施術中に患者がすうっと落ちる。血管迷走神経反射が起こりやすい条件と予防
セラピスト向け
失神が起きた日、患者は朝から何も食べていなかった
施術中に患者さんが意識を失った経験はありますか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスでこの質問が出たところ、複数の発生例が集まりました。起こりやすい条件と予防の考え方を、経験談ベースで共有します。
質問を出したのは、これまでに4例の失神を経験しているという参加者でした。いずれも意識は10秒から長くて1分ほどで戻り、大事には至っていません。
それでも、目の前で患者さんの反応が消えていく経験は、何度あっても慣れないといいます。一方で、一度も遭遇したことがないという参加者も複数いて、頻度の感じ方には施術者ごとにかなりの差がありました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎実際に挙がった発生例
今年だけで2例を経験したという参加者の話から見ていきます。1例は激しい肩の痛みで来院した方(のちに医療機関で石灰沈着と分かった方)でした。痛みが強く、まだ話を聞いている段階で「ちょっと気持ち悪いかも」と訴え、横になってもらった直後に反応がなくなり、顔面蒼白になったそうです。
もう1例は肩の激痛で来院した知人。2例とも、当日はほとんど食事も水分も摂っていない状態でした。別の参加者からは、スポーツで汗をかいた直後の男性に、体験ブースで肩周囲へハイボルト(高電圧の電気刺激)をかけたところ意識を失い、倒れて顔面を打った例が挙がりました。この方も10秒ほどで意識が戻っています。
発生した場面を並べると、施術の真っ最中とは限りません。座って問診をしている段階が多く、側臥位で施術中だった例のほか、肘の外側上顆へ超音波を当てたあとの会計時に倒れた例、前胸部へ施術していた例もありました。
- 痩せ型の患者さんで、体調のよくない日に起きているという印象が共有された
- その日ほとんど食事や水分を摂っていなかった例が複数あった
- 暑い時期の現場仕事のあとなど、脱水が疑われる状況が重なっていた
- 強い痛みを抱えた急性期の来院で起きた例が続いた
- 施術中だけでなく、問診中や会計時にも発生していた
原因として挙がった仮説
原因をひとつに絞れた例はありませんでした。低血糖なのか、起立性低血圧なのか、脱水なのか、血管迷走神経反射なのか。強い刺激を入れていた場面ばかりではないため、施術側の要因より患者さん側の条件が大きいのではないかという見方が語られています。
刺激側の仮説もひとつ挙がりました。ハイボルトで失神した例では、パッドの位置が尺骨神経に近かったことから、尺骨神経の周囲には交感神経線維が多く、そこへの強い刺激が反射を誘発したのではないかという見立てです。
TOS(胸郭出口症候群)の方に自律神経症状が多いのは、この交感神経線維の多さが関係しているのではという話も、あわせて紹介されました。前胸部へ施術していた例も、あとから振り返れば神経への圧迫が引き金だった可能性があると語られています。
ここに挙げた機序はいずれも参加者の経験にもとづく仮説で、文献で確かめられたものとして共有されたわけではありません。前兆についても、冷汗のような分かりやすいサインより、返事が鈍くなる・「ちょっと気持ち悪いかも」という一言が先に来た例が多かった、という経験則の域です。
予防をどう組み立てるか
経験談から拾える予防策は、特別な技術ではなく、問診と観察の範囲に収まるものでした。
- 当日の食事と水分を確認する発生例の多くで「朝からほとんど食べていない・飲んでいない」が共通していました。痩せ型で顔色のすぐれない患者さんや、暑い時期の現場仕事あけの方には、問診の一項目として聞いておきます。
- 条件が重なる日は体勢と刺激量を落とす空腹・脱水・強い痛みがそろっている日は、座位より臥位を選び、電気刺激や強めの徒手は控えめから始めます。神経の近くへ刺激が入る場面では、とくに反応を確かめながら進めます。
- 会話を続けて、前兆の時点で手を止める返事が鈍くなった、気分の悪さを口にした。その時点で施術の手を止め、横になったまま休んでもらいます。会計時に倒れた例もあるため、立ち上がったあとまで様子を見ます。
前胸部への施術中、肘外側上顆への超音波照射のあと、上肢へのハイボルト中に発生した例が共有されています。交感神経線維の多い神経の近くへ強い刺激が入る場面は、空腹や脱水の条件がそろった日ほど慎重に扱いたいところです。
数十秒で戻るからこそ、起きる前に構えておく
共有された例の多くは、10秒から1分ほどで自然に意識が戻っています。ただ、倒れた拍子に顔面を打った例があるように、失神そのものと同じくらい転倒によるケガが怖い現象です。
実際に倒れたときの初動と、救急要請を考える危険なサインの見分け方は、院内で患者さんが急に倒れたときの対応を扱った記事に詳しくあります。本記事の範囲は、その手前の予防と心構えまでです。
瀬谷崎





