説明不足が痛みを悪化させた症例から。過敏になっている患者への言葉と連絡の設計
セラピスト向け
過敏になっている痛みには、介入より先に言葉を選ぶ
電車内で肩に軽くぶつかられただけで、強い自発痛が長く残ってしまった40代女性の症例です。施術で症状はいったん大きく改善しましたが、電気刺激をめぐる説明不足から不信感が生まれ、悪化に転じてしまいました。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスの検討をもとに、過敏になっている患者さんへの言葉の選び方と、施術間の連絡のあり方を考えます。
相談のもとになったのは、電車の中でよろめいた別の乗客に肩をぶつけられたことをきっかけに、右の上肢に自発痛と挙上時の機能障害が出た患者さんのケースでした。打撲そのものは軽く、圧痛や炎症の所見もはっきりしません。
しかし問診を進めると、肘や前腕、体幹など複数の部位に、何年も前の出来事をきっかけにした痛みが残っていました。ここまで範囲が広い患者さんは、担当した治療家にとっても初めての経験だったといいます。運動習慣がほとんどなく、痛みを避けてドアを引く動作も控えている状態からのスタートでした。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎きっかけは小さく、反応は大きい
軽い接触という小さなきっかけに対して、自発痛や機能障害という大きな反応が出ている状態は、中枢性感作を考えるきっかけになります。過去の複数の痛みを「昔からそういう体質だ」と本人が捉えている点も気になるところです。
こうした感度の高さは、問診だけでなく慢性痛で使う質問紙を使うと数値としても確認しやすくなります。担当した治療家の方針は次のとおりでした。
- まず運動習慣をつけることを提案する
- 避けていたドアを引く動作を取り戻すことを提案する
- 施術は負担の少ない手技と温熱を中心にする
結果、しびれが軽くなりドアも開けられるようになるなど、経過は順調に見えていました。
転機になったのは、電気刺激ではなく説明の不足
経過が良好に見えていたある日、低周波による電気刺激の施術中に院内が混み合い、担当の治療家がその場を離れる時間がありました。1週間後、患者さんから「あの時の電気が強く、痛みを感じたが、忙しそうで言い出せなかった」という申し出があり、電気を当てた部位に自発痛と息苦しさが続く状態になってしまいました。
頸部や背部の徒手筋力検査(MMT)や関節可動域(ROM)を確認しても、再現できる痛みは見当たりません。組織を傷めた可能性は低いという説明を尽くしても、不安は解消されませんでした。
刺激の強さの問題というより、その場で確認と説明ができなかったことによる信頼の揺らぎだったと考えられます。痛みへの感度が高くなっている患者さんほど、施術中の小さな出来事が不信感につながりやすく、その不信感自体が痛みを強くする方向に働くことがあります。
説明の言葉を選び直す
このケースからの学びとして、まず挙がったのは説明の言葉そのものです。組織の損傷がなくても痛みは起こり得ること、損傷がないからといって痛みが軽い・本物ではないという意味にはならないことを、繰り返し伝える必要があります。
特に有効だったのは「痛みを強く感じる」ではなく「痛みを強くする」という言い方です。「感じる」だと気持ちの問題と誤解されやすくなります。
不安や睡眠不足が実際に痛みを強くしたり長引かせたりする、という伝え方のほうが、患者さんの痛みをそのまま認める姿勢として届きやすくなります。
介入は不安を呼びにくいものに絞る
2つ目の学びは、介入の選び方です。電気刺激やハイボルトのように不安を呼びやすい刺激は控え、運動療法とコミュニケーションを中心に据える判断です。
痛みの出ない範囲での運動を繰り返し、話を聞く時間を厚く取ることが、安定した経過につながりやすいという意見が共有されました。中枢性感作がある患者への運動療法でも触れているとおり、能動的に体を動かしてもらう時間そのものが、患者さんの回復への手応えにつながります。
痛みが減ったことを喜ぶと、意識はどうしても痛みに向かいます。それよりも、避けていたドアを開けられるようになった、といった「できるようになったこと」への肯定的なフィードバックを重ねるほうが助けになります。痛み日記をつけてもらう場合も、数値だけでなく、できた行動を書き留めてもらうとよいでしょう。
- 組織損傷がなくても痛みは起こり得ることを繰り返し伝える
- 「強く感じる」でなく「強くする」という言い方で気持ちの問題との誤解を防ぐ
- 電気刺激・ハイボルトなど不安を呼びやすい刺激は控え、運動療法とコミュニケーションを中心に据える
- 痛みの増減より、できるようになった行動への肯定的なフィードバックを重ねる
- 施術間の連絡は、依存の助長と痛みの想起というデメリットを踏まえ状況ごとに判断する
LINE(ライン)など施術間の連絡は状況で判断する
症状が悪化して来院が途絶えたあと、担当の治療家からは、LINEで様子を尋ねてよいものかという相談も出ました。連絡を重ねることのデメリットとして、次の点が挙がりました。
- 患者さんを痛みへ引き戻すおそれがある
- 依存を助長するおそれがある
- 症状が落ち着いていた場合、連絡がかえって痛みを思い出させることもある
一方で、根拠のはっきりしない民間の方法に頼るよりは、なじみのある治療院に戻ってきてもらうほうが良い選択になり得ます。
回答した瀬谷崎自身は、基本的には連絡を取る側という立場でしたが、慢性化が進んでいる患者さんについては、タイミングと頻度をより慎重に判断したほうがよいという話でした。
ペインクリニックへつないだ判断も、対応のうち
最終的に、この患者さんの痛みは担当の治療家だけで対応できる範囲を超え、ペインクリニックへの受診を勧める判断に至りました。
これは対応の失敗ではなく、対応の一部です。複数の部位に及ぶ慢性の痛みを抱えた患者さんに対しては、一人の治療家、一つの治療院だけで抱え込まず、必要な時点で医療機関につなぐ選択肢も持っておきたいところです。
過敏になっている患者には、介入より先に言葉を選ぶ
今回のケースで悪化のきっかけになったのは、電気刺激そのものではなく、その場での確認と説明が足りなかったことでした。組織損傷と痛みは同じではないという前提を繰り返し伝え、不安を呼びにくい介入を選び、できたことへ意識を向ける。どれも地味ですが、痛みへの感度が高い患者さんほど効いてくる工夫です。
瀬谷崎





