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施術の8割は患部の外。隣接関節を優先する理屈と、筋硬結に鍼で切り替える例外

患部外からの施術を基本に置く理由と、硬結ピンポイントに切り替える条件

腰が痛い患者さんの腰に、最初から手を入れるべきか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで、鍼を使う参加者から硬結の扱いと腰椎への直接介入について質問が挙がりました。検討の場で共有された「痛いところを触らない」運用の理屈と、筋硬結だけをピンポイントに狙う例外条件をたどります。

とんとんの施術では、痛みを訴える場所そのものに介入しない場面が全体の8割ほどを占める、という感覚が検討の場で共有されました。腰痛の方の腰、肩の痛みの方の肩に、初回から直接手を入れることはむしろ少数派です。

これは技の見栄えを狙った方針ではありません。臨床的な理由とリスク管理の理由が半々ぐらい、という位置づけで運用されています。まずこの二つから確かめます。

まなぶ先生まなぶ先生

鍼を持っていると、どうしても硬結を探しがちです。触れて硬いところが見つかると、そこが原因に見えてしまう。触察の癖として自覚があります。

教子先生教子先生

「硬い=悪い場所とは限らない」という話と、「筋硬結は痛みを出す」という話が、頭の中で混ざりやすいんですよね。矛盾しているようにも聞こえますし。

瀬谷崎瀬谷崎

そこは層を分けたいところです。硬い・緩いの議論はまず関節の話で、筋硬結はまた別の話なんです。今日はこの二つを分けたまま話を進めます。

患部外から進める、二つの理由

一つ目は、隣接する関節へのアプローチで大きな改善が見込める場合が多いことです。腰であれば胸椎や股関節のエラーを先に確かめ、そちらへの介入から進めます。患部に触れるまでもなく症状が動くなら、患部を刺激する必要はありません。

二つ目はリスク管理です。腰が痛い方の腰をマッサージして、翌日に痛みが強まって整形外科を受診したとします。こちらの介入が原因でなかったとしても、患者さんの側からは「あの施術のせいで悪くなった」と結びつけて見えます。

加えて、患部への刺激そのもので実際に痛めてしまう可能性もゼロではありません。増悪の誘発と、増悪の誤った帰属。この両方を避ける意味で、患部への直接刺激は後ろに置く、というのが検討で共有された理屈です。

  • 隣接関節へのアプローチだけで、大きな改善が見込める場合が多い
  • 患部刺激の後に増悪が起きると、原因でなくても施術と結びつけられやすい
  • 患部への刺激で実際に痛めてしまう可能性も残る
  • 見栄えの話ではなく、臨床的な理由とリスク管理が半々の運用

硬い・緩いの議論は、まず関節ベースで

硬いところが痛いのか、緩いところが痛いのか。この議論の土台は、筋ではなくまず関節です。関節の動きすぎ(ハイパーモビリティ=過剰運動性)や動きの少なさが機能障害を起こす、という文脈で「硬い・緩い」を考えます。

一方、筋を触察して当たる硬結は、この関節の議論とは別のレイヤー(階層)の話です。検討ではカルシウムイオンが関わる機序の流れに触れたうえで、要点は一つに絞られました。筋硬結は、それ自体が痛みを出すということです。

論点の切り分け

関節の「硬い・緩い」は機能障害の議論、筋硬結は「痛みを出す組織」の議論。硬結が痛みの発生源だと判断できるなら、そこへ鍼を打つ、トリガーポイント的に徒手で介入する、という選択は十分に成り立ちます。

筋硬結は別の話。狙うならピンポイントで

筋硬結は筋肉全体の問題ではなく、筋線維の特定の一部分の変性です。だから介入もその一点に絞るのが原則で、即効性も出やすい。鍼は特に、硬結を狙ったほうが効かせやすいという臨床印象が検討の場で共有されていました。

ここで一つ、注意が要ります。腰部を深めに触診すると、脊柱起立筋のあたりに硬結めいたものが触れることはよくあります。そのとき「硬いから緩める」と筋全体のリラクセーションに進むかどうかで、話が大きく変わります。

危険な組み合わせ

腰部の屈曲症候群のように屈曲方向の制動が必要な病態で、脊柱起立筋を全体的に緩める徒手介入をすると、制動がさらに利かなくなります。硬結ポイントだけを解除する介入と、筋全体を緩める介入は、同じ「緩める」でも別物として扱います。

教子先生教子先生

起立筋の緊張が制動の代償になっている患者さんだと、全体を緩めた直後は楽でも、その後の悪化につながりかねませんね。

まなぶ先生まなぶ先生

硬結に絞るなら制動は保たれる、というのが使い分けの根拠ですね。もう一つ、隣接関節と言うなら、胸椎の前に上部腰椎そのものを動かす選択はどう扱うんでしょう。

瀬谷崎瀬谷崎

その質問も検討の場で実際に挙がりました。やるときもありますが、優先順位で言うと4〜5番目ぐらいに置いています。

上部腰椎への直接モビリゼーションは、4〜5番目の選択肢

上部腰椎へのモビリゼーション(関節の動きを他動的に引き出す徒手操作)を行う場面はあります。ただし基本の運用で結果が出ないときに検討される位置づけで、順番としては4〜5番目ぐらい。最初から患部近くの分節を直接動かしにはいきません。

厳密に言えば、脊椎は1個1個の椎骨で考えるのがおそらく正確です。実際にそういう運用を試した時期もあったものの、結果に大きな差が出なかったとのこと。体系化のコストパフォーマンス(費用対効果)を踏まえ、腰椎・上位胸椎・下位胸椎という区分で運用されています。

区分の考え方

1椎骨ずつの厳密さと、区分で回す再現性。差が出ないなら、チームで共有しやすい粗さを選ぶ。分け方そのものより、結果が出ないときに細かい階層へ降りられることが大事です。

患部の硬結に切り替える条件

では、患部の硬結へ実際に切り替えるのはいつか。検討で共有された運用は、回数と経過と患者さんの訴えの三つで決まります。

  1. 介入回数が進んでいる患部に鍼を打つのは、少なくとも介入が2〜3回進んでから。初回から患部を刺激する選択は取りません。
  2. 経過が停滞している例えば5〜6回の介入でNRS(痛みの数値評価スケール)がほぼ0に近づいたところで、足踏みが続いている。
  3. 患者さんがピンポイントで訴える「この硬結が痛い」と場所を特定して訴えがある。ここがそろって初めて患部が狙いになります。
  4. その一点だけに介入するその硬結だけに1〜2本の鍼で介入し、症状がスッと抜ければ良し、という運び方です。

逆に、患部刺激の後に増悪が続く場合や、運動器の型で説明のつかない経過が続く場合は、施術を重ねるより先に医科の評価を挟む判断が優先されます。切り替えの例外は、除外が済んでいることが前提です。

瀬谷崎瀬谷崎

患部外から進めるのは、硬結への介入を否定する話ではありません。関節ベースの評価で大枠を動かし、それでも残った一点を、条件がそろったときに鍼で狙う。順番を守ることが、結果的に硬結アプローチの切れ味を保つのだと考えています。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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