海外出身バスケットボール選手の腰痛。評価の枠組みと、施術の好みへの合わせ方
セラピスト向け
すぐベッドに横になる選手。施術の好みの違いにどう合わせるか
身長2メートルを超える海外出身バスケットボール選手の腰痛。骨格が違うのだから日本人とは別のアプローチが要るのではないか。そして、動きながらの評価をさせてもらえない状況でどう進めるか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、評価の枠組みとコミュニケーションを分けて考えます。
相談されたのは、身長2メートル5センチ・体重130キロほどの海外出身バスケットボール選手です。反り腰が強く、殿部の発達した体格。腰の痛みは毎回、立ち上がる瞬間と座る瞬間に出ます。座る動作では、体を前に倒したような姿勢に移り、その姿勢を保ちながら腰を下ろしていく局面で痛む。動作のあいだずっと痛いのではなく、その瞬間に限って出て、痛む場所は毎回同じで変わりません。一方で、バスケットボールのプレー中には痛みが出ない。日常生活の動作にだけ出るという出方でした。
相談したのは、このチームの対応を始めてまだ1ヶ月足らずというトレーナーです。電気で筋を緩めるなどの対応をすると、その場では確かに改善する。ただ、翌日にはもとの状態に戻っていて、施術のたびにこの繰り返しになっている。そのうえで「骨格的な違いは人種によって必ずあるはずなので、日本人とは違ったアプローチが必要なのではないか」という疑問を持っていました。
- 立ち上がり・座りの瞬間に腰痛。痛む場所は一定
- プレー中は痛まず、日常生活の動作で出る
- 施術直後は改善するが、翌日にはもとに戻る
- 翻訳アプリを使っても、細かいやり取りが伝わりにくい
- 施術となるとすぐベッドに横になり、動きながらの確認が難しい
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎構造はほぼ一緒。評価の枠組みは変えなくていい
まず、体の見方についてです。検討の場で共有されたのは「2メートル超のバスケットボール選手に特有の知見は持っていないが、体の構造そのものはほぼ一緒」という見解でした。股関節の伸展が足りているかどうかといった、普段どおりの見方でよい。バイオメカニクス(生体力学)の観点では、人種による差はほぼ無いと考えられる、というのが検討の場での結論です。
体格が大きい分、関節にかかる荷重の絶対量は大きくなります。それでも、どの動作のどの瞬間に痛みが出るのか、股関節伸展の制限のような動きの制限がないかを確かめていく手順は、相手が誰でも変わりません。
体格や出身で評価の道具立てを替える必要はない。股関節伸展の制限の有無など、普段確かめている項目をそのまま確かめればよい。変えるのは評価の中身ではなく、後述する進め方のほうになる。
受動的な施術を望む傾向は、現場でよく聞かれる話
もう一つの論点がコミュニケーションです。相談者のチームには海外出身の選手が3人いて、いずれも施術の時間になるとすぐベッドに横になってしまう。立ち座りのどの瞬間に痛むのかを確かめたくても、こちらが動きを見る前に「受ける態勢」ができあがっていて、動きながらのチェックをさせてくれないとのことでした。翻訳アプリを使っても細かいニュアンスは伝わりにくく、日本でよくやる「動かしながら方針をすり合わせる」進め方が成立しにくい状況です。相談者自身、動きながらの確認を求めているのはもしかしたら自分だけなのかもしれない、と感じ始めていたといいます。
検討の場では、こうしたスポーツの現場に立った経験はないので分からないが、という前置きの上で「それはよく聞く話」という反応が返りました。オイルを使った施術のような、受けるだけで完結する施術を望む傾向や、「余計なことをしてほしくない」「言われた通りにやってくれればいい」という選手の声は、スポーツ現場でしばしば聞かれるといいます。今回もそのパターンなのかもしれない、という見立てでした。
ただし、これはあくまで現場の臨床印象として語られた傾向の話です。出身の国や地域で施術の好みが決まるわけではなく、個人差があることが前提になります。目の前の選手が施術に何を求めているかを、その都度確かめるのが出発点です。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎意向を尊重して進め、提案は信頼の先で広げる
検討の結論は「そのまま進めてよい」でした。「言われた通りにやってほしい」という意向の選手には、まずその意向を尊重して施術を提供する。能動的な評価を強引に持ち込んで関係を損ねるより、求められている施術を丁寧に続けながら、伝わる範囲の確認を少しずつ積み重ねていく順番です。
- 意向を確かめる施術に何を求めているのか、してほしくないことは何かを先に把握する。傾向の知識は参考にとどめ、本人に確かめる。
- 求められた施術を丁寧に提供する「言われた通りにやってくれる人」としての信頼を積む。評価の視点は、施術中の触察や反応の観察の中で持ち続ける。
- 信頼ができてから提案を広げる動きながらの確認や能動的な運動は、関係ができた後に少しずつ持ちかける。
施術後の改善が翌日に戻る経過を繰り返す場合でも、痛みの質や出方が変わってきたときは、普段どおり医師の診察につなぐ判断を残しておきます。進め方を相手に合わせることと、安全のための判断基準は別のまま持ち続けます。
瀬谷崎





