中手骨骨折の固定範囲で医師の見解が割れた。間に立つ施術者の受け止め方と伝え方
セラピスト向け
指先までのシーネ固定か、短い固定か。医師の見解が割れた症例
中手骨(ちゅうしゅこつ・手の甲の骨)の骨折で紹介した整形外科では、前腕の半ばから指先までを覆うしっかりしたシーネ固定が行われました。ところが別の医師の見解は「指先まで固定すると動かなくなる」と真逆。患者さんは不安を口にしはじめます。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、医師の間で固定方針が割れたとき、間に立つ施術者の受け止め方と伝え方を考えます。
相談されたのは40代女性の症例です。手の中手骨を骨折し、相談者は対応の良さを見込んで普段から骨折の患者さんを紹介している近隣の整形外科へ送りました。その日の担当は週1回の非常勤の医師で、前腕の半ばから指先までを含む、がっちりとしたシーネ固定が行われました。
後日、同じ患者さんをかかりつけの院長が診たところ、固定範囲に強い疑問が示されました。中手骨の骨折で指先まで固定すれば、指が動かなくなってしまう(拘縮する)という見解です。真逆の説明を続けて聞いた患者さんは「あの整形外科は大丈夫なのだろうか」と不安を口にするようになりました。
- 中手骨の骨折に、前腕の半ばから指先までのシーネ固定が行われた
- 別の医師は、拘縮のリスクを理由に固定範囲へ疑問を示した
- その後、つかむ動きができるタイプの固定(取り外しできる装具様のもの)へ切り替わった
- 説明が食い違ったことで、患者さんに不安と不信が残った
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎指先まで含む固定は、一般的な選択肢の範囲にある
検討で回答に立った瀬谷崎は、率直な留保から始めています。骨折の固定範囲について、最新の知見の詳細は専門外で詳しくない、という断りです。わからない部分をわからないと言ったうえで、わかる範囲の見立てを添える形です。
そのうえでの見立ては、中手骨の骨折で指先まで含めて固定すること自体は一般的な選択肢として珍しくなく、明らかに不適切とまでは言えない、というものでした。検討の場でも「論外という印象はない」という受け止めで一致しています。
そもそも骨折の診断と固定方針は医師の領分です。施術者の側から正誤を裁定する立場にはなく、疑問があるなら固定を行った医師へ確認してもらうのが筋になります。
広く長く固定するか、短く小さく固定するか
では、なぜ医師の間で見解が割れたのか。検討では、どちらかの誤りではなく、リスクの重み付けの違いとして受け止められました。
広く長い固定は、骨折部の安定を優先する安全側の選択です。かわりに、固定に含めた関節が固まる(拘縮する)リスクを引き受けます。短く小さい固定はその逆で、拘縮のリスクを抑えるかわりに、骨折部へ動きのストレスが及ぶ余地を残します。
どちらを重く見るかは、骨折の状態だけでなく、年齢や手を使う生活への影響でも変わりえます。本例は40代女性で、指の拘縮が生活に及ぼす影響を重く見る判断には十分な筋があります。一方で、最初の医師が安全側へ丁寧に倒した判断にも、同じだけの筋があります。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎つかめる固定への切り替えも、方針の幅の一例
本例にはその後の経過があります。患者さんは、手でつかむ動きができるタイプの固定(取り外しできる装具様のもの)に切り替わって戻ってきました。相談者には今度は「これでは動いてしまうのではないか」という、最初と逆向きの心配が生まれています。
この心配は、最初の疑問のちょうど裏返しです。同じ症例の中でも固定は段階的に緩められ、安定と拘縮予防のバランスの取り方が経過とともに移っていく。固定方針に幅があることの、そのままの実例といえます。
固定の作法は、教科書レベルでも幅がある
固定方針の幅は、この症例に限った話ではありません。橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ・手首の骨折)で知られるCotton-Loder(コットン・ローダー)肢位は、名前のついた固定肢位でありながら、資料によって定義の記載が揺れています。詳しくはコットン・ローダー肢位の定義を並べて確かめた記事で扱っています。
名前のある固定肢位ですら記載が一枚岩でないのなら、個々の骨折でどこまで固定するかに医師ごとの幅があるのは、むしろ自然なことと受け取れます。
間に立つ施術者は、両方の筋を言葉にする
患者さんが不安を抱えているとき、施術者が片方の医師に肩入れすると、患者さんには医療機関への不信だけが残ります。検討で共有された受け止めをふまえると、間に立つ側の動きは次のようになります。
- 正誤の判断は医師の領分と伝える診断と固定方針は医師の領分です。施術者の推測でどちらかを誤りと説明することは避けます。
- 両方の合理性を言葉にする最初の固定は骨折部の安定を優先した丁寧な選択、あとの見解は拘縮への配慮。どちらにも筋があると伝えます。
- いまの経過に話題を戻す痛みは落ち着いているか、指の動きはどうか。固定の是非よりも、目の前の回復の確認に軸足を置きます。
- 気になる変化は医師へつなぐ痛みが増していく、しびれや色調の変化があるといったときは、固定を行った医師への確認と受診を勧めます。
固定が明けたあとの関わりも、間に立つ施術者の持ち場です。固定明けにリハビリの機会がないまま生活へ戻る患者さんもいるため、固定期間中から経過を追っておくと、固定明けの評価と運動の進め方へ橋渡しがしやすくなります。
瀬谷崎





