接骨院の複数部位請求で考えたい、患者さんの代理としての責任

患者さんが知らない部位で、請求していないか

複数部位の請求そのものが悪いわけではありません。本当に複数の外傷性の負傷があり、患者さんにも説明され、記録とも一致しているなら話は別です。問題は、患者さんが知らない部位まで、院の都合で増えていくことです。

受領委任は、患者さんの代わりに請求する仕組みです。それなのに、患者さん本人が「自分のどの部位で請求されているか」を知らないなら、かなり危ない状態です。

接骨院や整骨院の保険請求で、複数部位請求という言葉があります。

腰、股関節、膝。肩、首、背中。こうした形で、複数の部位を請求すること自体が、すべて悪いわけではありません。

実際に複数の外傷性の負傷があり、それぞれに根拠があり、患者さんにも説明されているなら、複数部位として扱う場面はあります。

ただ、少し辛口に言うと、「いつも2部位」「基本3部位」のような院内ルールになっているなら、それは臨床判断ではなく売上の都合に寄っています。

まなぶ先生
まなぶ先生

本当に複数箇所を痛めているなら、複数部位でも問題ないんですよね?

瀬谷崎
瀬谷崎

そこはそうです。問題は、痛めていない部位や、患者さんが知らない部位まで請求に入っているケースです。

Chapter 01

受領委任は「患者さんの代理」である

柔道整復の療養費は、本来であれば患者さんが費用を支払い、保険者に請求する償還払いが原則です。

接骨院・整骨院では、例外的な取扱いとして、患者さんに代わって施術者側が請求を行う受領委任という仕組みが使われています。

ここで大事なのは、「患者さんの代わりにやっている」ということです。

代わりに請求しているのに、患者さん本人がどの部位で請求されているか知らない。これは、かなりおかしな状態です。

患者さんの代理として請求するなら、患者さん本人が請求内容を理解していることが前提です。

患者さんに説明できない部位を、レセプト上だけ増やす。

これは単なる事務処理の問題ではありません。患者さんの名前を借りて、院の都合を通している状態になりかねません。

Chapter 02

複数部位の請求で見たいポイント

複数部位を扱う時は、まずそれぞれの部位に根拠があるかを見ます。

いつ、どこで、何をして、どの部位を痛めたのか。患者さんがその部位の痛みや負傷を認識しているのか。記録と説明が一致しているのか。

このあたりが曖昧なまま、部位数だけ増えるなら危険です。

負傷部位

問題が少ない

患者さんが自覚し、説明も一致している

危ない

患者さんが知らない部位が入っている

負傷機転

問題が少ない

部位ごとに外傷性のきっかけを説明できる

危ない

院内ルールで部位が足されている

記録

問題が少ない

問診、所見、請求内容がつながっている

危ない

記録だけ後から合わせている

説明

問題が少ない

患者さんにも保険者にも同じ説明ができる

危ない

聞かれると答えに詰まる

正しい請求は、本来そこまで複雑なものではありません。

怪我をしたところを、怪我をした分だけ、根拠を持って扱う。患者さんに説明する。記録する。基本はここです。

Chapter 03

「うちは基本3部位です」は臨床判断ではない

問題になりやすいのは、複数部位請求が院内ルールのようになっているケースです。

患者さんがどこを痛めたかより先に、「この症状ならこの部位も入れる」「腰なら股関節もセット」「だいたい2部位で出す」といった運用がある。

これでは、臨床判断ではなく、請求の型に患者さんを合わせていることになります。

ここは立ち止まりたい

部位数は、売上予算や院内ルールから決めるものではありません。患者さんの負傷内容、所見、説明、記録から決まるものです。

もちろん、現場で働いているスタッフがひとりで逆らうのは難しいこともあります。

でも、「会社がそう言っているから」で自分の判断を完全に手放すのは危険です。請求の現場に関わっている以上、自分の名前と判断も残ります。

まなぶ先生
まなぶ先生

勤務している立場だと、会社のルールに逆らいにくいですよね。

瀬谷崎
瀬谷崎

それは分かります。ただ、だからこそ就職先や働く環境を選ぶ時に、保険請求の考え方はかなり大事です。

Chapter 04

患者さんが知らない請求は、かなり危ない

複数部位請求で特に危ないのは、患者さん本人が請求内容を知らないことです。

患者さんは腰の相談で来たつもりなのに、請求上は股関節や膝も入っている。患者さんは説明を受けていない。サインだけしている。

この状態で「患者さんの代理として請求しています」と言えるでしょうか。

患者さん側から見た違和感

後から「自分はその部位を痛めたと言っていない」「そんな説明は受けていない」となれば、信頼は一気に崩れます。保険請求は院内だけで完結する話ではありません。

サインをもらっているから大丈夫、ではありません。

何に同意しているのか、何を代理で請求しているのか。そこが分からないまま進んでいるなら、同意としてかなり弱いです。

Chapter 05

知らなかった、では済まない場面がある

若手や勤務柔整師にとって、会社の指示は重いです。

先輩がそうしている。院長がそう言う。売上予算がある。請求の担当者からそう教えられた。

そういう環境にいると、「自分は言われた通りにやっているだけ」と思いたくなります。

ただ、不適切な請求に関わっている場合、あとから「知らなかった」「指示されただけ」と言えば全部守られる、とは考えない方がいいです。

少し辛口に言うと

患者さんが知らない部位を請求に入れる仕組みで働き続けるのは、自分のキャリアをその仕組みに預けることでもあります。違和感があるなら、早めに距離を取る判断も必要です。

もちろん、法律上の判断は個別事情によります。ここで軽々しくすべてを断定する話ではありません。

それでも、自分が説明できない請求に関わり続けることは、臨床家としてかなりしんどい状態です。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、患者さんへの説明と請求内容がずれないことを大切にしています。

保険が使えるかどうか、どの部位が対象になるかは、院の売上都合で決めるものではありません。患者さんの状態、負傷の経緯、制度の対象範囲、記録を合わせて考えるものです。

そして、患者さん本人が理解していない請求は、どこかで無理が出ます。

瀬谷崎の考え方

受領委任は、患者さんの代理です。代理である以上、患者さんが知らない内容で進めるのはかなり不自然です。複雑な制度の前に、そこはシンプルに考えた方がいいと思っています。

Chapter 06

若手柔道整復師が確認したいこと

若手のうちは、請求の仕組みを職場で教わることが多いと思います。

だからこそ、その職場の当たり前をそのまま正解にしない方がいいです。

  • 患者さんが請求部位を理解しているか
  • 部位ごとに外傷性の根拠を説明できるか
  • 問診内容、所見、請求内容が一致しているか
  • 院内ルールで部位数が先に決まっていないか
  • 違和感を相談できる上司や環境があるか

この確認で言葉が詰まるなら、無理に飲み込まない方がいいです。

自分の技術を伸ばすことも大切ですが、自分の名前で説明できない環境から距離を取ることも、長く働くためには大切です。

請求内容を、患者さんに説明できるか

複数部位請求そのものを、全部悪いと決めつける話ではありません。

本当に複数の外傷性の負傷があるなら、その状態に合わせて扱うことはあります。

ただし、患者さんが知らない部位、説明できない部位、院内ルールで足された部位があるなら、それは立ち止まるべきサインです。

保険請求は、患者さんの名前を使う手続きです。だからこそ、患者さん本人に説明できない内容で進めない。ここを守るだけでも、かなり多くの問題を避けられると思います。

瀬谷崎
瀬谷崎

迷ったら、患者さんにそのまま説明できるかを見ればいいです。説明できない部位を請求に入れているなら、それはかなり危ない。制度の前に、まずそこです。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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