23歳女性の首の後屈時痛が確認検査で説明できない。自院の手技を候補に含めた症例検討
セラピスト向け
検査が空振りする頸部痛、仮説は2割から持ち直す
デスクワークの23歳女性。首肩のこりから始まった症状が、あるときから下部頸椎の痛みに変わり、上を向くと痛い状態が続いている。確認検査を一通り当てても症状が取れない。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、検査で説明のつかない頸部痛の扱い方を考えます。
相談されたのは23歳女性の症例です。初診の時点では首肩のこりが主で、解剖学的な動きの確認では、頸部後屈時の詰まり感と、側屈時の僧帽筋あたりの突っ張り感がありました。顎を引いた状態で後屈すると楽になる反応もあり、確認検査の分類でいえば伸展症候群、つまり頸部を反らす条件を変えると症状が動くタイプを想定できる出だしでした。
ところが経過の途中で、こりが痛みに変わります。部位は下部頸椎の椎間関節のあたり。この方にとって頸部の痛みは今回が初めてで、通院を始めて数回目から出て、そのまま続いています。こり自体はむしろ良くなってきた一方で、後屈すると痛いという症状だけが残りました。期間は1ヶ月弱。外傷などのきっかけはなく、ある日突然こりから痛みに変わったといいます。施術前の時点の痛みは出始めの頃より少し落ち着いているものの、上を向くと痛いという訴えは変わりません。確認検査やANOテスト(とんとんで使っている、原因と疑う筋を押圧して症状の増減を確かめる検査の呼び名)を当てた結果は、次のとおりでした。
- 頸部のどの確認検査でも、後屈時の痛みが取れない
- 手を腰に回して胸椎の伸展を確かめても変わらない。むしろ胸椎を伸展させた状態では痛みが強まる
- 上腕二頭筋への押圧では、10段階の痛みが1か0近くまで軽減する。ただし何割かが椎間関節部に残り、圧痛もある
- 胸鎖乳突筋にも反応があり、きれいには取れないが痛みがわずかに減弱する
- 小胸筋は反応が出る日と出ない日があり、日によって変わる
- 二頭筋へのストレッチで結果は出るが、繰り返し戻ってくる
- 神経学的な兆候はなく、痛みの増悪もない
施術は、反応の出た筋に絞って行われていました。上腕二頭筋はストレッチで取り、胸鎖乳突筋は椎間関節にストレスが掛からない形を選んだストレッチで、小胸筋は反応の出た日だけ。この3箇所です。いずれも施術の最中に痛みはありません。手を掛けた直後は10の痛みが1近くまで下がるのに、時間が経つとまた戻ってくる。その繰り返しでした。
相談したスタッフの悩みは率直でした。椎間関節に何が起こっているのかを見極めて確定する方法が分からない。仮に椎間関節そのものだとしても、炎症を想定してアイシングをする、というくらいしかアプローチが思い浮かばない。検査で説明が立たないまま施術だけが続いていく状態を、どう立て直すかという相談です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎検査で取れない、という結果は機序のヒントになる
確認検査やANOテストで症状が変わるのは、アライメントや運動のような、いま働いている力学的な原因がある場合が中心です。原因になっている負荷を検査で一時的に外せるから、症状も一時的に取れる、という理屈です。
裏を返すと、外力などで組織そのものが痛んでいる場合には、検査を当てても痛みは出続けます。足関節の捻挫に確認検査を当てても取れないのと同じです。検討の場でも、椎間関節部の痛みは普段なら確認検査で割とすぐ変わるという臨床印象が共有されており、どの検査でも動かない本例は、その典型から外れていました。23歳で、胸椎を伸展させるとむしろ痛みが強まるという反応には、その場でも思わず、なんでだろうという声が漏れています。
年齢と経過の読みも加わりました。何年も続いている慢性の症状であれば、いまさら発端の原因を追いかけること自体が実情に合わない場合もあります。ただ本例は今年に入ってから出た症状で、頸部の痛みだけを見ればまだ慢性と呼べる段階でもありません。だからこそ原因を探る意味のある局面だ、という確認がありました。一方で、派手な兆候のないこうした症例こそ地味に一番困る、という率直な声もそのまま出ています。当てにしていた検査の型が全部外れると、次の一手が急に細くなるからです。
検査で症状が取れないのは、手掛かりゼロという意味ではありません。いま掛かっている力学的な負荷では説明しにくい、つまり組織側に何かが起きている可能性が相対的に上がる、という情報として扱えます。
施術が引き金の可能性を、自分に向けて2割置く
問診で気になる情報がひとつ出てきました。施術の翌日に、いわゆる揉み返しのような状態になったと患者さん自身が話していたことです。こりが強かった時期には、肩甲挙筋へトリガーポイントを狙う直圧の手技を、肩甲骨から上部頸椎までたどりながら行っていました。いまの職場で習った手技をそのまま使っており、少しずつ位置をずらしながら押し進めていくやり方です。検討の場では、擦って切るような手技なのか、真上から圧を掛ける直圧なのかという確認もあり、答えは直圧でした。
検討の序盤では、施術で痛めた可能性は低そうだと見ていました。施術で悪化する場合は翌日にはっきり痛みが出ることが多く、経過と合わないように見えたからです。ところが揉み返しの報告が加わって、仮説の確からしさが動きます。挙筋への直圧が引き金になった可能性を、2割ほどの自信という位置づけで候補に残すことになりました。確信が2割に留まるのには理由があります。挙筋への施術が痛みの引き金だとすると、同じ時期の施術でこりの方は良くなってきているという事実と、つじつまが合わないからです。全ての所見に筋の通る説明が立たない。その不一致ごと候補として持っておく判断でした。
首まわりの直圧は、体勢によっては剪断力(骨に対して横すべりに働く力)が掛かりやすい施術でもあります。うつ伏せでは頭部が固定されて圧の逃げ場がなくなるため、とんとんでは首を触るときは仰向けに限り、片側からの押圧はしない方針を取っています。少しでもリスクのある手技は避ける、という線の引き方です。
自分の手技を原因候補から外すと、仮説の幅がその分だけ狭くなります。確信が2割でも候補に載せておくことで、疑いのある手技を続けながら原因を探すという矛盾を避けられます。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎説明が立たないまま、それでも進めるために
本例で確かめられている安全材料は、神経学的な兆候がないこと、痛みが増悪しておらず出始めの頃より少し落ち着いていること、こり自体は良くなってきていることの3つです。この条件なら、揉み返しの疑いが残る直圧の手技はいったん中止し、経過を確かめる方向が現実的という流れになりました。反応が出ている上腕二頭筋への施術で下げられる分は下げつつ、椎間関節部に残る痛みは無理に追わない、という線です。
逆に、痛みが増悪してきた場合や、腕のしびれなど神経の症状が出てきた場合は、徒手で追う場面ではありません。診断は医師の領分ですから、整形外科の受診を勧める段階に切り替えます。
瀬谷崎




