野球肩に3ヶ月完全休養の指示。選手・保護者・監督の間で施術者ができること
セラピスト向け
中学生の投球障害肩、完全休養と競技継続のあいだで
院内では痛みを誘発できないほど回復しているのに、医師の指示は約3ヶ月の完全休養。チームは大事な大会を控え、監督は全力投球を求めてくる。選手と保護者と監督のあいだに立った施術者は、どこから手をつければいいのでしょうか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、学生アスリートの投球障害肩をめぐる立ち回りを考えます。
相談されたのは中学2年生の野球選手です。投球時の肩の痛みが出てから約5週間。6〜7割の力なら投げられて、内野の守備や普段の練習では痛みは出ません。ただ、全力で投げるとまだ痛みが出るという段階でした。
医療機関でのMRI(磁気共鳴画像)検査では、腱板の周囲に炎症の所見が見られたという程度の説明だったといいます。医師の指示は約3ヶ月のノースロー(投球休止)。バッティングは許可されたものの、リハビリの具体的な指導は特にないまま、1ヶ月後の再診を待つ形になっています。
- 発症から約5週間。6〜7割の投球や内野守備では痛みが出ない
- 直近の評価では安静時痛・可動域制限ともになし。2週間前にあった棘下筋の筋力テストでの違和感も消失
- 院内の基本的なテストでは疼痛誘発ができない状態
- MRIの所見は腱板周囲の炎症程度。医師の指示は約3ヶ月の完全ノースロー
- チームは上位大会への出場が決まっており、進路に関わる評価の機会も続く時期
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎完全休養の指示は、医師によって幅がある
腱板周囲の炎症所見に対して3ヶ月の完全休止という指示は、安全側にかなり厚く取った方針だと受け取れます。検討の場でも、疼痛誘発が消えている現状と照らすと極端に感じられる、という見方が共有されました。ここで大事なのは、これを特定の医師の良し悪しの話にしないことです。投球再開の時期や基準に確立した統一見解はなく、方針は医師によって幅があります。
幅があるからこそ、セカンドオピニオン(別の医師に意見を聞くこと)は患者側の当然の権利として伝えられます。スポーツ障害に詳しい医療機関、できればMRI設備のあるところが候補になります。画像データが手元にない場合は一から診てもらう形になるので、その手間も含めて説明しておくと親切です。
施術者は医師の指示を覆す立場にはありません。できるのは、方針には幅があるという事実と、別の専門医に意見を聞く選択肢があるという情報を伝えるところまで。選ぶのは本人と保護者です。痛みが再燃したときや症状の質が変わったときは、医師の再評価を最優先にします。
恐怖で行動を変えさせる説明の副作用
本例で気になったのは、選手が「このまま続けると一生野球ができなくなる」という趣旨の説明を受け、絶望したと話していたことです。行動を止めるという目的だけを見れば、恐怖を使った説明には即効性があります。ただ、その代償は小さくありません。
「投げ続けると腱板が切れる」といった因果の言い切りも、正確とは言えません。腱板の部分断裂には症状のないまま経過する例が知られていて、画像の所見と痛みや機能は必ずしも一致しないからです。断定的な悪い予言は、成長期の選手の競技意欲や痛みの受け止め方にまで影を落とします。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎肩の回旋は3つのポジションで確認する
投球をどこまで許容できるかを見立てるうえで、評価の精度は前提になります。結帯動作(腕を背中に回す動作)の確認だけで肩を見た気になってしまうケースは意外と多いのですが、投球障害の評価としては不足です。腕の位置によって、回旋で伸ばされる組織も、関節にかかるストレスも変わるからです。
- ファーストポジション(腕を体側に下垂した位置)での内旋・外旋
- セカンドポジション(肩を外転90度にした位置)での内旋・外旋
- サードポジション(肩を屈曲90度にした位置)での内旋・外旋
特にセカンドポジションは投球動作に近い肢位で、ここでの回旋制限や痛みの有無が、安全に投げられる範囲の見立てに直結します。3つの肢位で左右差と痛みの出方を押さえておくと、投球をどの強度まで許容するかの判断材料が具体的になります。
疼痛誘発がなければ、テーピングで安全域を区切る
全力投球か完全休止か、という二択で考える必要はありません。院内で疼痛誘発が全くない本例のような場合の選択肢として、検討ではテーピングで可動域の一部を制限し、痛みの出ない範囲で投球を続けられるようにする方法が挙がりました。9割程度の力で投げられる状態を狙う考え方です。
- 肩周辺の筋の走行に沿ったキネシオテープで、投球時の負担を補助する
- 骨頭の上方への滑りが疑われる場合は、外転90度付近に1本貼って外転を誘導し、三角筋の過剰な収縮なしに腕が挙がるよう助ける
- 投球障害でよく見られる骨頭の前方への滑りに対しては、水平伸展と最大外旋を可動域のぎりぎり手前で止めるように貼る
狙いは、痛みを誘発しうる最終域だけをテープで区切り、その内側で競技を続けられるようにすることです。効果の出方には個人差があるため、貼った状態で投球の強度を段階的に上げ、痛みが出ないことを確かめながら進めます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎優先課題は、監督とチーム方針のすり合わせ
本例では、投げられない状態であることが監督に十分伝わっておらず、指示された全力投球で痛みが出た経緯がありました。中学生の部活動では選手層の事情から、代打だけの出場のような限定起用が現実には成り立ちにくく、試合に出るなら守備も送球もついてきます。この現実を無視した計画は機能しません。
だからこそ、医師の指示内容・現在の状態・投げられる条件を、保護者を通じてでも監督に伝わる形にすることが先決です。そして軸に置くのは本人の意思です。本例の選手は、痛みのない範囲でやりたいとはっきり話していました。検討では、セカンドオピニオンの提案、テーピングでの投球支援、監督への情報共有を並行して進める方針が挙がりました。
瀬谷崎別の競技でも、出場可否の判断が検討されたことがあります。中学生の剥離骨折で、本人の出たい意志が強いケースです。柔道整復師としての一般的な答えは、絶対に出さないこと。そのうえで、本人と保護者・監督への十分な説明を前提に、例外的な判断があり得るかどうかが論点になりました。
検討の結論は、進学先が決まっているなど選手の将来を考えると、基本は出さない方向で判断すべき、というものでした。自己決定権は尊重しつつ、最終判断は保護者と監督への説明を経て行う。未成年の将来を預かる場面では、その場の希望より先を見た判断が要る、という点は、この記事の板挟みと同じ構図です。




