痛い場所だけで神経絞扼を決めない。手根管症候群と近位痛の落とし穴

症状の広がり方だけでは、神経の絞扼部位は決めきれない

絞扼部位より遠位に症状が出る。これは基本ですが、手根管症候群や肘部管症候群では、その基本だけで考えると見落とすケースがあります。

絞扼部位よりも近位に症状が出現する末梢神経障害

手根管症候群や肘部管症候群では、絞扼部位より近位に疼痛が出るケースも報告されています。

疼痛領域だけで神経障害を判断すると危険です。手や指の症状が少なくても、前腕、上腕、肩の痛みの背景に末梢神経絞扼が関与することがあります。

絞扼性神経障害では、絞扼された部位よりも遠位に症状が出ることが一般的です。

たとえば、手根管で正中神経が障害されれば、手や指にしびれや痛みが出る。

肘部管で尺骨神経が障害されれば、小指や環指側に症状が出る。

このような考え方は、臨床の基本としてとても大事です。

ただし、基本だけで患者さんを見てしまうと、例外を見落とすことがあります。

手根管症候群や肘部管症候群では、絞扼部位より近位に痛みを訴えるケースも少なくありません。

まなぶ先生
まなぶ先生

手根管症候群なら、手首より遠位だけを見ればいいと思っていました。

瀬谷崎
瀬谷崎

基本はそれでいいです。ただ、肩や前腕の痛みがあるから手根管は関係ない、と切り捨てるのは危ないです。

末梢神経障害は、症状の場所だけでは決まらない

神経障害を考える時、多くのセラピストは症状の分布を見ます。

どの指がしびれるのか。手掌側か手背側か。前腕のどこが痛いのか。小指側か母指側か。

もちろん、これはとても重要です。

ただ、疼痛は必ずしも教科書通りの支配領域だけに出るわけではありません。

とくに痛みは、しびれや感覚低下よりも解釈が難しいことがあります。

しびれの領域はヒントになります。ただ、痛みの領域だけで「ここが原因」と決めるには危うさがあります。

手根管症候群では、手や指の症状が中心になりやすい一方で、前腕や上腕、肩に痛みを訴えるケースもあります。

肘部管症候群でも、尺骨神経領域だけでなく、痛みの訴えが近位に広がることがあります。

そのため、疼痛領域と絞扼部位を単純に一対一対応させるのは危険です。

近位痛があるから、末梢神経障害ではないとは言えない

肩が痛い、上腕が痛い、前腕が痛い。

このような訴えがあると、肩関節疾患、頚椎疾患、筋筋膜性疼痛などを考えたくなります。

もちろん、それらの鑑別は必要です。

しかし、そこに手根管症候群や肘部管症候群が関係している可能性も残しておくべきです。

手根管症候群

典型:母指、示指、中指、環指橈側のしびれや痛み。

注意:前腕、上腕、肩への痛みを訴えることがある。

肘部管症候群

典型:小指、環指尺側のしびれや痛み。

注意:肘周囲だけでなく、前腕や上腕側の痛みとして表現されることがある。

大切なのは、近位痛があるから末梢神経障害を除外するのではなく、他の所見と合わせて考えることです。

夜間症状はあるか。手を振ると楽になるか。チネル徴候はあるか。ファレンテストやダーカンテストはどうか。感覚障害や筋力低下はあるか。

痛みの場所だけではなく、神経絞扼としての文脈があるかを見ます。

疼痛領域で決め打ちすると何が起こるか

疼痛領域だけで判断すると、2つのエラーが起こります。

ひとつは、肩や上腕の痛みを見て、手根管症候群や肘部管症候群を最初から除外してしまうことです。

もうひとつは、手のしびれを見て、首や胸郭出口、近位の神経絞扼を見落とすことです。

つまり、痛みの場所だけに頼ると、遠位も近位もどちらも見誤ります。

臨床での注意

近位に痛みがあるから末梢神経絞扼ではない、と考えるのも、遠位にしびれがあるから手根管だけだ、と考えるのも危険です。

神経障害の鑑別では、症状の分布はあくまで手がかりです。

そこから、神経学的所見、誘発テスト、姿勢や動作による変化、頚椎や肩関節の評価を組み合わせていきます。

患者さんの訴えが教科書的でない時ほど、短絡的に決めず、少し広めに仮説を持つ必要があります。

見落としを減らすために確認したいこと

手根管症候群や肘部管症候群を疑う時は、痛みの場所だけではなく、以下のような情報を合わせて確認したいです。

  • しびれや感覚異常がどの指に出ているか
  • 夜間や明け方に症状が強くなるか
  • 手を振る、姿勢を変えるなどで症状が軽くなるか
  • 手関節、肘部管、ギヨン管などでチネル徴候が出るか
  • ファレンテスト、ダーカンテストなどで症状が再現するか
  • 母指球筋や骨間筋などに筋力低下や萎縮がないか
  • 頚椎、肩関節、胸郭出口症候群との鑑別が必要か
  • 糖尿病など末梢神経障害の背景因子がないか

これらを組み合わせることで、「肩が痛いから肩だけ」「手がしびれるから手首だけ」という見方から抜け出せます。

とくに手根管症候群や肘部管症候群では、疼痛領域の解釈を過信しないことが重要です。

痛みの地図は、原因の地図とは限らない

痛みの場所は、原因を考えるうえで大切な情報です。

ただし、痛みの場所がそのまま障害部位を示すとは限りません。

末梢神経障害では、遠位症状が基本です。

しかし、手根管症候群や肘部管症候群のように、近位痛を伴うケースもあります。

だからこそ、痛みの地図だけを見て、診断の地図を描いてはいけません。

疼痛領域、しびれの領域、神経学的所見、誘発テスト、他疾患との鑑別。

これらを合わせて、はじめて臨床推論になります。

整理したい考え方

「痛い場所に原因がある」と考えるのではなく、「この痛み方が、どの神経障害や周辺疾患と矛盾しないか」を考える方が安全です。

神経障害ほど、決め打ちしない

神経症状は、分布がきれいに出ることもあれば、かなり曖昧に出ることもあります。

だから、教科書的な支配領域を覚えることは大切ですが、それだけでは足りません。

手根管症候群で肩まで痛むことがある。

肘部管症候群でも、痛みの訴えだけでは典型像から外れることがある。

この前提を知っているだけで、臨床の見落としはかなり減らせると思います。

疼痛領域は大事なヒントです。

でも、ヒントを答えだと思い込まない。

神経障害を疑う時ほど、所見を組み合わせて、丁寧に絞り込むことが必要です。

瀬谷崎
瀬谷崎

疼痛領域だけで神経障害を決めない。これはかなり大事です。近位に痛いから除外するのではなく、神経所見や誘発テストと合わせて考えたいですね。

手や指のしびれ、前腕や肩まで広がる痛みでお悩みの方は、痛む場所だけで判断せずご相談ください。神経症状、関節、筋、頚椎などを合わせて状態を整理します。

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瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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