急性腰痛はどこからか。持ち上げた瞬間の腰と、午後から急に痛む腰
セラピスト向け
ぎっくり腰の線引きに迷ったら。急性・慢性という区分の使いどころ
重い物を持ち上げた瞬間に痛めた腰なら、迷わず急性と呼べます。では、午前中は普通に仕事ができていたのに、午後から急に痛くなって体を起こせなくなった腰はどうでしょうか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった「どこからが急性腰痛なのか」という質問をもとに、この区分の扱い方を考えます。
質問の背景はこうです。物を持ち上げてのぎっくり腰なら急性らしいと言える。一方で、午前中は仕事ができていたのに午後から急に痛くなり、来院時にはかがめない、というパターンもよくある。ぎっくり腰かなというニュアンスで説明して介入はしているが、ほかの治療家はどこで線を引いているのか、という問いでした。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎定義はあるのに、線引きは曖昧なまま
便宜的な定義としては、発症からおおむね1ヶ月以内の腰痛を急性とする区分があります。ただ、急性・慢性という表現そのものが非常に曖昧で、どこからを急性腰痛と呼ぶかは、改めて問われると答えにくい問題です。
両端は分かりやすいのです。重い物を持ったその瞬間に痛みが出たなら急性らしい。何ヶ月も痛みが続いているなら慢性らしい。困るのは中間で、ここ2、3日じわじわ痛みが増えて動けなくなった、という例を急性と呼ぶかどうかは判断が割れます。こうした例では急性か慢性かという期限で考えず、腰痛という症状として捉えて評価を進める、という考え方が共有されました。
もうひとつの理由は言葉の成り立ちです。急性腰痛という用語は、外傷とまでは言わないにせよ何らかの外力を想定し、バイオメカニクス(生体力学)の枠組みで判断する流れになりやすい。その前提が合わない発症も多いので、いわゆるぎっくり腰というラベルをあまり強く意識しない、という立場でした。
発症1ヶ月以内という便宜的な定義はあるものの、急性・慢性の線引き自体が曖昧です。中間の例を無理にどちらかへ入れるより、誘発動作・経過・所見から症状として評価するほうが実務に合う、というのが検討の場で共有された立場です。
BPSモデルで見ると、急性の起点は外力だけではない
BPSモデル(生物心理社会モデル)で考えると、この線引きはさらに揺らぎます。極端な例として、上司に強く叱責されてストレスが最大になった瞬間に発症した腰痛を考えてみます。発症様式だけを見ればまぎれもなく急性腰痛ですが、一般にイメージされる急性腰痛とは病態が大きく違う可能性が高い。
つまり、急に痛くなったという事実だけでは、外力による発症ともストレス起点の発症とも決められません。その判別は難しく、しかも介入方法自体はそれほど大きく変わらない。だから急性・慢性という分け方を積極的には使わない、という結論につながります。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎区分が生きるのは、患者さんへの説明の場面
今日の負荷で急に痛くなったパターン、たとえば物を持った直後の発症であれば、押圧の確認検査(とんとんではANOテスト(あのテスト)と呼んでいる検査です)で負担のかかった筋を確かめながら、「いま急に起きているのは炎症反応が出ているから」という説明とつなげやすくなります。逆に、積み重なって痛くなったパターンでは、炎症の話を前面に出さず、負担のかかり方から説明します。
では実際に炎症が起きているのかというと、そこは断定しません。どちらにしても、数日でピークを越えれば軽くなっていく経過が多いという臨床印象があり、「ピークを越えれば落ち着くので、いまつらくても動かしていって問題ない」という見通しを伝える形が支持されました。炎症が起きている、組織が傷ついている、といった表現は動作を控えさせる方向に働きやすく、多くの急性経過の腰痛では「落ち着いていきますよ」型の説明のほうがメリットが大きい、という印象も共有されています。
冷やしたほうがいいかと聞かれたときも同じ姿勢です。断定せず、試しに今日冷やしてみて気持ちよければ続け、そうでなければ無理に続けなくていい、と返す。可否を決めつけない濁し方が、かえって実用的だという話になりました。
- 今日の負荷で急に痛んだ例は、炎症反応の説明と組み合わせやすい
- 積み重なり型では炎症を前面に出さず、負担のかかり方から説明する
- 炎症の有無は断定せず、ピークを越えれば落ち着く見通しを伝える
- 傷ついた・炎症といった言葉が動作の自粛につながらないよう言葉を選ぶ
- アイシングは試してもらい、心地よければ続ける程度にとどめる
ひとつ前提を添えると、転倒や事故のようなはっきりした受傷機転がある場合や、下肢のしびれ・筋力低下など神経の症状を伴う場合は、急性か慢性かの区分以前に医科での評価が先です。診断は医師の領分であり、私たちの説明はその手前の見通しの共有にとどめます。
仙腸関節性腰痛も、介入の枠組みは大きく変わらない
同じ検討では、仙腸関節性腰痛をなぜ講座の対象に入れていないのか、という質問も続きました。理由は二つで、他の腰痛と比べて介入方法に大きな違いがないこと、そしてエビデンス(科学的根拠)が非常に弱く一般化しにくいことです。なお、仙腸関節由来かどうかを見立てるスクリーニング(複数の所見を点数化する方法など)の話も出ましたが、それはここでは踏み込みません。
ただし、やることがないわけではありません。仙腸関節性を疑う場合には、仙骨のニューテーション(前方回旋)を誘導する手技を行うことがあります。理屈のうえでは、高まった関節内圧を除圧する目的とされる手技です。その病態理解が適切か、実際に除圧できているかは別の問題としつつ、経験的には結果が出る印象がある、という位置づけで共有されました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎
瀬谷崎





