ベイズ更新で考える徒手検査。検査結果を次の判断につなげる方法

ベイズ更新は、検査をつなげて考えるための道具

ひとつの検査で白黒を決めるのではなく、見立てを少しずつ更新していく。この考え方があると、徒手検査は単発の作業ではなく、臨床推論の流れになります。

ベイズ更新は、検査前の見立てを検査結果で更新し、その結果を次の判断へ引き継ぐ考え方です。確率を無理に100%へ持っていくためではなく、不確実な中でより妥当な判断に近づくために使います。

徒手検査をひとつ行って、陽性だった。陰性だった。

そこで判断が止まってしまうことがあります。

でも実際の臨床では、ひとつの検査だけで十分に見立てが定まることは多くありません。

問診である程度疑う。検査をする。可能性が少し上がる、または下がる。さらに別の所見を見る。

この繰り返しで、見立てを少しずつ更新していきます。

その考え方を、少し数学っぽく整理したものがベイズ更新です。

まなぶ先生
まなぶ先生

ベイズって聞くと、急に難しい数学の話に見えます。

瀬谷崎
瀬谷崎

式は少しややこしいです。でも臨床でやっていることは、「この所見があるなら、さっきより疑いを強めよう」みたいな見立ての更新です。

割合のままでは計算しにくいので、オッズに変える

まず、ベイズ更新で出てくるのがオッズです。

割合は、0%から100%までの範囲で表します。

一方、オッズは「起こる可能性」と「起こらない可能性」の比で表します。

オッズ = 起こる割合 ÷ 起こらない割合

たとえば、ある状態の可能性を60%と見積もったとします。

起こる割合は0.6、起こらない割合は0.4です。

この時のオッズは、0.6 ÷ 0.4 で1.5になります。

つまり、「起こる方が、起こらない方の1.5倍くらい」と考えます。

なぜオッズにするのか

検査の結果を倍率として扱う時、割合のままでは計算しにくくなります。いったんオッズに直すことで、尤度比を掛けて見立てを更新しやすくなります。

尤度比は、検査結果が見立てを動かす倍率

次に出てくるのが、尤度比です。

ざっくり言えば、その検査結果によって、見立てがどれくらい動くかを示す倍率です。

検査前のオッズに尤度比を掛けると、検査後のオッズになります。

検査後オッズ = 検査前オッズ × 尤度比

たとえば、検査前の見立てが60%、オッズが1.5だったとします。

そこで尤度比10の検査結果が出た場合、1.5 × 10 で検査後オッズは15になります。

ただ、オッズのままだと感覚的に分かりにくいので、最後に割合へ戻します。

割合 = オッズ ÷ (オッズ + 1)

検査後オッズが15なら、15 ÷ 16 で約94%です。

こうして、検査前の見立てが、検査結果によってどれくらい変わったかを確認できます。

インフルエンザの例で見ると、イメージしやすい

たとえば、流行期で、発熱や咳などの症状から、インフルエンザの可能性を80%くらいと見積もったとします。

80%をオッズにすると、0.8 ÷ 0.2 で4です。

ここに、陽性尤度比が高い検査結果が加わると、見立ては一気に動きます。

仮に尤度比54とすると、4 × 54 で検査後オッズは216です。

これを割合に戻すと、216 ÷ 217 で約99.5%になります。

段階 計算 意味
検査前割合 80% 問診や流行状況からの見立て
検査前オッズ 0.8 ÷ 0.2 = 4 起こる可能性と起こらない可能性の比
検査後オッズ 4 × 54 = 216 検査結果で見立てが大きく動いた状態
検査後割合 216 ÷ 217 = 約99.5% 検査後に見積もられる可能性

もちろん整骨院では、感染症を扱うという意味ではありません。

ここで大事なのは、問診や状況からの見立てがあり、検査結果でその見立てが更新されるという流れです。

ベイズ更新は、次の検査へ見立てを引き継ぐこと

実際の臨床では、検査をひとつだけで終えることは少ないです。

たとえば、腰痛や下肢症状の患者さんで、ある状態の関与を疑っているとします。

最初の問診で50%くらい疑う。

しびれの所見で少し上がる。

筋力低下でまた上がる。

反射やSLR、クロスSLRなど、他の所見も合わせて見ていく。

この時、前の検査で出た見積もりを、次の検査の出発点として使います。

検査前の見立て
検査結果
検査後の見積もり
次の検査前の見立て

これがベイズ更新のイメージです。

検査結果を積み重ねるほど、見立てが強まることもあれば、途中で下がることもあります。

だから、ひとつの結果に飛びつかず、流れとして見ます。

まなぶ先生
まなぶ先生

検査を重ねるほど、どんどん正確になると思っていいですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

基本の考え方としては更新できます。ただし、検査同士が似た情報を見ている場合や、手順が雑な場合は、数字ほどきれいには動きません。そこは現実的に見たいです。

割合に直接、尤度比を掛けない

ここで間違えやすいのが、割合に直接、尤度比を掛けてしまうことです。

たとえば、60%に10を掛けて600%。

これはおかしいですよね。

割合は100%を超えられません。

だから、いったんオッズに変換してから尤度比を掛けます。

計算の順番

割合をオッズに変える。オッズに尤度比を掛ける。最後にオッズを割合へ戻す。この順番を飛ばすと、計算の意味が崩れます。

臨床で毎回、厳密に電卓を叩く必要はないかもしれません。

でも、頭の中で「この検査は見立てをどれくらい動かすのか」と考えるだけでも、検査の使い方は変わります。

数字はきれいでも、臨床はいつも少し散らかっている

ベイズ更新は、とてもきれいな考え方です。

ただ、実際の臨床は、計算式ほど整っていません。

検査の手順が少し違う。患者さんの痛みで反応が変わる。検査同士が完全に独立していない。研究の対象と目の前の患者さんが違う。

こういうことは普通にあります。

だから、ベイズ更新を「数字で決めるための道具」として使うと、逆に危ないです。

数字は、考えるための補助です。

ベイズ更新は、断定するための魔法ではありません。不確実な臨床で、見立てを丁寧に更新するための考え方です。

計算できることと、目の前の患者さんにそのまま当てはめられることは違います。

ここを忘れない方がいいです。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、検査結果を単発で終わらせないことを大切にしています。

問診から見立てを作る。

検査でその見立てを更新する。

さらに別の所見や経過を見て、必要なら修正する。

そして、患者さんに分かる言葉で「今はこう考えています」と説明する。

この流れが大切です。

  • 検査前の見立てを持つ
  • 検査結果で見立てがどう動くかを考える
  • 割合とオッズを混同しない
  • 複数の所見をつなげて考える
  • 数字だけで断定せず、患者さんの経過に戻る

検査は、確率を更新するためにある

徒手検査は、答えを一発で出すためのものではありません。

検査前の見立てを持ち、検査結果でそれを更新し、次の検査や経過観察につなげる。

この流れを持てると、検査はただの陽性・陰性チェックではなくなります。

オッズや尤度比の計算は、最初は面倒です。

でも、考え方が分かると、「この検査で何がどれくらい変わるのか」を意識できるようになります。

そこが、臨床推論の精度を上げる入口だと思います。

参考

瀬谷崎
瀬谷崎

ベイズ更新は、検査をつなげる考え方です。ひとつの検査で決めるのではなく、見立てを更新しながら目の前の患者さんに戻る。そこまで含めて臨床推論だと思います。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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