膝の痛みはなぜ多いのか。関節痛の頻度から見る、最初に分けたい評価ポイント

多い症状ほど、決めつけずに見る

階段で痛い。立ち上がりで痛い。歩き始めで気になる。膝は、日常の小さな動作の中で何度も試される関節です。ありふれた訴えに見えるからこそ、最初の見立てが雑になると、その後の判断もずれていきます。

階段と立ち上がりで、膝はすぐ主役になる

「少し歩けば慣れるけど、最初の一歩が痛い」

「階段の下りだけ怖い」

「しゃがむ時より、立ち上がる時の方がつらい」

膝の訴えは、こうした生活動作の言葉として出てくることが多くあります。

痛みの場所だけでなく、どの動作で困っているのかが、そのまま評価の手がかりになります。

そして膝は、実際に痛みの発生部位としても頻度が高い部位です。

ある2016年のコホート研究では、痛みが発生する部位として、膝関節痛は30.6%と示されています。

背部痛の38.3%に次いで高く、四肢の関節痛として見ると、肩部や手関節、足関節よりも高い頻度です。

頻度が高いということは、臨床で出会いやすいということです。

同時に、慣れによる決めつけが起きやすいということでもあります。

高頻度
背部
38.3%

全体の中でも高い割合を示しています。姿勢や生活動作、慢性痛の文脈とも関わりやすい部位です。

四肢で目立つ
膝関節
30.6%

四肢の関節痛の中では特に高頻度です。日常動作への影響も大きく、丁寧な評価が必要です。

頚部22.7%
肩部21.9%
腰部20.4%
手部17.8%
手関節16.5%
足部15.4%
足関節12.5%
肘部8.8%

数字の使い方

膝関節痛が多いという事実は、「見慣れているから大丈夫」という意味ではありません。むしろ、よく出会う症状ほど、いつものパターンに当てはめすぎない注意が必要です。

多い症状は、雑に見られやすい

膝の痛みはよくある症状です。

よくある症状だからこそ、臨床では注意が必要です。

たとえば、中高年の膝痛を見た時に、すぐ「変形性膝関節症かな」と考えることがあります。

もちろん、年齢や症状の出方によっては、変形性膝関節症を疑うことは自然です。

しかし、膝痛の背景はそれだけではありません。

半月板、膝蓋下脂肪体、滑膜、鵞足部、半膜様筋、膝窩部の組織、股関節や足部からの影響、歩行や階段動作の代償など、確認したい要素は多くあります。

膝が痛いという訴えは同じでも、何が痛みを出しているのかは患者さんによって違います。

だから、「膝痛は多い」ことと「膝痛は簡単」は別です。

まなぶ先生
まなぶ先生

膝痛は多いので、つい変形性膝関節症や半月板をまず考えてしまいます。

瀬谷崎
瀬谷崎

候補として考えるのは大事です。ただ、そこで止まると雑になります。痛む場所、動作、経過、腫れや熱感の有無まで見て、何が主に関わっているかを絞る必要があります。

膝痛を見る時に、最初に分けたいこと

膝痛の評価で最初に考えたいのは、「膝のどこが痛いのか」です。

内側なのか、前側なのか、後ろ側なのか。

あるいは、関節全体が重だるいのか。

痛みの場所が変わると、疑う組織や見るべき動作も変わります。

次に、痛みがどの動作で出るのかを確認します。

歩き始めで痛いのか、階段で痛いのか、しゃがむと痛いのか、立ち上がりで痛いのか。

同じ膝痛でも、動作によって負担がかかる組織は変わります。

さらに、発症のきっかけも重要です。

外傷があるのか、徐々に出てきたのか、急に腫れてきたのか、スポーツ中にひねったのか。

このあたりを分けるだけでも、膝痛の見立てはかなり整理されます。

  • 痛みの場所は、内側・前側・後ろ側・全体のどこか
  • 痛みは、歩行・階段・しゃがみ込み・立ち上がりのどこで出るか
  • 外傷やひねったきっかけがあるか
  • 腫れ、熱感、ロッキング、引っかかり感があるか
  • 股関節や足部、歩行の影響がありそうか

「膝が痛い」だけでは、まだ何も決まらない

膝痛の患者さんが来た時に、最初からひとつの病名へ飛びつく必要はありません。

むしろ、「膝が痛い」という訴えは、まだ入口です。

そこから、どの組織が疑わしいのか、どの動作で痛みが再現されるのか、何を除外すべきなのかを整理していきます。

画像で変形があるから痛いとも限りません。

半月板損傷があるから、今の痛みの主因だとも限りません。

逆に、画像上は目立つ異常がなくても、滑膜や脂肪体、腱、筋、関節包、歩行中の代償などが痛みに関わっていることもあります。

だから、膝痛を丁寧に見るためには、病名だけでなく「痛みの出方」を見る必要があります。

決めつけない

膝痛は多いからこそ、見慣れた症状として流さない。頻度の高さは安心材料ではなく、評価を雑にしないための注意喚起として使いたいところです。

膝痛の入口から、各論へ進む

膝痛は頻度が高く、患者さんの生活にも直結しやすい症状です。

しかし、ひとことで膝痛といっても、その中身はかなり幅があります。

変形性膝関節症のように長期的な変化が関わるものもあれば、半月板や靭帯など外傷性の要素が強いものもあります。

膝の前側、内側、後ろ側で見るべき組織も変わります。

歩行や階段動作の代償から、股関節や足部まで見た方がよい場合もあります。

つまり、膝痛の総論で大事なのは「膝痛は多い」という事実で終わらせないことです。

多いからこそ、入口で丁寧に分ける。

そして、必要に応じて各論へ進む。

この流れがあると、膝痛の見立てはかなり落ち着きます。

膝痛は、現場で何度も出会うからこそ丁寧に

膝関節痛は、四肢の関節痛の中でも高頻度に見られる症状です。

それは、治療家にとって避けて通れない症状だということでもあります。

ただし、よくある症状だからといって、簡単な症状とは限りません。

痛みの場所、発症の経過、動作との関係、腫れや熱感、画像所見との関係、足部や股関節からの影響。

こうした要素をひとつずつ見ていくことで、膝痛の中身が少しずつ見えてきます。

多い症状ほど、決めつけずに見る。

膝痛の評価では、この姿勢がとても大切だと思います。

瀬谷崎
瀬谷崎

膝関節痛は、臨床で高頻度に出会う症状です。だからこそ、変形性膝関節症や半月板などの名前だけで処理せず、痛みの場所・動作・経過から丁寧に見立てる必要があります。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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