凍結肩にサイレントマニピュレーションを勧めるか。拘縮期の紹介判断と術後リハビリの連携
セラピスト向け
凍結肩の患者に、授動術という選択肢をどう切り出すか
とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで、実際に挙がった相談です。四十肩・五十肩の施術がなかなか実を結ばない中、病院でサイレントマニピュレーション(麻酔下徒手授動術・じゅどうじゅつ)を受けた患者さんが大きく改善し、「治療院より整形外科のほうが早いのでは」と揺らいだという内容でした。この相談を起点に、拘縮期の凍結肩でこの選択肢をどう患者さんに示すかを考えます。
相談者の悩みは、四十肩・五十肩の患者さんが良くならないまま2ヶ月ほどで通院が途切れてしまうことでした。その中の一人、両肩とも強く痛んでいた患者さんが病院でサイレントマニピュレーションを受けたところ、かなり良くなったといいます。
「ワンチャン、治療院よりも整形に行ったほうが早いんじゃないかと思い始めてしまって」という率直な言葉から、議論が動き出しました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎サイレントマニピュレーションはどんな処置か
サイレントマニピュレーションは、麻酔で痛みを抑えた状態で医師が肩を他動的に動かし、硬く縮んだ関節包を広げる処置です。施術後の数日間は強い痛みと機能低下を伴いますが、その後は急速に可動域が改善していくケースが多いとされています。
その場でも「ここ数年、いい話しか聞かない気がする」「整形外科では拘縮期以降のスタンダードな治療に割となってきている印象」という声が重なりました。ただし適応の判断は医師の領域で、施術者にできるのは情報提供と紹介までです。
凍結肩の病期の見立てや治り方の個人差については3タイプ分類の記事で扱っているので、そちらをご覧ください。
見学経験のある参加者が語った、実際の術後経過
参加者の一人は、サイレントマニピュレーションを行う整形外科へ見学に入り、医師の診察を見られる立場にありました。その経験談によれば、術後2日間ほどは腕が使えなくなるほど痛むものの、その後2週間ほどで拘縮が抜けていく経過が多いとのこと。
ウェブ上では「麻酔が切れると痛みがぶり返すこともあります」という控えめな書き方も見られますが、実際に経過を見ているとだいたいぶり返す印象だ、という率直な話もありました。
一方で、数年前に「術後成績があまり良くなかった」という話を医療職から聞いたことがある、という参加者もいました。議論の中では、鑑別や関節包の評価の精度によって結果が変わるのではないかという見方が出ています。
良好な報告が多いとされる処置でも、どの病院へ送るかを含めて、確かめられる範囲で実際の経過を知っておく価値はありそうです。
デメリット込みで説明し、患者さんに選んでもらう
その参加者の院から見学先の整形外科までは、車で2時間かかります。術後2日間は車に乗れず家事もできない、と伝えると、「それなら地道に治すわ」と選ぶ患者さんが多いそうです。
逆に通える範囲に病院があるなら、処置の内容、直後の痛みと生活制限、その後の回復の経過、通院の負担まで全部説明した上で「やりますか、やりませんか」は患者さんに決めてもらう。これが共有された提示の型でした。
どんな処置か(麻酔下で関節包を広げる)/直後数日の強い痛みと生活制限(運転・家事・仕事)/その後の回復の見通し/術後リハビリの必要性と通院負担/受けない選択もあること。この一式を並べてから、患者さんに選んでもらいます。
別の参加者は、患者さんがどちらでも良いという状態なら絶対に勧める、と話していました。「絶対早いよ。ただ2日間ちょっと痛くて、1日だけ眠れなくなったり、2日間だけ腕を吊って使えなくなるけど大丈夫そうですか」とデメリットまで具体的に伝えるそうです。
それでも受けると選んだ患者さんは、術後すいすい腕が上がっていたそうです。デメリットを許容してでも早く回復したい人には、積極的に勧めてよい選択肢だといえます。
説明を尽くした上で本人に選んでもらう形は、共有意思決定(SDM・エスディーエム)の考え方とも重なります。
紹介後の術後リハビリは自院で引き継ぐ
授動術で可動域が出ても、それで完結ではありません。筋力低下を防ぐためのリハビリが術後も必要で、ここが施術者の受け持ちになります。
検討で共有されたのは、紹介の時点で「サイレントマニピュレーションをやってもリハビリは必要だから、リハビリはうちでやりましょうね」と先に伝えておく形でした。すると患者さんは、病院で注射などの処置を受けながら自院にも通い続けてくれるといいます。
五十肩の患者さんは途中で通院が途切れやすい、という実感は多くの参加者に共通していました。その中で、実情をきちんと説明した患者さんほど通い続けてくれるという経験談は示唆的です。
整形外科と患者さんを取り合う構図ではなく、処置は病院、術後の運動と経過の管理は自院、という分担で連携する形が現実的だと思います。
- 拘縮期以降の凍結肩では、サイレントマニピュレーションが選択肢に挙がる(適応判断は医師の領域)
- 術後数日の強い痛み・生活制限と、その後の急速な回復傾向をセットで説明する
- 通院距離・運転・家事など生活面の負担まで並べて、患者さん自身に選んでもらう
- 紹介の時点で「術後のリハビリは自院で」と伝え、受け皿を先に作っておく
- 受けない選択をした患者さんには、施術での経過管理をそのまま続ける
選択肢を並べて示すのも、施術者の臨床
自分の手技だけで良くすることが、施術者の価値のすべてではありません。手技の外にある有効な選択肢を知り、負担と回復の見通しを患者さんの生活の言葉に置き換えて伝え、選んだ後の受け皿になる。
「治療院より整形のほうが早いのでは」という揺らぎは、抱え込みから連携へ切り替える合図になります。
瀬谷崎




