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痛い場所が、悪い場所とは限らない。体の「運動連鎖」とは

膝が痛いのに、なぜ足や股関節を調べるのか

膝が痛い、腰が痛い。その場所をいくら揉んでも、なかなか変わらない。実は体の関節は、足首・膝・股関節・骨盤と、鎖のようにつながって動いています。これを運動連鎖(うんどうれんさ)と呼びます。だから痛みの原因は、痛む場所から少し離れたところにあることも、決して珍しくありません。

体のどこかが痛いとき、痛い場所がそのまま悪い場所だと考えるのは、とても自然なことです。

もちろん、痛む場所そのものに問題があることもあります。

ただ、体の関節はそれぞれが独立して動いているわけではありません。足首が動けば膝が動き、膝が動けば股関節や骨盤も動く。ひとつの動きが、つながった先の動きを引き出しているのです。

この記事では、運動連鎖とはどういう考え方なのか、なぜ「痛む場所」と「原因の場所」がずれることがあるのか、そして整骨院ではどう向き合うのかを確認します。

体の関節は「鎖」のようにつながっている

運動連鎖とは、ひとつの関節の動きが、隣り合う関節の動きに連動していく現象のことです。とくに立つ・歩く・しゃがむといった、足が地面についた状態での動きでは、足首から骨盤までが一本の鎖のように影響し合います。

たとえば足首の内側が落ち込む(回内する)と、その上の膝は内側へ入りやすくなり、股関節は内側にねじれ、骨盤は前に傾く。こうして、下から上へと連動が伝わっていきます。逆に、骨盤が後ろに傾けば、股関節・膝・足首はその反対方向に動こうとします。

下の図は、その典型的なつながりを示したものです。左右で、骨盤の傾きに応じて股関節・膝・足首の向きがそろって変わっているのが分かります。

下肢の典型的な運動連鎖を示す図。骨盤の傾きに連動して股関節・膝・距骨下関節の動きが変化する様子
▲ 下肢の典型的な運動連鎖。骨盤の傾き(前傾/後傾)に連動して、股関節・膝・足首の向きがそろって変わります(とんとん整骨院・瀬谷崎将也)
まなぶ先生 まなぶ先生

患者さんは「痛いところを治してほしい」と来られます。運動連鎖って、実際そんなに痛みに関わってくるものなんですか?

教子先生 教子先生

痛いところに原因があるんだから、その部位をしっかり緩めて整えれば十分でしょう。連鎖まで広げると、話が大きくなりすぎない?

瀬谷崎 瀬谷崎

そこが見落としやすいところなんです。たとえば足部が回内すると、運動連鎖で膝は外反、股関節は内旋へ引っ張られる。すると痛むのは膝でも、入力源は足や股関節側にある、ということが起こります。痛む組織だけを触っても、上流の動きが変わらなければ戻りやすい。だから、「どこが痛いか」と同時に、「どこからの連鎖か」も分けて見ておきたいんですよ。

なぜ「痛む場所」と「原因の場所」がずれるのか

関節が鎖でつながっているということは、どこか一か所の動きが崩れると、そのしわ寄せが別の場所に集まる、ということでもあります。

たとえば、足のアーチが崩れて足首が内側に倒れやすい人は、その上の膝が内側に入りやすくなります。膝はもともと、ねじれや横方向の動きが得意な関節ではありません。そこへ連鎖でねじれの負担が乗り続けると、膝の周りに痛みが出てくることがあります。

このとき、痛いのは膝でも、負担を生んでいる「上流」は足や股関節側にある、というわけです。痛む場所だけをケアしても、上流の動きがそのままなら、また同じところに負担が戻ってきます。

最初に分けたいこと

「痛む場所」と「原因の場所」は、必ずしも同じではありません。痛むところをほぐして一時的に軽くなっても、すぐ戻ってしまうときは、少し離れた関節の動きが関わっている可能性があります。

整骨院では、運動連鎖をどうたどるか

運動連鎖の視点で体を見るときは、痛む場所だけでなく、その上下にある関節の動きや、左右差、立ち方・歩き方までを確認していきます。

足首・膝・股関節・骨盤のどこに動きの崩れがあり、それが連鎖のどこへ負担を送っているのか。痛む場所のケアと並行して、その「上流」と「下流」の動きを整えることで、同じところに負担が戻りにくい状態を目指します。

大切なのは順番です。強い腫れや熱っぽさがある時期、しびれや力の入りにくさがあるときは、まずそちらの確認が先になります。連鎖の話は、危険なサインがないことを確かめたうえで進めていきます。

まなぶ先生 まなぶ先生

連鎖を意識すると、今度はどこを見ればいいか迷います。結局、何から手をつければいいんでしょう?

教子先生 教子先生

とりあえず一番動きが悪いところを徹底的に緩めれば、連鎖もまとめて整うんじゃない?硬いところが原因なんだし。

瀬谷崎 瀬谷崎

一番硬いところが原因とは限らないんです。その硬さ自体が、別の場所をかばった結果ということもある。順番としては、まず痛みを出している組織と炎症の有無を確かめて、レッドフラッグ(危険なサイン)を外す。そのうえで立位や歩行、片脚での崩れ方を見て、連鎖のどこが入力源かを絞っていく。見立てなしに緩めても、上流が変わらなければ戻ってしまいますからね。

こんなときは早めに相談を

強い腫れや熱感がある/しびれや力の入りにくさがある/夜も痛くて眠れない/転んだあとから痛む。こうしたときは、自己流のセルフケアを続けず、医療機関や専門家にご相談ください。

痛い場所の「周り」にも目を向ける

体の関節はつながって動いています。だから、痛む場所をいくらケアしても変わりにくいとき、答えが少し離れた場所に隠れていることがあります。

「痛む場所」と「原因の場所」を分けて考える。これは、痛みとの向き合い方を少し広げてくれる見方です。

なかなか取れない痛みがあるときは、どの動作で・どこが・どんなふうに痛むのかを手がかりに、足首から骨盤までのつながりも含めて、一度ご相談ください。

瀬谷崎 瀬谷崎

運動連鎖は、臨床で着目する頻度の高い現象のひとつだと思います。痛む場所だけを追うのではなく、その動きがどこから来ているのかを、足首・膝・股関節・骨盤のつながりから見ていく。考え方のスタート地点として、とても役に立つ視点なんです。

実際の検討例(オンラインカンファレンス)

69歳でバレーボールを続けている男性の膝の痛みを、治療家どうしで検討した回があります。練習の後半になると膝の裏が痛くなり、正座やしゃがみ込みでも痛むという方でした。一方で、その場での踏み込みやジャンプでは痛みが出にくいという特徴がありました。

検討では、膝だけの問題として見るのか、足首や股関節から連鎖して負担が来ているのかが話し合われました。足首の動きの制限があると、その上にある膝に負担が回って痛みが出ることも十分に考えられる、という見方が出ています。全身を使うスポーツの後半に痛むという点も、膝単体では片づけにくい手がかりとして挙がりました。

痛む場所と、負担のもとになっている場所が別のことがある。膝から足元や股関節へとさかのぼって原因を探したこの検討は、本記事の運動連鎖の視点そのものの例です。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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