が少ないことなのか。

触った時に硬くないことなのか。

ここを分けて考えないと、説明も介入も雑になります。

「筋の硬さ」も、ひとつの意味ではない

筋の硬さという言葉も、かなり曖昧です。

臨床では「硬いですね」と簡単に言いますが、その硬さが何を指すのかを分けた方がいいです。

  1. 筋スティッフネス長軸方向に伸張される時の抵抗です。ストレッチ中に感じる抵抗感に近い考え方です。
  2. 筋硬度垂直方向の圧力に対して筋が示す抵抗です。触診で「硬い」と感じるものに近い考え方です。

この2つは同じではありません。

触って硬い筋が、必ず伸張方向にも硬いとは限りません。

逆に、ストレッチで抵抗が強いからといって、触診上も硬いとは限りません。

定義が曖昧なまま「硬い」を使うと、患者さんにも施術者にも誤解が生まれます。

まなぶ先生
まなぶ先生

触って硬いからストレッチで柔らかくする、という説明も単純すぎるんですね。

瀬谷崎
瀬谷崎

そうです。触った硬さ、伸ばした時の抵抗、可動域、痛みの感じ方は、それぞれ別に見た方がいいです。

サルコメアが増えた、と説明する前に

ストレッチによってサルコメアが増える、という説明を聞くことがあります。

ただ、これをヒトの臨床でそのまま説明に使うには注意が必要です。

動物実験などから示唆されることがあっても、患者さんに数分ストレッチをした直後の変化を「サルコメアが増えた」と説明するのは無理があります。

ストレッチ後に似たような結果が出たとしても、そのメカニズムは別かもしれません。

即時変化であれば、まずはストレッチトレランスや感覚の変化を考える方が自然です。

説明の注意

結果が同じでも、理由が同じとは限りません。ROMが広がったことと、筋線維の構造が変わったことは、分けて説明した方が安全です。

可動域が増えても、日常動作が変わるとは限らない

もうひとつ大切なのは、ストレッチで得たROMが、生活やスポーツ動作にどうつながるかです。

セラピストが他動的に関節を動かした時のビフォーアフターは変わる。

でも、その変化が歩く、しゃがむ、走る、投げる、蹴るといった動作に反映されるかは別です。

可動域を広げるだけでなく、その可動域を使えるようにする必要があります。

  • ストレッチ後のROM変化が、患者さんの困りごとに関係しているか
  • 他動的な可動域だけでなく、自動運動でも変化しているか
  • 日常動作やスポーツ動作で使える範囲になっているか
  • 痛みや不安が減り、実際の活動量につながっているか
  • ストレッチ以外に、運動学習や筋力練習が必要ではないか

ストレッチは悪いわけではありません。

ただ、ストレッチだけで「動ける身体」になるとは限りません。

可動域が広がったあと、その範囲を安全に使う練習までつなげることが大切です。

ストレッチの効果を、丁寧に言葉にする

ストレッチで可動域が変わることはあります。

でも、その変化をすべて「筋肉が柔らかくなった」と説明する必要はありません。

伸張感への慣れ。

痛みや不快感への許容。

筋腱の受動的抵抗。

触診上の硬さ。

日常動作で使える可動域。

これらを分けて見るだけで、ストレッチ指導はかなり丁寧になります。

患者さんに伝えるなら、「伸びました」だけでなく、「この範囲まで動かしても怖さやつらさが少なくなっています」と説明する方が合う場面もあります。

瀬谷崎
瀬谷崎

ストレッチ後に動きが変わった時こそ、何が変わったのかを丁寧に見たいですね。柔軟性が増えたのか、感覚が変わったのか、動作に使えるのか。そこを分けるだけで説明の質は上がります。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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