腱板部分断裂と診断された患者に、カフトレーニングをどこまで・どの順で行うか
セラピスト向け
断裂している筋を避けて、残りのカフを選択的に鍛えるという考え方
腱板の部分断裂と診断された患者さんに、ローテーターカフ(回旋筋腱板)のトレーニングをどこまで行ってよいのか。タオル挟みのような低負荷種目なら大丈夫なのか、断裂している棘上筋そのものを鍛えてよいのか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、種目と負荷の選び方を考えます。
相談された症例は、発症から約3ヶ月の肩の痛みです。前の年に反対側の肩を痛めて整形外科で注射に通い、可動域の制限は残るもののある程度落ち着いた経過があり、今年の1月から今度は逆の肩が痛みはじめました。同じように注射をしても良くならず、MRI(磁気共鳴画像)で腱板の損傷が判明して、肩の専門医に紹介という流れです。
画像で指摘されたのは棘上筋の断裂(部分的な損傷)でした。来院した3月半ばの時点では夜間痛で眠れず、通勤電車で患側の隣に人が座るだけで痛いという状態。相談の時点では夜は眠れるようになっていましたが、注射の直後は楽でもすぐ戻る、という状態がひと月ほど続いていました。
- MRIで棘上筋の断裂(部分的な損傷)が指摘され、肩の専門医へ紹介されている
- 発症は今年1月。相談時点で約3ヶ月が経過
- 初期は夜間痛で眠れなかったが、現在は消失している
- 医師からの安静指導は特になく、整形外科でも体操を勧められている
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎タオル挟み程度の低負荷なら、基本的に問題ないと考えられる
まず低負荷の種目から。相談では、脇にタオルを挟んで軽く力を入れる種目や、いわゆる延伸性収縮(筋が伸ばされながら力を出す使い方)で、断裂した棘上筋を痛めることはないか、という具体的な質問が出ました。答えは、収縮様式そのものはあまり気にしていない、というものです。タオルを挟む種目はそもそも強い収縮が入らないので、様式が求心性か延伸性かにかかわらず、基本的に大丈夫だろう、と。
検討の場でも、収縮のかけ方を細かく気にするより、まず収縮の強さが弱いかどうかを見る、という順序でした。強い収縮が入らない種目なら、様式の議論に踏み込む前に、そこまで神経質にならなくてよいという見立てです。
それより重要なのは、どの筋がどの程度切れているのかと、発症からの時間です。同じ「腱板損傷にカフトレーニング」でも、この条件を確かめずに種目だけ真似ると、避けたい負荷を断裂部にかけてしまうことがあり得ます。
断裂している筋への高負荷は避け、他のカフ筋の選択的トレーニングへ
腱板断裂では、断裂している筋そのものに強い収縮をかけることは勧められません。断端が広がる可能性があるからです。逆に言えば、避けたいのは断裂した筋そのものへの強い負荷であって、そこさえ外せば、収縮が求心性か延伸性かを神経質に選び分ける必要はない、という考え方につながります。そこで、棘上筋が断裂しているなら棘上筋以外のローテーターカフ、たとえば棘下筋や肩甲下筋の選択的トレーニングを中心に組む。逆に棘下筋の断裂なら、それ以外のカフ筋を選ぶ。検討ではこの原則が共有されました。
本例は棘上筋の断裂ですから、基本方針は棘上筋以外のカフ筋の選択的トレーニングが中心になり、断裂している筋への運動は極力避けることになります。
タオル挟みのような弱い収縮の種目は基本的に可。避けたいのは、断裂している筋そのものへの高負荷です。カフを一括りにせず、切れている筋と残りの筋を分けて種目を選びます。
教子先生
瀬谷崎
まなぶ先生低負荷から漸進する。輪ゴム・エア動作からチューブへ
負荷の上げ方について、検討で挙がった進め方は次の順です。回数や重さの数値を機械的に決めるのではなく、炎症の落ち着きと、代償なく収縮できるかどうかを段階の目安にします。最初から強い負荷を当てにいくのではなく、他の筋の代償が入るうちは負荷を落として、狙った筋が働く感覚を先につくる。狙った筋できちんと収縮できる段階まで来たら、チューブでしっかり負荷をかけるところまで進めてよい、というのが到達点のイメージでした。
- 炎症が強い間は安静を優先する夜間痛や安静時の強い痛みが残る時期は、運動で炎症が広がる可能性を考え、落ち着くまで待ちます。
- 輪ゴムやエア動作の低負荷から始める他の筋の代償が入ってしまうようなら、輪ゴムを使ったり、抵抗なしのエア動作でもよいので、ごく低負荷から狙った筋の収縮をつくります。
- 収縮できるようになったらチューブへ狙った筋できちんと収縮できるようになったら、チューブを使ってしっかり負荷をかけたトレーニングに進めます。
カフだけを鍛えて終わりではありません。僧帽筋のトレーニングを合わせて、肩甲骨のコントロールができるようになり、骨頭の求心位を保てるようにする。僧帽筋トレーニングとローテーターカフのトレーニングの組み合わせが、検討ではスタンダードな型として共有されました。
医師の診断・方針との整合を取りながら進める
もうひとつ、検討を通じて繰り返し出てきたのが、医師とのやりとりです。本例のMRIには、棘上筋の断裂に加えて腱板の炎症などいくつかの所見が併記されていて、どの筋がどの程度切れているのかは、画像の記載だけでは読み切れない部分がありました。だからこそ、ドクターとやりとりしてみないと厳密には分からない、という前提で話が進みました。画像所見の詳細や運動の可否は診断に関わる領分で、そこは医師の判断が正になります。
幸い本例は、安静指導は特になく、整形外科でも体操を勧められている状態でした。医師の方針と同じ方向を向いたうえで、断裂筋を避けた選択的トレーニングと僧帽筋トレーニングを組む。経過が思わしくない場合や判断に迷う所見が出た場合は、施術側で抱え込まず、主治医への受診・相談を挟むことが前提になります。
瀬谷崎




