「反り腰を治したい」にどう応えるか。姿勢評価と患者説明の考え方
セラピスト向け
姿勢の訴えは、エビデンスの濃淡で応える
「反り腰を治したい」という相談は、症状のない患者さんからも寄せられます。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった相談をもとに、姿勢測定機器の位置づけ、症状との関連で押さえたい部位、美容目的の見きわめまで、施術者としての応え方を掘り下げます。
発端は、参加院からのこんな相談でした。腰痛や肩こりで姿勢を気にされる患者さんは多いが、解剖学的に良いとされる姿勢と、患者さんが思う良い姿勢は違う気がする。姿勢不良が腰痛につながるとも、つながらないとも言い切れないなかで、何を基準に介入すべきなのか。
具体例として、症状はないものの反り腰を気にしている学生の患者さんへの対応が話題になりました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎「姿勢が悪い」の中身を最初に聞く
共有された実践は、患者さんが姿勢を気にしていると分かったら、毎回まず「何をもって自分の姿勢が悪いと感じているのか」を聞く、というものでした。聞いてみるとパターンは多岐にわたります。
- 写真に撮られた自分を見て驚いた
- 友達や親から指摘された
- 姿勢が悪い自覚はないが、症状の原因は姿勢だろうという認識から来ている
- 歩き方やかかとの減り方の左右差から推測している
訴えの出どころが分かれば、患者さんが本当に気にしているものへの介入を考えられます。
もうひとつ大事な視点が挙がりました。患者さんが想定している「良い姿勢」が、バイオメカニクス(生体力学)的にはむしろ望ましくない場合があるという点です。
その場合、患者さんはその姿勢そのものになりたいわけではなく、「腰痛を改善させるにはこの姿勢が必要だ」と思い込んでいることが多い。だとすれば、直すべきは姿勢ではなく説明のほうかもしれません。
姿勢測定機器は、説明のためのツールとして使う
相談のなかでは、とんとんが導入している姿勢測定機器の点数が、解剖学的な基準に基づくものなのかという質問もありました。仕組みとしては、いわゆるゴールデンライン(耳から外果までを結ぶ基準線)を100点とした場合に各部が前後にどれだけずれているかを評価しているとみられます。
ただし運用上の位置づけははっきりしていて、点数を絶対的な指標として当てにしないことが推奨されています。院内の研修でも、患者さんに点数を強調しすぎないよう伝えているほどです。良い姿勢は人によって異なるからです。
では何のために使うか。挙がった用途は二つです。
- こちらが介入したいポイントを評価するため。頭部の前方偏位や骨盤の位置など、修正したい対象がはっきりしているとき、その変化を追う物差しになる
- 施術前後のビフォーアフターを見せて、患者さんの納得感を高めるため
逆に言えば、この二つを超えて点数そのものを治療目標に据えることは推奨されていません。
姿勢測定の点数は絶対的な指標にせず、介入したいポイントの評価と、ビフォーアフターを伝える説明ツールとして使う。点数自体を治療目標にはしない。
症状との関連で注目するのは、胸椎の屈曲と頭部の前方偏位
姿勢と症状の関連について、ある程度コンセンサス(見解の一致)が取れているのは、胸椎の屈曲度合いと、頭部の前方偏位の程度です。検討の中で出た表現を借りれば「関連がありそうな気配がある、無視していいものではないだろう」という強さの知見で、断定できるほど濃いわけではありませんが、評価で注目する価値のある部位とされていました。
一方で、腰椎の前弯が強い、いわゆる反り腰は、それ単独と症状との関連をそこまで強くは言えません。ここがエビデンスの濃淡です。この濃淡を知っていると、反り腰イコール腰痛の原因、と単純化した説明を避けられます。
症状のない反り腰は、個性として扱う選択肢を持つ
症状がなく、日常生活にも支障がないのであれば、反り腰は体型の個性として許容してよい、というのが検討での方向性でした。脊柱のカーブには生まれつきの個人差があり、症状のない弯曲を是正の対象にする根拠は薄いからです。
冒頭の学生の患者さんのようなケースでは、まず「症状がなければ問題のある状態ではない」と伝えることが、施術より先に提供できる価値になります。
そのうえで見きわめたいのが、訴えの実態が美容目的、つまりボディメイク(体型づくり)の要望である可能性です。
立ち姿をきれいに見せたいという要望は症状の改善とは別の領域で、ボディメイクを専門とする施設のほうが応えられる場合があります。施術で応えられる範囲を伝えたうえで、専門施設への案内も選択肢に含める。抱え込まないことも誠実な応え方のひとつです。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎症状に関連づけるなら、機能面からの介入を軸にする
症状のある患者さんに姿勢を関連づけて説明する場合、軸に据えたいのは見た目のラインではなく機能です。胸椎(背中)の可動性の改善のように、動きの制限に対する介入から始めるほうが効果を出しやすく、「背中の動きを改善して腰への負担のかかり方を変えます」という説明なら、注目すべき部位のコンセンサスとも矛盾しません。
動きが変われば、結果として立ち姿の印象が変わることもあります。順序としては機能が先、見た目は後からついてくるもの、という置き方です。
なお、患者さん向けの姿勢の考え方は姿勢アプローチのコラムで、自宅でできる運動は姿勢の運動5選の記事で扱っています。施術者側の説明と患者さん向けの発信をそろえておくと、院全体の一貫性が保てます。
- 姿勢の訴えは、何をもって悪いと感じているのかを毎回最初に聞く
- 姿勢測定機器の点数は絶対視せず、介入ポイントの評価とビフォーアフターの説明に使う
- 症状との関連でコンセンサスがあるのは胸椎の屈曲度合いと頭部の前方偏位
- 症状のない反り腰は個性として許容する選択肢を持つ
- ボディメイク目的の要望は見きわめ、専門施設への案内も選択肢に含める
- 症状に関連づけるなら、胸椎の可動性など機能面からの介入を軸にする
「治したい」の中身が分かると、応え方が決まる
反り腰を治したいという言葉の中身は、痛みの改善であったり、見た目の希望であったり、姿勢が原因だという思い込みであったりします。
訴えの出どころを聞き、エビデンスの濃淡に沿って説明し、応えられる範囲と応えられない範囲を伝える。姿勢の相談への応え方は、手技の選択より先に、この対話の設計で大きく決まります。
瀬谷崎





