1年以上続くかかとの痛み。踵骨の骨棘を第一に疑う鑑別と、患者への説明の組み立て
セラピスト向け
かかとの慢性痛、骨棘の疑いにどう説明を添えるか
立ち仕事の50代女性、かかとの痛みが1年以上続いている。押すと痛むのは骨棘の好発部位なのに、一番つらいのは仕事後に座って昼食をとっている時のジンジンした痛み。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、長期化したかかとの痛みの鑑別の組み立てと、患者さんへの説明のしかたを考えます。
相談されたのは50代女性の症例です。スーパーでの立ち仕事をされていて、かかとの痛みが1年以上続いています。来院までに自費の治療院を2院(オステオパシー系の施術と、90分かける筋膜リリース)経ており、整形外科は受診していません。当初のピークと比べれば3割ほどまで軽くなっているものの、「なぜ1年もずっと痛いままなのか」という疑問を抱えたままの来院でした。
- 一番痛むのは、仕事を終えて帰宅し、昼食をとっている時。座っているとジンジンしてくる
- 朝一番の痛みはあるが「当たり前に痛いから耐えられる」程度で、仕事中はほぼ気にならない
- 押して痛むのは骨棘の好発部位と、踵骨の内側〜側面。足の甲にかけての違和感もある
- ウィンドラステストでは疼痛誘発されず、足関節の背屈制限も顕著でない。しゃがみ込みもできる
- 片足のつま先立ちは、症状のある右がやや上がりにくい
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎期間・年齢・性別から、踵骨の骨棘を第一仮説に置く
検討では、疼痛誘発が難しいこの症例に対して、経過の長さと50代女性という属性から、踵骨の骨棘の関与を第一に疑う見立てが共有されました。押して痛む場所が骨棘の好発部位と重なること、踵骨の内側にも痛みがあることは、骨棘や踵部の脂肪体の関与を支持する材料になります。
座っているとジンジンしてくる出方は一見ピンときませんが、立ち仕事を終えた後の時間帯だと考えれば、骨棘の症例として不思議ではないという臨床印象も挙がりました。負荷がかかっている最中よりも、負荷が抜けた後にジンジンと出てくる人はいる、という位置づけです。
一方で、足底腱膜炎の典型からは外れます。ウィンドラステスト(母趾を反らせて足底腱膜に張力をかける誘発テスト)は陰性、背屈制限も顕著でなく、しゃがみ込みもできる。すでに2院で施術を受けてきた経過も合わせると、背屈やアーチの改善だけを軸に据える組み立ては選びにくい状況です。
仕事のない日に、買い物や家事をして自宅で昼食をとった場合にも同じ痛みが出るか。ここが切り分けの起点になります。休みの日には出ないなら、仕事での立ち時間や靴という要因を見にいく。日常生活への支障が小さい症例ほど、生活条件の聞き取りが評価の中心になります。
足根管症候群の評価に、もう一手を足す
座位でのジンジンした感覚からは、足根管症候群(足首の内側で神経が締めつけられる病態)の線もまだ消せません。担当者が行っていたのはチネル徴候の叩打のみで、結果は陰性。検討では、評価をもう一段進める案が出ました。
挙がったのがトリプルコンプレッションストレステストです。足根管の部位を指で圧迫しながら背屈方向のストレスを加え、症状が再現されるかを見ます。検討の場では特異度がかなり高い検査として名前が挙がりましたが、記憶ベースの共有だったため、原著の数値と手順を確認したうえで試す方針になっています。
特異度が高い検査は、陽性のときに仮説を確定方向へ寄せる力が強い検査です。チネル徴候の陰性と合わせれば、足根管の線をどこまで残すかの判断材料が増えます。ただし本例の症状像は典型的な足根管症候群の絵とも重なりきらず、位置づけはあくまで除外側の確認です。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎骨棘の説明は、無症候性の割合とセットで
検討で時間が割かれたのが、骨棘の説明のしかたです。骨棘が原因だと言い切ってしまうと、患者さんには「骨が変形しているならどうしようもない」という受け取りが残りやすくなります。ここで根拠になるのが、無症候性の骨棘の存在です。
踵骨に骨棘があっても痛みのない人は、2〜3割程度いるのではないかという目安が検討の場で共有されました。記憶ベースの共有で、正確な割合は原典の確認が必要ですが、「骨棘イコール痛みの原因」とは言い切れないという方向は動きません。
だから伝え方はこうなります。骨棘が関与している可能性は高いとみている。ただ、骨棘があっても症状のない人が一定数いる以上、骨棘が残っていても痛みが徐々に軽くなっていくことは十分に目指せる。骨のせいで行き止まり、という話ではない。この順番でセットにして伝えたい、という方針が共有されました。
なお本例は整形外科を受診しておらず、画像でも確認されていません。骨棘はあくまで疑いの段階です。診断は医師の領分なので、経過や不安の強さに応じて、整形外科での画像検査を提案する選択肢は持っておきます。
1年続いた痛みは、慢性痛の枠組みで扱う
この患者さんは「1年以上も続くかかとの痛みなんてあるのか。実は何か変なものが隠れているんじゃないか」という不安を口にし、ご自身でも繰り返し検索していました。日常生活への支障は小さく、経過も上向きなのに、疑問が消えない。つらさの中心は痛みそのものより、この不安の側にあるように見えます。
であれば、「1年以上続くかかとの痛みは実際にありますよ」と伝えるだけでも、安心につながる余地があります。危険な病態の確認を進めたうえでそう伝えられれば、痛みへの気になり方そのものが変わってくるかもしれません。
そして1年を超えた痛みは、部位がどこであれ慢性痛です。検討では、痛みを減らすことを第一目標に置かず、「痛みがあっても大丈夫」という認識を持ってもらうことが結果的な鎮痛につながる、という慢性疼痛のオーソドックスな考え方が確認されました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎
瀬谷崎





