投球で肩が痛い時、どの瞬間に痛むか。肩甲骨と上腕骨から読み解く
瀬谷崎コラム
投げる肩は、肩だけで完結しない
投球時の肩痛は、痛む場所だけでなく「どの瞬間に痛むか」が重要です。肩甲骨、上腕骨、体幹、投球フェーズを重ねると、肩だけを触っていては見えない負担が見えてきます。
投球障害肩では、痛む部位と投球フェーズをセットで確認します。さらに肩甲骨が上腕骨を支えられているか、上腕骨の見かけの向きにだまされていないかを見ていくことが大切です。
投球で肩が痛い。
この訴えを聞くと、腱板、関節唇、上腕二頭筋長頭腱、インピンジメントなど、肩関節そのものの病態を考えたくなります。
もちろん、それは必要です。
ただ、投球動作は肩だけで成立しているわけではありません。
体幹が動き、肩甲骨が動き、上腕骨が動き、最後にボールへ力が伝わります。
そのため、痛みの場所だけを見ていると、なぜその部位に負担が集まったのかを見落とすことがあります。

まなぶ先生

瀬谷崎
投球フェーズと痛む場所を重ねる
まず、投球動作の大まかな流れを押さえます。
投球は、肩関節だけの運動ではなく、下肢、骨盤、体幹、肩甲帯、上肢が連続して働く動作です。
体幹が伸展し、肩甲骨は内転・上方回旋しながら肩関節が外転していきます。
肩関節は外転位で最大外旋へ向かい、肩前方や後方組織への負荷が高まりやすくなります。
肩関節は最大外旋から内旋方向へ加速し、胸椎伸展や体幹回旋も関わります。
投球後に減速しながら肩関節は内転・内旋し、後方組織や肩甲帯の制御が必要になります。
この流れを踏まえると、「肩のどこが痛いか」に加えて、「どの瞬間に痛いか」を聞く意味が出てきます。
後期コッキング期やフォロースルー期で痛みが出る場合、QLS周囲での腋窩神経絞扼、後方組織、四辺形間隙、肩甲骨の位置、しびれや筋力低下の有無を確認します。
アクセラレーション期に前方部痛が出る場合、上腕二頭筋長頭腱、結節間溝の圧痛、前方不安定性、肩甲骨前傾、上腕骨頭前方変位などを確認します。
肩峰下部痛は投球フェーズがはっきりしないこともあります。挙上時痛、肩甲骨上方回旋・後傾、腱板機能、胸郭可動性を合わせて見ます。
アクセラレーション期に肩甲骨下角周辺が痛む場合、広背筋最上方線維への摩擦ストレス、中部・下部僧帽筋、前鋸筋優位の動き、肩甲骨上方回旋の質を確認します。
もちろん、この表だけで病態を決めることはできません。
ただ、痛む部位と投球フェーズを組み合わせると、どこに負担が集中していそうかの仮説は立てやすくなります。
肩甲骨は、投げる肩の土台になる
肩関節の可動域低下を見る時、上腕骨の動きだけを見てしまうことがあります。
しかし、腕を上げる、外に開く、外旋する、投げるといった動作では、肩甲骨が土台として働いています。
肩甲骨がうまく固定されない、あるいは必要な方向へ動けない場合、上腕骨側に負担が集まりやすくなります。
肩甲骨は、上腕骨が力を出すための土台です。土台が不安定なまま腕だけで投げようとすると、肩前方、肩後方、肩峰下、肩甲骨下角周辺などに負担が分散せず集中しやすくなります。
肩関節の主な運動と、関わりやすい肩甲骨固定筋をざっくり見ると、次のようになります。
- 外転:三角筋中部・棘上筋だけでなく、僧帽筋中部などによる肩甲骨固定も確認する
- 屈曲:三角筋前部だけでなく、胸椎伸展、肩甲骨後傾、上方回旋が伴うかを見る
- 1st外旋:棘下筋に加えて、僧帽筋中部、大・小菱形筋などによる固定を確認する
- 2nd外旋:投球時の外旋位で、肩甲骨の後傾・上方回旋が保てるかを見る
- 3rd外旋:小円筋だけでなく、後方支持組織や肩甲骨内転の影響を合わせて確認する
こうした筋の名前を覚えることが目的ではありません。
大事なのは、肩のROM低下や投球時痛がある時に、肩関節側だけでなく、肩甲骨を固定する筋群や胸郭上の動きも確認することです。
上腕骨の見かけにだまされない
投球障害肩では、上腕骨のアライメントも確認します。
ただし、ここで注意したいのは、上腕骨の向きが「肩甲骨の位置」によって見かけ上変わることです。
たとえば、上腕骨が正常に見えても、肩甲骨が外転位にあると、実際には上腕骨が内旋位に見える・見えないの判断が変わります。
また、肩甲骨が下方回旋位にあると、上腕骨が外転位にあるように見えることもあります。
- 上腕骨が内旋して見える時は、肩甲骨外転、手指屈筋群の短縮、前腕・手部の向きも分けて確認する
- 肩甲骨が前傾して見える時は、上腕骨頭前方変位と混同していないか確認する
- 肩甲骨アライメントが崩れて見える時も、静止姿勢だけでなく、挙上・外旋・投球動作で再確認する
投球動作は高速で複雑です。
静止姿勢だけで「内旋している」「肩甲骨が悪い」と決めるのではなく、動作中にどう変わるかを見ます。
setting phaseの下方回旋を、異常と決めつけない
肩甲上腕リズムを見る時、腕を上げ始める初期相をsetting phaseと呼ぶことがあります。
外転ではおよそ30度、屈曲ではおよそ60度までの範囲です。
この時期の肩甲骨運動には個人差があり、一度下方回旋してから上方回旋へ移るタイプもあれば、下方回旋せずにそのまま上方回旋へ入るタイプもあります。
つまり、腕を上げ始めた瞬間に肩甲骨が少し下方回旋したからといって、それだけで異常とは言えません。
setting phaseの下方回旋は、骨頭が関節窩に対して求心位を求める現象として見られることがあります。個人差のある動きを、すぐに異常運動として扱わないことが大切です。
投球選手では、わずかな動きの差を問題にしたくなります。
でも、正常な個人差と、症状に関わる制御不全を分けなければ、不要な介入が増えてしまいます。
前鋸筋だけで肩甲骨を語らない
肩甲骨の上方回旋というと、前鋸筋がよく話題になります。
前鋸筋は、肩甲骨の外転や上方回旋に関わる重要な筋です。
ただし、前鋸筋の働きだけで肩甲骨を語ると、投球障害の見立てが狭くなります。
前鋸筋には、肩甲骨を胸郭へ固定する役割もあります。
さらに上部線維では、肩甲骨の挙上や下方回旋に関わる可能性もあります。
中部・下部僧帽筋、大・小菱形筋、前鋸筋、腱板、体幹の動きがどう協調しているかを見る必要があります。
肩甲骨下角周辺の痛みでは、広背筋も候補に入れる
投球障害で比較的まれなものとして、広背筋損傷があります。
投球のアクセラレーション期に、肩甲骨の上方回旋が前鋸筋優位になり、中部・下部僧帽筋の働きが低下していると、広背筋最上方線維に摩擦ストレスが強まる可能性があります。
肩甲骨下角周辺の痛みを「背中が張っている」「肩甲骨まわりの筋肉痛」と軽く扱うと、投球動作特有の負担を見落とすかもしれません。
肩甲骨下角周辺の痛みがアクセラレーション期に出る場合は、広背筋最上方線維への負担、中部・下部僧帽筋の出力、肩甲骨上方回旋の質を合わせて確認します。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、投球時の肩痛を「肩が硬い」「腱板が弱い」だけで片づけないようにしています。
痛む場所を確認し、どの投球フェーズで痛むのかを聞き、肩甲骨、上腕骨、胸郭、体幹の動きを合わせて見ます。
必要に応じて、整形外科での画像検査や医師の確認が必要なケースもあります。
特に、強い外傷、急な筋力低下、しびれ、夜間痛や安静時痛が強い場合は、整骨院だけで判断しないことも大切です。
こんな投球時の肩痛は一度ご相談ください
- 投げる瞬間によって痛む場所が変わる
- 肩後方や肩甲骨下角周辺に痛みが出る
- 投球後半やフォロースルーで肩が抜けるように痛い
- 肩甲骨の動きが左右で違うと言われた
- 休むと良いが、投げ始めるとまた痛みが戻る
- 肩だけのストレッチや筋トレでは変化が少ない
投球時に急な強い痛みが出た、力が入らない、しびれがある、夜間痛や安静時痛が強い、外傷後に痛みが続く場合は、医療機関での確認が必要になることがあります。
投球肩は、痛む場所と痛む瞬間を重ねる
投球時の肩痛では、肩のどこが痛いかだけでなく、どのフェーズで痛むかが重要です。
後外側部痛、前方部痛、肩峰下部痛、肩甲骨下角周辺部痛では、疑うべき背景が変わります。
さらに、肩甲骨が土台として働けているか、上腕骨の見かけの向きにだまされていないか、setting phaseの個人差を異常と決めつけていないかも確認したいところです。
投球障害肩は、肩だけでは完結しません。
肩甲骨、胸郭、体幹、投球フェーズを合わせて見ることで、より実際の動作に近い臨床推論ができると思っています。

瀬谷崎
参考
- Kibler WB, et al. Clinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury: the 2013 consensus statement from the Scapular Summit.
PubMed - Kibler WB, et al. Scapular dyskinesis and its relation to shoulder injury.
PubMed - Evaluation and Management of Scapular Dyskinesis in Overhead Athletes.
PMC - Kinetic Chain Rehabilitation: A Theoretical Framework.
PMC - Approach to Latissimus Dorsi and Teres Minor Injuries in the Baseball Pitcher.
PubMed












