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あぐらがかけない40代男性の股関節痛。押圧で反応が乏しいとき深部の内転筋をどう疑うか

収縮時痛の有無が仮説を進めた。内転筋の深部を追いかけた2回の症例検討

あぐらをかこうとすると股関節の付け根が痛む40代男性。押して確かめる検査では反応が乏しく、原因の筋がなかなか絞れません。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに、この症例は初回と数週間後の2回挙がりました。検討のたびに仮説がどう書き換わっていったか、時系列で追います。

検討の対象は40代男性です。春に引っ越しの作業で全身が筋肉痛になり、それが引いた後も内ももの痛みが残って、あぐらがかけなくなりました。歩くときは痛みません。

病院でMRI(磁気共鳴画像)とレントゲンを撮っても炎症や骨の異常は指摘されず、痛み止めの処方で経過観察となりました。発症から数か月が過ぎても、股関節の付け根、恥骨結合付近の際どい場所に圧痛が残っています。

  • あぐらをかこうとすると股関節の付け根が痛み、膝を床へ近づけられない
  • 合蹠(がっせき・足裏を合わせて膝を外へ開く姿勢)では痛みが出にくい
  • あぐらのまま骨盤を立てて前傾すると痛みが強くなる
  • ゴルフのスイング最終域でも痛むが、右足を外旋位に置く工夫で回避できた
まなぶ先生まなぶ先生

圧痛の位置と、伸ばされる条件で痛む出方からは内転筋群が第一候補ですね。ただ、あぐらは股関節を深く曲げた肢位なのに痛むという、単純には合わない点もあります。

教子先生教子先生

きっかけが引っ越し後の筋肉痛というのも気になります。数か月も残っているとなると、通常の筋損傷の回復とは別の要素を考えたくなりますね。

瀬谷崎瀬谷崎

この症例は2回の検討で仮説がだいぶ動きました。検査で反応が出なかったという結果も、手がかりとして拾っていきます。

初回の検討。肢位で痛みが変わる出方を追う

仰向けで膝を伸ばしたままの外転は50度ほどで痛みが出ます。一方、股関節を90度以上曲げて膝も曲げた開排の動きはある程度開き、そこへ外旋を加えると痛みが出ました。

特徴的なのは、あぐらでは痛むのに、合蹠のストレッチでは膝が床へ近づくところまであまり痛まないことです。あぐらのまま骨盤を前傾させると、痛みは強まります。

ゴルフではバックスイングの最終域で右、フォロースルーの最終域で左の股関節が痛みます。ただし右足を外旋位に置くと痛まず、その工夫でラウンドを回りきれたそうです。

肢位の読み

外旋位で回避できることから、内旋の要素が加わって内転筋が伸ばされる条件で痛む、という共通項が見えてきます。肢位で症状が変わる事実そのものが、原因筋を絞る手がかりになります。

押圧で反応が乏しいとき、表層ではなく深部を疑う

担当者はANOテスト(とんとんで使っている確認検査の呼び名。症状が出る動作の最中に候補の筋を押圧し、症状の増減から原因筋を絞り込みます)を試していました。ところが、痛くない範囲のあぐら動作で内転筋群を押さえ込んでも、はっきりした増減が出ません。

候補は恥骨筋・長内転筋・短内転筋・薄筋と広く挙がりました。膝を曲げた肢位でも痛む点から、膝をまたぐ薄筋は考えにくい。圧痛が恥骨結合付近の付着部にあることは、恥骨筋や長内転筋・短内転筋のラインと合います。

検討で挙がったのは、押圧が表層で止まり、小内転筋や長内転筋の深い層といった深部に届いていない可能性です。押して反応が出ないことは、内転筋の除外を意味しません。

施術は週1回。ラジオ波で温めながらストレッチを行い、筋走行に垂直方向の圧を一筋ずつ加えていきます。痛みの強さは当初の3割ほどまで減り、頻度も下がりました。それでも施術直後の改善は次の来院時に戻り、膝が床につく最終域には届きません。

ストレッチによる可動域の改善は、組織が物理的に伸びるというより刺激への慣れ(馴化・じゅんか)が主なメカニズムだという理解が検討の場で共有され、無理のない範囲で続ける方針になりました。

まなぶ先生まなぶ先生

直後は良くなって、また戻るの繰り返しですね。攣縮が主体なら、収縮させたときの痛みも確かめたいところです。

教子先生教子先生

発症から時間が経っているので、癒着のように組織の側が変わっている可能性もありますよね。それなら温めとストレッチだけでは動きにくいのも説明がつきます。

瀬谷崎瀬谷崎

数週間後の検討で、ちょうどその線に仮説が進みました。

数週間後の再検討で、線維化・癒着の可能性へ

開排の角度は片側45度ほどだったのが、施術後は60度ほどまで開くようになりました。ただ、そこから先は鍼やリラクゼーション系の手技を加えても変化が出にくい状態です。

手がかりになったのは、収縮時痛がないことでした。筋攣縮が主体なら、収縮させたときにも痛みが出やすいはずです。伸ばすと伸長感ではなく痛みが出る。この組み合わせから、攣縮のような筋の緊張よりも、線維化や癒着のような組織の側の変化が制限を作っている可能性へ仮説が進みました。

一方で、股関節を90度以上深く曲げた外転はある程度開くのに、90度より浅い角度では痛みが出やすく、深く曲げているはずのあぐらで痛むという一致しない所見も残っています。仮説はあくまで仮説として持ち続けます。

仮説の更新

収縮時痛なし、伸長時痛あり、施術直後だけの改善。この3つの組み合わせから、攣縮より線維化・癒着を疑う流れになりました。断定ではなく、検討の場で共有された臨床的な見立てです。

内転筋を一筋ずつ、肢位を変えて評価する

腰痛の検討では、内転筋をひとまとめに扱ってよい場面もあります。ただこの症例では、あぐらで最も伸ばされる内転筋はどれかを、一筋ずつ選択的に確かめる方向になりました。内転筋は股関節の肢位(内旋・外旋)によって伸ばされ方が大きく変わり、同じストレッチでも肢位しだいで反応に差が出るためです。

恥骨筋の関与を疑うなら、恥骨筋が伸ばされる肢位で痛みが再現されるかを確かめます。また大内転筋への圧迫は大腿の中央より少し上で行っていたため、付着部に近い近位部を広く圧迫する方法も候補に挙がりました。

  1. 個別ストレッチで再現を確かめる恥骨筋など候補の筋を一筋ずつ、肢位を変えながら伸ばし、痛みの再現性を見ます。
  2. 近位を広く圧迫する付着部に近い位置で広めに圧をかけ、深部の筋の反応を確かめます。
  3. 超音波の導入を検討する院にあるラジオ波(モノポーラー・単極式)は届く深さが浅いため、深部に届く手段として超音波を候補にします。
  4. 当てながら開排動作導入できれば、当てながら開排の動きを繰り返し、可動域の変化を追います。

部位が鼠径部の際どい場所になるため、目的を説明して同意を得たうえで進めることが前提です。この症例は現時点で、超音波の導入を検討する段階にあります。経過が長く原因のはっきりしない痛みでもあるので、変化が乏しいときは、改めて医師への相談を勧める選択肢も残しています。

まなぶ先生まなぶ先生

初回は内転筋群、としか言えなかったのが、収縮時痛の有無ひとつで見立てがはっきりしましたね。

教子先生教子先生

反応が出なかった検査も、押す深さや肢位を変える理由になっています。陰性の積み重ねが、次の評価を形作っていく感覚ですね。

瀬谷崎瀬谷崎

1回の評価で答えが出ない症例は珍しくありません。反応を見て仮説を書き換え、届いていない可能性があれば手段を変える。この繰り返しそのものが評価だと考えています。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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