痛い場所がはっきりしない時に見ること。身体の感じ方と痛みの関係
症状コラム
痛い場所を、脳がうまく地図化できないことがある
身体知覚異常は、気のせいという意味ではありません。腰や膝の輪郭がぼやける、触られた場所が分かりにくい、動かした位置をつかみにくい。そうした感覚の変化も、痛みを考える材料になります。
身体の感じ方が変わっている時は、構造だけを見ても説明しきれないことがあります。質問紙、感覚検査、動作、心理的な負担を合わせて見ながら、必要なら感覚の再学習を慎重に使います。
腰痛や膝の痛みが長引いている方の中には、少し変わった訴えをされることがあります。
「腰の場所がぼやける」
「膝の大きさが左右で違う感じがする」
「触られているのは分かるけど、どこを触られているのか曖昧」
「動かした位置がつかみにくい」
こういう訴えを、単に不思議な表現として流してしまうのは少しもったいないです。
痛みが長引く時には、筋肉や関節だけでなく、身体をどう感じているかという要素が関わることがあります。

まなぶ先生

瀬谷崎
身体知覚異常は「気持ちの問題」ではない
身体知覚異常という言葉は、少し聞き慣れないかもしれません。
ざっくり言えば、身体の一部をうまく感じ取れない、輪郭が曖昧に感じる、左右差や大きさの感覚が変わる、といった状態です。
慢性腰痛では、背中に対する身体知覚を評価するFreBAQという質問紙が使われることがあります。
膝OAでは、膝に対する身体知覚を評価するFreKAQという質問紙も開発されています。
こうした質問紙があること自体、痛みを「組織の傷」だけで見ない流れの一部だと思います。
身体の感じ方が変わっているからといって、心因性と片づける必要はありません。感覚入力、運動経験、痛みの記憶、不安などが絡み合っている可能性があります。
もちろん、質問紙の点数が高いから「これが原因です」とは言えません。
FreBAQやFreKAQには、臨床で絶対的に使える明確なカットオフがあるわけではありません。
だから、スコアはあくまで材料です。
症状の出方、触覚や圧覚、関節位置覚、2点識別覚、他の病態の可能性と合わせて見ていく必要があります。
評価は、質問紙だけで終わらせない
身体知覚異常が疑われる時は、いきなり特殊な運動を始めるよりも、段階を踏んだ方が整理しやすいです。
大まかには、次のような流れで考えます。
- 質問紙で入口を作るFreBAQやFreKAQなどを使い、本人が身体をどう感じているかを確認します。点数だけで判断せず、どの項目に反応しているかを見ます。
- 感覚の検査を合わせる触覚、圧覚、関節位置覚、2点識別覚などを確認します。左右差や部位差、症状との一致を見ます。
- 他の病態を見落とさない神経障害、炎症、外傷、レッドフラッグなどを除外せずに、身体知覚異常だけで説明しないようにします。
- 再獲得課題を選ぶ触覚を当てる、圧の強さを分ける、関節位置を再現するなど、異常パターンに合わせた課題を選びます。
身体知覚異常は「見つけたら介入するもの」ではなく、「痛みや機能低下に関係していそうなら扱うもの」です。検査結果だけで介入を決めないことが大切です。
何を見ているのかを分けておく
触覚や2点識別覚、関節位置覚は、似ているようで見ているものが違います。
ひとつの検査で「身体知覚」を全部評価できるわけではありません。
だから、検査の目的を分けておく必要があります。
| 評価するもの | 見たいこと | 臨床での注意 |
|---|---|---|
| 質問紙 | 本人が身体をどう感じているか | 点数だけで決めず、訴えや所見と合わせる |
| 触覚・圧覚 | 触られた場所や強さを識別できるか | 左右差、部位差、痛みとの関係を見る |
| 関節位置覚 | 動かした位置を再現・識別できるか | 筋力や可動域制限の影響も考える |
| 2点識別覚 | 2点を2点として感じ分けられるか | 検査部位や方法で結果が変わりやすいため過信しない |
たとえば、膝OAの痛みでは、関節の変形や筋力だけでは説明しきれないことがあります。
身体イメージの変化、不安、恐怖回避思考、下行性疼痛調節系の働きなど、複数の要素が関わることがあります。
その中で、身体知覚の評価は「この人の痛みに、感覚の再学習が関係しそうか」を考えるための材料になります。
識別課題は、間違わせるためのテストではない
触覚や圧覚、関節位置覚の識別課題は、身体の感覚を再学習する介入として使われることがあります。
ただし、やれば必ず良いというものではありません。
課題の中で何度も間違えると、患者さんによってはストレスになります。
「また間違えた」
「自分の身体が分からない」
「うまくできない」
こう感じてしまうと、介入がかえって不安や緊張を強めることがあります。
識別課題は、正解率が低すぎても高すぎても練習になりにくいです。少し考えれば当てられる難易度にして、できた経験を積みながら進める方が安全です。
感覚の再学習は、根性で耐えるトレーニングではありません。
本人が安心して取り組めること。
失敗しても責められている感じがしないこと。
課題の意味が分かっていること。
このあたりがかなり重要です。
臨床で使うなら、痛みの説明とセットにする
身体知覚異常の話は、患者さんに伝え方を間違えると不安を増やすことがあります。
「あなたの脳がおかしい」
「身体の地図が壊れている」
こういう言い方は避けたいです。
伝えるなら、もっと柔らかく説明した方がいいと思います。

まなぶ先生

瀬谷崎
身体知覚異常という言葉を見せる必要はありません。
専門用語で納得させるより、今の症状にどう関係していそうか、何を練習するのか、どんな変化を見たいのかを共有する方が大切です。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、痛みをひとつの原因に押し込めないことを大切にしています。
関節の動き、筋力、神経の所見、炎症、生活背景、不安、そして身体の感じ方。
どれかひとつだけで決めるのではなく、複数の材料を合わせて見ます。
身体知覚異常が疑われる場合も同じです。
質問紙の点数だけで判断しない。
2点識別覚だけで判断しない。
「心因性ですね」と雑に片づけない。
必要な評価を行い、他の病態を確認しながら、感覚の再学習が役に立ちそうかを見ていきます。
身体知覚の評価は、患者さんを不安にさせるためではなく、回復の選択肢を増やすために使います。
こんな時は一度ご相談ください
- 痛みが長引き、痛い場所の輪郭がぼやける感じがある
- 触られた場所や圧の強さが分かりにくい
- 腰や膝の位置感覚がうまくつかめない
- 画像や検査では説明しきれない痛みが続いている
- 運動やセルフケアをしているのに、身体の使い方が変わらない
急な脱力、広範囲のしびれ、排尿・排便の異常、発熱、強い外傷、安静にしていても悪化する痛みなどがある場合は、まず医療機関での確認が必要になることがあります。
身体の地図は、丁寧に取り戻す
痛みが長引くと、身体の感じ方が変わることがあります。
それは、気のせいでも、本人の弱さでもありません。
一方で、身体知覚異常という言葉だけで全てを説明するのも違います。
大切なのは、構造、感覚、運動、心理、生活を分けて見ながら、今その人に何が必要かを考えることです。
触覚、圧覚、関節位置覚、2点識別覚。
こうした評価は、身体を責めるためではなく、身体をもう一度つかみ直すために使うものです。

瀬谷崎
参考
- Nishigami T, et al. Development and psychometric properties of knee-specific body-perception questionnaire in people with knee osteoarthritis: The Fremantle Knee Awareness Questionnaire. PLoS One. 2017.
PubMed - Monticone M, et al. The Fremantle Back Awareness Questionnaire: cross-cultural adaptation, reliability, and validity of the Italian version in people with chronic low back pain. BMC Musculoskelet Disord. 2024.
PubMed - Schäfer A, et al. Validation and investigation of cross cultural equivalence of the Fremantle back awareness questionnaire – German version. BMC Musculoskelet Disord. 2021.
PubMed - Graham A, et al. Sensory discrimination training for adults with chronic musculoskeletal pain: a systematic review. Physiother Theory Pract. 2022.
PubMed - Adamczyk W, et al. Lumbar Tactile Acuity in Patients With Low Back Pain and Healthy Controls: Systematic Review and Meta-Analysis. Clin J Pain. 2018.
PubMed - Felson DT, et al. The effects of impaired joint position sense on the development and progression of pain and structural damage in knee osteoarthritis. Arthritis Rheum. 2009.
PubMed













