その一歩の中で何が起きているか。歩行から読む足部・膝・股関節の代償
瀬谷崎コラム
一歩の中で、全身の代償が出る
歩行時の痛みを、痛む場所だけで見ているとかなり危ないです。足関節、足部アーチ、膝、股関節、骨盤は一歩ごとに連鎖して動くため、局所だけを直しても歩行が変わらないことがあります。
歩くと痛い。
走ると痛い。
階段で痛い。
しゃがむと痛い。
こういう訴えを聞いた時、つい痛む関節だけを見たくなります。
膝が痛いなら膝。足が痛いなら足。股関節が痛いなら股関節。
もちろん局所評価は必要です。
ただ、歩行や走行の痛みは、局所だけで完結しないことが多いです。
足関節背屈が足りないことで膝が動きを変える。
足部アーチがうまく沈まない、あるいは戻らないことで、荷重や推進が変わる。
大腿四頭筋の筋力低下を避けるために、膝を伸ばしたまま歩く。
股関節の中間位が合っていないまま、歩行指導やスイング指導をしてしまう。
そうなると、局所に良いことをしているつもりでも、実際の歩行では別の場所が代償し続けることになります。

まなぶ先生

瀬谷崎
歩行は、0%から100%まで続くイベント
歩行周期は、片脚の初期接地から、同じ脚が次に接地するまでの一連の流れです。
大まかには、立脚期と遊脚期に分けられます。
立脚期では足が床に接地し、身体を支え、衝撃を吸収し、推進力を作ります。
遊脚期では脚を前に運び、次の接地に備えます。
この一歩の中で、足部、足関節、膝、股関節、骨盤は、それぞれ役割を変えながら動いています。
衝撃吸収と荷重の受け入れ。足部と膝の柔らかさが必要になります。
身体が足の上を越える時期。足関節背屈や骨盤の制御が関わります。
足部の剛性と下腿三頭筋の出力が必要になり、次の一歩につながります。
そのため、歩行評価では「どのタイミングで痛いのか」を聞くことがかなり大事です。
接地で痛いのか。
荷重している途中で痛いのか。
踵が上がる時に痛いのか。
階段や坂道でだけ痛いのか。
痛む場所だけでなく、痛むタイミングが分かると、見に行く場所が変わります。
足関節背屈が足りないと、膝と股関節が巻き込まれる
歩行では、足関節背屈が重要です。
一般的に、正常歩行には少なくとも5〜10度程度の足関節背屈が必要とされます。
ランニングや階段、しゃがみ込みでは、さらに大きな背屈可動性が求められます。
足関節背屈が足りない場合、身体はその不足をどこかで補います。
早期に踵を上げる。
足部を外に向ける。
膝を伸ばしたまま荷重する。
股関節や骨盤で逃がす。
こうした代償が続けば、痛みは足関節だけでなく、膝や股関節にも出る可能性があります。
膝が痛いから膝だけを調整する。股関節が痛いから股関節だけを触る。もちろん必要な場面はありますが、歩行で症状が出るなら足関節背屈の不足を見落とすと、原因の上流を残したままになります。
アーチは、つぶれるだけでも上がるだけでもない
足部アーチは、歩行中にずっと同じ形をしているわけではありません。
接地から荷重を受ける場面では、足部はある程度柔らかくなり、衝撃を吸収します。
一方で、推進期には力を床へ伝えるために、足部の剛性が必要になります。
つまり、アーチは「落ちているから悪い」「高いから良い」という話ではありません。
必要なタイミングで沈み、必要なタイミングで戻り、推進のための硬さを作れるかが重要です。
立位でのアーチの高さだけではなく、歩行中にアーチがどう沈み、どう戻るかを見ます。静的な形と、動的な機能は分けて考えたいところです。
足部痛の多くは、歩行や走行、荷重で症状が出ます。
だから、ベッド上で足部を触って終わりではなく、実際に歩いてもらって、接地と推進の中で何が起きているかを確認します。
立脚期前半と後半で、下肢の回旋は入れ替わる
歩行では、足部から股関節までが連動して回旋します。
立脚期前半では、後足部の外反、下腿の内旋、股関節の内旋・内転方向の動きが起こりやすくなります。
立脚期後半では、後足部が内反方向へ戻り、下腿は外旋、股関節も外旋・外転方向へ向かいます。
もちろん個人差はあります。
ただ、歩行中の下肢は単関節でバラバラに動いているのではなく、タイミングごとに連鎖して動きます。
この連鎖を見ずに、足部だけ、膝だけ、股関節だけを修正しようとすると、別の場所で無理が出ます。
- 接地で足部が硬すぎないか
- 立脚中期で下腿が前へ進めているか
- 膝が過伸展でロックしていないか
- 股関節が内旋・外旋どちらかに逃げすぎていないか
- 骨盤の回旋や側方移動で代償していないか
筋力低下は、別の関節に仕事を押しつける
歩行で面白いのは、ある筋の出力低下が、離れた関節の動きを変えることです。
例えば、大腿四頭筋の筋力低下があると、荷重時の膝屈曲を避けようとして、膝を伸ばしたまま歩くことがあります。
そのために足関節背屈を避ける、股関節や骨盤で逃がす、といった代償が起こります。
腸腰筋の働きが低下すれば、小殿筋、大腿直筋、腓腹筋などが歩行中の運動を代償する可能性があります。
反対に、腓腹筋の出力が足りない場合、腸腰筋やヒラメ筋の働き方が変わることもあります。
つまり、歩行時の痛みでは「痛い場所の筋力」だけでなく、歩行を成立させるために誰が誰の仕事を肩代わりしているかを見る必要があります。

まなぶ先生

瀬谷崎
施術よりADLが勝つ場面
膝関節の過伸展障害などでは、施術だけでは限界があります。
歩行で毎回膝をロックする。
立位で同じ姿勢を続ける。
階段や立ち上がりで膝を身体に引き寄せるような使い方を繰り返す。
こうした生活動作が残っていると、施術で一時的に楽になっても、すぐに同じ負担が戻ります。
この場合、必要なのは「もっと強い手技」ではなく、日常動作の修正です。
歩行や立ち上がりで毎日何百回も入る負荷に、数分の施術だけで勝とうとするのはかなり無理があります。ADLで負担を作っているなら、ADLを変えないとしんどいです。
歩行指導では、細かい理論を患者さんに全部説明する必要はありません。
ただし、施術者側はどのタイミングで何が起きているかを理解しておく必要があります。
踵を上げるタイミング。
膝がロックするタイミング。
骨盤が逃げる方向。
足部が沈むのか、沈めないのか。
ここを見て、患者さんが実行できる範囲に落とし込むことが大切です。
歩行は、局所介入の答え合わせ
歩行評価は、難しいものに見えます。
でも、最初から全部を完璧に見ようとしなくても大丈夫です。
まずは、痛みが出るタイミングを見る。
足関節背屈が足りているかを見る。
足部アーチが沈む・戻るタイミングを見る。
膝が過伸展でロックしていないかを見る。
股関節や骨盤がどちらに逃げているかを見る。
そして、局所に介入した後に歩行が変わったかを見る。
これだけでも、評価の解像度はかなり変わります。
歩行は、患部の評価を曖昧にするものではありません。
むしろ、局所介入が本当に意味を持っていたかを確認する、かなり優秀な答え合わせです。

瀬谷崎
参考資料
- Tao W, et al. Gait Analysis Using Wearable Sensors. Sensors. 2012.
- Searle A, et al. Weight bearing versus non-weight bearing ankle dorsiflexion measurement in people with diabetes. J Foot Ankle Res. 2018.
- Kim JH, et al. Effect of treadmill walking with ankle stretching orthosis on ankle flexibility and gait. J Phys Ther Sci. 2015.
- Kelly LA, et al. Active regulation of longitudinal arch compression and recoil during walking and running. J R Soc Interface. 2015.
- Takabayashi T, et al. Coordination among the rearfoot, midfoot, and forefoot during walking. J Foot Ankle Res. 2017.
- Effects of peak ankle dorsiflexion angle on lower extremity biomechanics and pelvic motion during walking and jogging. Front Neurol. 2023.













