運動で痛みが軽くなるのはなぜ?EIH(運動誘発性鎮痛)と運動療法の見方

運動は、筋肉だけでなく痛みの感じ方にも働く

運動療法というと、筋力や可動域を変えるものと思われがちです。でも、運動には痛みの感じ方を変える側面もあります。

運動による鎮痛は、身体機能だけでなく、中枢の疼痛抑制系や認知行動面にも関わる可能性があります。ただし、運動の量や強度はその人の状態に合わせて調整する必要があります。

痛みがある時に「運動しましょう」と言われると、少し抵抗がある方もいます。

痛いのに動いて大丈夫なのか。

動いたら悪化するのではないか。

まず痛みを完全に取ってから運動した方がいいのではないか。

こう考えるのは自然です。

ただ、運動は筋肉を鍛えるためだけのものではありません。

運動によって痛みの感じ方が一時的に変化する現象があり、これはEIH(exercise-induced hypoalgesia)運動誘発性低痛覚などと呼ばれます。

まなぶ先生
まなぶ先生

運動で筋肉が強くなるのは分かりますが、痛みそのものも変わるんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

変わることがあります。筋力や可動域だけでなく、痛みを抑える神経系や「動いても大丈夫」という学習にも関わります。

EIHは、運動後に痛みが感じにくくなる現象

EIHは、運動後に痛みへの感受性が下がる現象として研究されています。

簡単に言えば、運動をした後に痛みを感じにくくなることがある、という話です。

もちろん、すべての人に同じように起こるわけではありません。

痛みの種類、運動の強度、慢性痛の有無、不安の強さ、体調などによって反応は変わります。

運動による鎮痛 EIH のメカニズムに関するまとめ

運動による鎮痛では、末梢、脊髄、脳、認知行動面など複数のメカニズムが関与すると考えられています。

運動による鎮痛のメカニズムとしては、末梢での炎症性サイトカインの抑制、抗炎症性サイトカインの増加、後根神経節や脊髄後角での反応変化、中枢での下行性疼痛抑制系の賦活などが候補として考えられています。

また、内因性オピオイド、内因性カンナビノイド、ドーパミンなどの神経化学的な仕組みも議論されています。

細かい機序はまだ完全に整理しきれるものではありませんが、少なくとも運動は「筋肉だけ」に効いているわけではない、という視点は持っておきたいです。

運動療法は、身体機能だけを変えるものではない

運動療法というと、筋力低下、可動域制限、柔軟性、姿勢、動作の修正を目的に行うイメージがあります。

これはもちろん重要です。

膝が痛い人なら、股関節や足部の使い方、膝にかかる負荷を見ます。

腰痛なら、体幹や股関節、生活動作、仕事での負荷を見ます。

ただ、運動療法の役割はそれだけではありません。

運動療法で見たいこと

筋力や可動域の改善だけでなく、痛みへの過敏さ、動くことへの不安、活動量の低下、生活での自信の回復まで含めて見ます。

痛みが長く続くと、身体は動かないことを覚えます。

「この動きは危ない」

「また痛くなる」

「悪化したら困る」

こうした考えが強くなると、痛みが少し落ち着いても活動に戻れません。

そこで運動療法は、身体を鍛えるだけでなく、「動いても大丈夫だった」という経験を積む機会にもなります。

痛みを抑える仕組みは、いくつも重なっている

運動による鎮痛は、ひとつの仕組みだけで説明できるものではありません。

末梢、脊髄、脳、心理面、社会的な背景が重なって、痛みの感じ方が変わります。

視点 考えられる働き 臨床での意味
末梢 炎症性サイトカインの抑制、抗炎症性サイトカインの増加など 組織周囲の反応を整える可能性がある
脊髄 後角での過敏な反応、神経伝達の変化など 痛みの入力が過剰に増幅される状態を考える材料になる
下行性疼痛抑制系、内因性オピオイド、内因性カンナビノイドなど 痛みを抑える仕組みを賦活する可能性がある
認知行動 恐怖回避、破局的思考、自己効力感への影響 「動ける」という経験が回復のきっかけになる

こう見ると、運動療法はかなり広い介入です。

筋肉を鍛える。

関節を動かす。

痛みを感じにくくする仕組みを使う。

動くことへの不安を減らす。

生活に戻る自信を作る。

これらが全部、運動療法の中に入ってきます。

運動は、痛みを我慢してやるものではない

ここはとても大切です。

運動で痛みが軽くなることがあると言うと、「痛くても我慢して動けばいい」と受け取られることがあります。

それは違います。

痛みが強く増える、運動後に長く残る、翌日に明らかに悪化する。

こういう場合は、運動の量や強度、種目を見直す必要があります。

運動量の目安

軽い違和感があってもすぐ落ち着き、翌日に悪化しない場合は、少しずつ慣らす材料になります。一方で、痛みが強く増える、長く残る、生活に支障が出る場合は負荷を下げます。

慢性痛の方では、運動によって一時的に痛みが増えることもあります。

だからこそ、いきなり「この運動を毎日何十回」と固定するのではなく、反応を見ながら調整します。

運動療法は、根性論ではありません。

その人の身体と神経系に合わせて、ちょうどいい刺激量を探す作業です。

まなぶ先生
まなぶ先生

運動で鎮痛が起きるなら、強めにやった方が効くんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

強ければいいわけではありません。特に痛みが長引いている人ほど、反応を見ながら「ちょうどいい負荷」を探す方が大事です。

恐怖回避を変えるのも、運動の役割

痛みが続くと、動くことへの怖さが出てきます。

これは当然の反応です。

痛かった動き、悪化した経験、周囲からの「無理しないで」という言葉。

こうしたものが積み重なると、身体は安全な動きだけを選ぶようになります。

最初は防御として必要でも、長く続くと活動量が落ち、身体の使い方がさらに小さくなります。

運動療法は、痛みを消すためだけではありません。「動いても大丈夫だった」という経験を積むための介入でもあります。

たとえば、腰痛で前屈が怖い人に、いきなり深く曲げてもらう必要はありません。

小さな範囲で動かす。

痛みが強くならないことを確認する。

少しずつ範囲を広げる。

こうした経験を積むことで、身体だけでなく、痛みに対する考え方も少しずつ変わります。

運動療法の価値は、ここにもあります。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、運動療法を「筋トレをさせること」だけだとは考えていません。

痛みの出方、生活での困りごと、身体機能、不安の強さ、活動量を確認します。

その上で、今の身体にとって必要な運動を選びます。

動かすべき時もあります。

いったん負荷を下げた方がいい時もあります。

大切なのは、患者さんが「自分の身体は動かせる」と感じられるように、段階を作ることです。

とんとんの基本姿勢

運動療法では、筋力や可動域だけでなく、痛みへの過敏さ、動くことへの不安、生活への戻り方まで含めて考えます。

こんな方は一度ご相談ください

  • 痛みが怖くて、運動や日常動作を避けるようになっている
  • 運動した方がいいのか、休んだ方がいいのか分からない
  • 少し動くと痛みが出て、不安になってしまう
  • 腰痛、膝の痛み、肩の痛みなどが長引いている
  • 自分に合った運動量や始め方を相談したい
医療機関の確認が必要なこともあります

急な強い痛み、外傷後の痛み、発熱、しびれや脱力が強い、安静時にも強い痛みが続く、排尿・排便の異常がある場合などは、まず医療機関での確認が必要になることがあります。

運動は、痛みとの関係を作り直す

運動療法は、筋力や可動域を改善するためだけのものではありません。

運動による鎮痛、下行性疼痛抑制系、炎症や神経系の反応、恐怖回避への影響。

こうした視点を持つと、運動療法の意味は少し広がります。

ただし、運動は万能薬ではありません。

その人に合わない負荷で行えば、痛みや不安を強めることもあります。

だから、反応を見ながら、できる範囲を少しずつ広げる。

その積み重ねが、痛みとの関係を作り直すきっかけになると思っています。

瀬谷崎
瀬谷崎

運動療法は、身体を鍛えるだけではありません。痛みへの怖さを減らし、動ける感覚を取り戻すための臨床でもあります。

参考

  • Mechanisms of Exercise-Induced Hypoalgesia.
    PMC
  • Exercise-induced hypoalgesia after acute and regular exercise: experimental and clinical manifestations and possible mechanisms in individuals with and without pain.
    PMC
  • Brain Mechanisms of Exercise-Induced Hypoalgesia: To Find a Way Out from Fear-Avoidance Belief.
    PMC
  • Does exercise increase or decrease pain? Central mechanisms underlying these two phenomena.
    PMC
瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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