神経モビライゼーションは何を根拠に効くのか。神経内の血流と、すべらせる・張力の研究

その神経症状、神経の外だけを見ていませんか

神経モビライゼーション(スライダーとテンショナー)を、研究で分かっていることから整理します。着目されやすいのは絞扼部位などの神経の外ですが、神経の中で起きている変化にも目を向けると、手技の選び方が変わってきます。

この記事について

神経モビライゼーション(神経モビ)は、神経のすべりや張力に働きかける手技です。ここでは、神経の外だけでなく中で起きる変化に着目する理由、研究で分かっていること、スライダーとテンショナーの違い、症状が強い時期の進め方を整理します。手技の具体的な手順や、しびれへの介入の組み立ては、それぞれ別記事にまとめています。

著者アイコン 伊藤聡史

神経障害を考えるとき、どこで挟まれているか、どの筋や組織が関わっているかという、神経の外の話に目が向きがちです。ただ、神経そのものに障害があるときは、神経の中で何が起きているかも合わせて考える必要があります。

結論:神経モビライゼーションは、神経の外だけでなく、神経内の血流やすべりにも働きかける見方で組み立てる。症状が強い時期はスライダーから、反応を見ながら進めるのが実用的です。

末梢神経は、圧迫や伸張を受けると、神経内の血流やすべり(滑走)が影響を受け、痛みやしびれに関わる可能性があります。だからこそ、神経症状を見るときには、挟まれている場所という神経の外の要因だけでなく、神経の中で起きている変化にも目を向けたいところです。

神経は「外」だけでなく「中」も見る

神経障害を考える場合、着目されやすいのは、どこで絞扼(こうやく/挟み込み)が起きているか、どの筋やどの組織が関わっているか、という神経の外の病変です。もちろんこれは大切な視点ですが、それだけでは説明しきれない場面があります。

神経そのものに障害が生じているときは、神経の外だけでなく、神経の中で起きている変化にも着目して考えていく必要があります。具体的には、神経内の血流の低下や、神経が周囲との間ですべりにくくなること(滑走性の低下)です。

神経の外の視点 どこで挟み込まれているか(絞扼部位)、どの筋・組織が関わっているか。周囲の環境を整えることが中心になります。
神経の中の視点 神経内の血流が下がっていないか、周囲とのすべりが悪くなっていないか。神経そのものの状態に着目します。
合わせて見る意味 同じ症状でも、外の要因が主なのか、中の要因が主なのかで、手技の選び方や負荷のかけ方が変わってきます。

研究で分かっていること

神経モビライゼーションについては、基礎研究からレビューまで、いくつかの知見が積み重なっています。断定はできませんが、手技を選ぶうえでの手がかりになります。

基礎研究・レビュー 神経は強い圧迫や伸張を受けると、神経の中の血流が下がる可能性があります。強く伸ばしすぎない理由の一つがここにあります。
運動学のレビュー スライダーは神経をすべらせる量が大きく、テンショナーは神経にかかる張力が大きい傾向があります。同じ神経モビでも、神経に与える刺激の質が違います。
システマティックレビュー 神経モビライゼーションは、一般的な頚部痛や腰下肢痛で、短期的な痛みや機能の改善に役立つ可能性があります。
まだ分かっていないこと ただし、どの症状にどの手技が最適かは、まだ十分には分かっていません。反応を見ながら進める姿勢が前提になります。

神経の中の血流が下がるという知見と、スライダーは張力が小さくテンショナーは張力が大きいという運動学の知見。この2つが重なると、症状が強い時期にはまずスライダーから、という進め方の理由が見えてきます。

スライダーとテンショナーの違い

神経モビライゼーションには、大きく分けてスライダーとテンショナーの2つの考え方があります。神経の一方をゆるめて反対側を動かすか、両端から張力をかけるかで、神経への刺激の質が変わります。

スライダー:神経を「すべらせる」

スライダーは、神経の一方をゆるめながら反対側を動かし、神経を中ですべらせるイメージの手技です。神経にかかる張力は小さく、すべる量(移動)を大きくします。

神経スライダーの実施。頚部・胸椎を伸展させ、股関節を軽く屈曲させて神経をすべらせる。右側の図は神経がスムーズに移動するイメージ
スライダーの例。頚部・胸椎を伸展させ、股関節を軽く屈曲させて神経をすべらせる。神経の移動がスムーズになるイメージ。

テンショナー:神経を「やや引き伸ばす」

テンショナーは、神経の両端から少し張力をかけ、神経をやや引き伸ばすイメージの手技です。スライダーに比べて、神経にかかる張力が大きくなります。

神経テンショナーの実施。頚椎屈曲・胸椎伸展に膝伸展・足関節背屈を加え、神経に張力をかける。右側の図は神経が張るイメージ
テンショナーの例。頚椎屈曲・胸椎伸展に膝伸展・足関節背屈を加え、神経に張力をかける。神経が張り、伸ばされるイメージ。
ご注意

写真は施術者が行う実演です。神経症状がある状態でご自身が見よう見まねで行うと、かえって症状を強めることがあります。無理に真似はせず、気になる症状は専門家にご相談ください。

観点 スライダー テンショナー
イメージ 神経を中ですべらせる 神経を両端からやや引き伸ばす
神経への張力 小さい 大きい
使いどころ 症状が強い時期や、まず様子を見たいとき 反応を見ながら、段階的に導入していく

臨床応用のポイント

テンショナーは神経に張力を加えるような負荷がかかるため、症状が強い時期は控え、まずスライダーから実施するのが基本です。神経内の血流が下がっている場面では、強く引き伸ばす刺激がかえって負担になりうるからです。

  • 症状が強い時期は、張力の小さいスライダーから始める
  • 反応を見ながら、テンショナーを徐々に導入していく
  • 神経症状が誘発される場合は、無理な実践は控える
  • 神経の外(周囲の環境)の要因も合わせて整える
整理

神経症状の背景には、神経そのものだけでなく、神経内の血流の低下や、周囲とのすべりにくさが関わる可能性があります。だからこそ、いきなり強く伸ばすのではなく、反応を見ながら刺激の質と量を調整していきます。

具体的な実施手順や回数の目安は下肢の神経モビライゼーションとは?スライダーとテンショナーの使い分けに、しびれへの介入を神経の内と外で組み立てる考え方はしびれへの介入は神経を動かしすぎない。圧迫・血流・滑走性で組み立てるにまとめています。

出典

Lundborg & Rydevik. J Bone Joint Surg Br. 1973 / Coppieters & Butler. Man Ther. 2008 / Basson, et al. JOSPT. 2017 / Ellis, et al. J Man Manip Ther. 2021 より引用・改変。

関連症状:こんな訴えと合わせて見る

  • 腰から足にかけて、しびれや痛みが広がる
  • 手や腕にしびれ、だるさがある
  • 坐骨神経痛のような症状がある
  • ストレッチをすると、しびれが強くなる感じがある
  • 神経由来の症状かどうかを整理したい
重要

力が入りにくい、両手足に広がるしびれがある、排尿・排便の異常がある、安静にしていても強まる痛みやしびれがある場合は、まず医療機関での確認が必要になることがあります。

神経は、外と中の両方から見る

神経モビライゼーションは、神経のすべりや張力に働きかける手技です。スライダーは張力を抑えて神経をすべらせ、テンショナーは張力をかけてやや引き伸ばします。研究では、強い圧迫や伸張で神経内の血流が下がる可能性や、頚部痛・腰下肢痛で短期的な改善に役立つ可能性が示されています。

ただし、どの症状にどの手技が最適かは、まだ十分には分かっていません。だからこそ、症状が強い時期はスライダーから、反応を見ながら段階的に進める姿勢が大切になります。

とんとん整骨院では、症状の出ている場所だけでなく、神経の外の環境と神経の中の状態の両方から、身体の状態を多角的に見極めることを大切にしています。

著者アイコン 伊藤聡史

神経の外を整えることと、神経の中の状態に配慮すること。この両方があってはじめて、手技の選び方や進め方に理由が生まれます。強く伸ばせばよいわけではない、というのが大切なところです。

伊藤聡史
株式会社とんとん/とんとん整骨院。臨床技術責任者。柔道整復師。

臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」講師。院内では臨床研修責任者として若手の技術指導を担い、論文抄読会の主催など、根拠に基づく施術(EBM)の浸透に取り組んでいる。

監修:瀬谷崎将也
とんとん整骨院代表・柔道整復師

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