整体院・整骨院の回数券は悪なのか?通院計画と販売の境目を考える

回数券は悪なのか、それとも通院計画なのか

回数券そのものが悪いわけではありません。ただし、売上のために患者さんの不安や自由な判断を縛る形になると、一気に危うい仕組みになります。

回数券は、売ることより運用が大事です。返金、説明、回数、期間、患者さんの選択権。ここが整っていない回数券は、院にも患者さんにも長くはプラスになりません。

整体院や整骨院で、回数券を見かけることがあります。

数回分をまとめて購入すると、1回あたりの料金が少し安くなる。通院の予定も立てやすい。院側としても、継続して状態を見やすい。

こう聞くと、悪いものには見えません。

実際、回数券という仕組み自体が悪いわけではないと思っています。

問題は、その使い方です。

患者さんのための通院計画なのか。院の売上を先に確保するための販売なのか。

ここがズレると、同じ回数券でもまったく別物になります。

まなぶ先生
まなぶ先生

回数券って、患者さんにもお得なら良い仕組みじゃないんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

お得に使えるなら良い面もあります。ただ、途中でやめにくい仕組みになった瞬間に、患者さん側のリスクが大きくなります。

Chapter 01

回数券には、院側にも患者さん側にもメリットがある

まず、回数券のメリットも整理しておきます。

院側にとっては、継続して来てもらえることで施術計画を立てやすくなります。売上の見通しも立ちやすいです。毎回「次回どうしますか」と説明し続ける負担も減ります。

患者さんにとっても、通う予定が決まることで迷いが減ります。1回あたりの負担が下がることもあります。

症状によっては、1回で完結しないことも多いので、一定期間の通院計画を作ること自体は自然です。

患者さん

メリット

料金が分かりやすい、通院計画を立てやすい、継続しやすい

気をつけたい点

途中で合わなかった時にやめにくいと負担になる

院側

メリット

継続的に経過を見やすい、売上が安定しやすい、予約管理がしやすい

気をつけたい点

売ることが目的になると、患者さんの利益とズレやすい

ここまでは、わりと健全な話です。

問題は、回数券が高額化し、返金しにくくなり、患者さんの不安をあおって販売されるような場合です。

Chapter 02

患者さん側のリスクを軽く見てはいけない

高額な回数券は、患者さんにとってかなり大きな決断です。

数万円、場合によってはそれ以上を、身体がつらい時に判断しなければいけません。

冷静な買い物というより、「早く良くなりたい」「悪化したらどうしよう」という不安の中で決めることもあります。

ここが危ない

患者さんが不安な状態で、「今買わないと悪くなる」「通わないと将来困る」といった説明をされると、自由に選んでいるようで、実際にはかなり追い込まれた判断になりやすいです。

また、施術が合わないこともあります。

思ったより早く良くなることもあります。逆に、医療機関での確認が必要になることもあります。

その時に「返金できません」「残りは使い切ってください」だけだと、患者さんの選択肢がかなり狭くなります。

回数券を扱うなら、途中でやめる可能性まで含めて設計しないといけません。

Chapter 03

不安をあおる販売は、臨床としても危ない

回数券を売るために、患者さんの恐怖心を強める説明をするケースがあります。

「このままだと歩けなくなる」

「今通わないと一生治らない」

「放っておくともっと悪化する」

もちろん、本当に注意が必要な状態もあります。医療機関での確認をすすめるべきケースもあります。

ただ、売るために不安を大きくする説明は別です。

少し辛口に言うと、患者さんを怖がらせて契約につなげるのは、説明ではなく誘導です。臨床家がそこに慣れてしまうのは、かなり危ないです。

痛みは、不安や恐怖と無関係ではありません。

痛みに対する恐怖や破局的な考え方は、痛みの長期化や活動量の低下と関係することがあります。

だからこそ、説明では必要な注意を伝えつつ、必要以上に怖がらせないことが大切です。

Chapter 04

一度売ったら終わり、という構造がよくない

高額な回数券を一度販売すると、その時点でまとまった売上が入ります。

院としては助かります。経営的には魅力があります。

ただ、この構造には怖さもあります。

一度売った後の努力が弱くなっても、短期的には売上が立ってしまうからです。

もちろん、多くの施術者はそんなことをしたいわけではないと思います。

でも、仕組みとして「売ったら終わり」に近づくほど、臨床の緊張感は落ちやすいです。

まなぶ先生
まなぶ先生

回数券を売った後も、ちゃんと施術すれば問題ないんじゃないですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

その通りです。だからこそ、ちゃんと施術し続ける方が得になる仕組みにしておく必要があります。

少ない回数で区切る。長すぎる契約にしない。次も選んでもらえるかどうかを大事にする。

こういう設計の方が、院側にも患者さん側にも健全です。

Chapter 05

回数券を扱うなら、最低限ここは整えたい

回数券を完全に否定する必要はありません。

ただし、扱うならルールが必要です。

  • 途中解約や返金のルールを事前に説明する
  • 患者さんが理解できる金額と回数に抑える
  • 消化期間が長すぎる高額契約にしない
  • 不安や恐怖をあおって購入を迫らない
  • 都度払いとの違い、メリット、デメリットを説明する
  • 医療機関での確認が必要な可能性を隠さない
  • スタッフ評価を販売数だけに寄せすぎない

このあたりが曖昧なまま回数券を売ると、どうしても院側に都合の良い仕組みになりやすいです。

患者さんが途中でやめられる自由を残しておくこと。

これがかなり大事です。

Chapter 06

スタッフを販売員にしてはいけない

回数券の販売率だけでスタッフを評価すると、現場はかなり歪みます。

本来なら、患者さんの状態を見て、必要な通院頻度や期間を説明するべきです。

でも、販売数が評価や給与に直結しすぎると、説明の目的が変わります。

患者さんのための提案ではなく、契約を取るためのトークになってしまう。

組織の空気

個人の倫理観だけに頼るのは限界があります。売らないと評価されない空気があると、まじめなスタッフほど苦しくなります。

売上は大事です。

でも、売上だけを見ると、臨床の質、説明の誠実さ、患者さんの納得感が置いていかれることがあります。

経営と倫理を分けて考えすぎると、どこかで現場が壊れます。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、患者さんが納得して施術を受けられることを大切にしています。

通院が必要な場合は、なぜ必要なのか、どのくらいの期間を見たいのか、どんな変化を目安にするのかを説明します。

そして、患者さんが迷うことも前提にします。

身体のこと、お金のこと、時間のこと。全部含めて、その人の生活です。

瀬谷崎の考え方

通院計画は、患者さんを縛るためのものではありません。安心して選べるように、見通しを一緒に作るためのものです。

Chapter 07

患者さんが確認しておきたいこと

  • なぜその回数が必要なのか説明されているか
  • 途中でやめる場合の返金や精算ルールが分かるか
  • 今日決めないといけない雰囲気になっていないか
  • 不安を強める言葉ばかりで説明されていないか
  • 医療機関での確認が必要な場合の説明があるか
  • 自分の生活や予算に合っているか

回数券より先に、信頼があるか

回数券は、使い方によっては通院を続けやすくする手段になります。

ただし、患者さんの自由を狭めたり、不安をあおって売るための道具になったりすると、本来の目的から外れます。

院にとっても、患者さんにとっても、長く良い関係を作るには、目先の契約より信頼の方が大事です。

瀬谷崎
瀬谷崎

回数券を売るかどうかより、患者さんが安心して選べる状態を作れているか。結局、そこに尽きると思います。

参考

  • Vlaeyen JWS, Linton SJ. Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain: a state of the art. Pain. 2000.
    PubMed
  • Lee H, Hubscher M, Moseley GL, et al. How does pain lead to disability? A systematic review and meta-analysis of mediation studies in people with back and neck pain. Pain. 2015.
    PubMed
  • Shared decision making and physical therapy: What, when, how, and why? Journal of Humanities in Rehabilitation. 2022.
    PMC
瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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