TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)が長引くとき。整復とテーピング、グーパー運動、生活の癖まで
セラピスト向け
長引くTFCC損傷は、手首の使い方の癖まで調べる
ハイボルト(高電圧の電気刺激)とテーピングで対応しても、TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷の痛みがなかなか引かない。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった相談をもとに、瀬谷崎が共有した長期化例への考え方を紹介します。
TFCC損傷は手関節の小指側を痛める代表的な疾患で、物療とテーピング、骨間筋を緩めるマッサージという定番の組み合わせでも長引く例が珍しくありません。病態の評価やフォベアサインなどの鑑別は別の記事で扱ったので、今回は「評価は済んでいるのに痛みが続く」場面に絞ります。
話の核は四つです。尺骨の変位をとる整復操作と維持テーピングという選択肢、グーパー運動での中間位保持の練習、日常生活に隠れた尺屈の反復要因の聴取、そして体型や姿勢という背景です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎尺骨の変位をとる整復操作という選択肢
瀬谷崎がTFCC損傷の患者さんに最初に行うことが多いのが、尺骨の背側への変位をとる整復操作です。半月板の整復操作は知られていても、TFCCの整復はあまりメジャーではなく、聞いたことがないという治療家も少なくありません。
操作の流れとしては、尺骨の茎状突起のあたりを母指球で圧迫し、押し込みながら手関節を軽度背屈させる形です。変位のある人では乾いた整復音がキンと明確に鳴ることが多く、TFCC損傷に限らず、こうした変位のある人ではよく起こる現象だといいます。
やり直すとしても2〜3回までのイメージで、しつこく行うとかえって痛めます。変位のない正常な手関節に行っても、ただ痛いだけです。文章だけで再現できる操作ではないので、行うなら必ず院内で練習してからにしてください。
整復した位置を保つためのテーピング
整復してもそのままでは変位が戻りやすいため、維持のためのテーピングを組み合わせます。選択肢はいくつかあります。
- 橈骨と尺骨をリストバンドのように環状に圧迫する、ややきつめのテーピング(整復位の維持を狙う)
- 尺屈しないように制動する一般的な方法(橈側方向へのX(エックス)貼りやストレート貼り)
- ハイボルトなどの物療の併用
どれか一つに絞る話ではなく、整復で変位をとり、テーピングで位置を保ち、物療も併用するという役割の分担です。橈骨と尺骨を締めるバンド状のテーピングは、それだけで楽になるという患者さんも多い方法です。
グーパー運動で癖を評価し、そのまま練習に使う
整復とテーピングで一度楽になっても、手関節の使い方の癖が残っていると、尺屈のストレスが繰り返されてまた痛みが出ます。そこで評価したいのが、手指を動かすときの手関節の動きです。
手指を動かしながら手関節を中間位に保つコントロールは意外に複雑で、いろいろな筋が適切に協調しないと維持できません。グーパーを繰り返してもらうと、パーのたびに手関節が尺屈する癖の人が結構います。手根管症候群では逆に、パーの瞬間に橈屈する別のパターンも見られます。
- 何も意識させずにグーパーしてもらう手指の開閉をただ繰り返してもらい、そのときの手関節の動きを観察します。
- 代償パターンを確認するパーのときに尺屈していないか。橈屈が出るなら手根管系でよく見る別パターンとして区別します。
- 中間位を保ってグーパーを練習する評価がそのまま運動療法になります。尺屈しないよう中間位を保ったままグーパーを繰り返してもらい、運動パターンを修正します。
- 関わる筋への施術を加える代償に関わる筋がテストで引っかかる場合は割と多いので、その筋への施術も組み合わせます。
日常生活に隠れた尺屈の反復要因を聴き取る
院内での修正がうまく進んでも、日常生活動作の中に尺屈を繰り返す要因が隠れていると、そこで改善が止まります。
印象的な例として、整復するとすぐ楽になるのに、1日ほど経つとまた痛みが戻り、尺骨の変位も再発している患者さんがいました。新聞配達の仕事をしている方で、自転車の前かごから新聞を取る動作を細かく聴くと、強い尺屈を伴う独特の取り方の癖が見つかりました。
その取り方を修正してもらったところ、繰り返していた痛みが落ち着いたそうです。こちらが想像しないような場面に尺屈の反復が組み込まれている人は珍しくありません。
物を取る動作ひとつでも、人によって癖は大きく違います。経過が思わしくないときほど、仕事や生活の動作を場面ごとに細かく聴いていくと、意外なところで尺屈していると分かることがあります。
体型と姿勢という背景も頭に置く
背景として、肥満体型のデスクワーカーにTFCC損傷が多いという話もあります。脇が締まらない姿勢でキーボードを操作すると手関節が尺屈位になりやすいためで、姿勢を崩してデスクワークをしている人や、脇が開きやすい筋肉質の体格の人でも同じことが起こりえます。
難治性の例も一定の割合であるとされ、長引く人は本当に長引きます。それでも瀬谷崎の経験では手術に至った人はおらず、保存で何とかなる場面が多いという感触です。
- 尺骨の背側変位があれば整復操作を試す(繰り返しは2〜3回まで・院内で練習してから)
- 整復位の維持に、橈骨と尺骨を環状に圧迫するバンド状のテーピングを使う
- グーパー運動で手指運動時の尺屈・橈屈の代償を評価し、中間位保持の練習に転用する
- 日常生活動作を細かく聴取し、尺屈を繰り返す癖を修正する
- 肥満体型やデスクワーク姿勢は手関節が尺屈位になりやすい背景として頭に置く
局所の処置と癖の修正を両輪にする
局所の処置で経過が動かないときは、手首の中で起きていることと、手首の外で繰り返されていることを分けて考えると打ち手が増えます。整復と維持テーピングで局所を保ちながら、グーパー運動と聴取で癖の側に手を付ける。この両輪が長期化への対応の骨格になります。
瀬谷崎





