やりたいことを聞いても出てこない患者。治療のゴールを雑談から引き出す会話の工夫
セラピスト向け
ゴールは、雑談の中でポロっと出てくる
患者さんに目標を聞いても「特にないです」と返ってくる。ゴール設定の大切さを説明しても、どうも響いていない。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった相談をもとに、正面から聞かずにゴールを引き出す会話の組み立てを紹介します。
相談のきっかけは、瀬谷崎が上げている慢性痛の解説動画でした。「ゴール設定の重要性をいくら説明しても伝わらないことがある」という一節について、ではその説明は実際どうやっているのか、という質問です。
答えを聞いていくと、重心は説明の上手さではなく、説明せずに引き出す側にありました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎重要性の説明は、響く相手が限られる
ゴール設定は大事なんですよ、と患者さんに話しても、何の話かピンとこないまま終わることがあります。瀬谷崎自身、重要性を正面から説明するやり方はあまり使っていないと言います。響きにくい患者像が、はっきりしているからです。
- 痛みにずっと焦点が当たっていて、痛み以外の目標と言われても意識が切り替わらない
- 「どうせできるようにはならないだろう」と、目標を持つこと自体を諦めている
- 性格や協力度の問題ではなく、病態としてゴール設定そのものが難しくなっている
3つ目は見過ごされやすい視点です。目標を話してくれないのは協力的でないからだ、と受け取るとこちらの対応も硬くなります。そういう病態があると知っているだけで、患者さんを責めずに柔らかく接することができます。
痛みに集中し続けること自体が痛みを強め、慢性化の一因にもなります。そのため「痛み以外のものを目指しましょう」と話したり、ガイドラインで疼痛以外を目標にすることが勧められていると伝えたりする場面はあります。ただし多用はせず、状況を選んで使います。
なお、痛み以外の目標をどう立てるかという考え方そのものは別の記事で扱っています。本記事は、その目標が患者さんから出てこないときの会話に絞ります。
「やりたいことはありますか」では出てこない
では説明の代わりに質問すればよいかというと、急に「何かやりたいことはありますか」と聞いても、まず出てきません。自分が患者だったとしても、初対面の問診でそこまでは言えないだろう、と瀬谷崎は言います。
だから初回で出てこないのは普通のことです。分かりやすい目標がある人は、序盤や施術中に自然と口にしてくれます。出てこない人から無理にひねり出すより、一旦置いておくほうがリスクは少ないという判断です。
初回でゴールが出なければ保留してよく、「まずは痛みを何とかしましょう」で始めて構いません。設定を焦るより、施術中や2回目以降の会話で拾うほうが自然にはまります。
訴えに出てきた言葉を、そのまま目標にしない
スタッフとの問診練習で、こんな場面がありました。患者役の瀬谷崎が「特に困ってはいないけれど、症状が続いて動けなくなったり、仕事に支障が出たりしたら嫌なので、そういう不安はあります」と答えます。
するとスタッフから「では、その不安を取り除いていきたいということでよろしいですか」と返ってきました。患者役としては、そんなことは一言も言っていない、という感覚だったそうです。
不安の解消を目標に据えられても、患者側は何をしてもらえるのか想像がつきません。訴えに出てきた言葉を抽象的なまま目標へ持ち上げると、このずれが起きます。
- 訴えを共感で受ける不安や困りごとは「確かにこのままだと不安ですよね」とまず受けて、言葉尻をすぐ目標にしない。
- 一番感じる場面を聞く「どういう時にそれを一番感じますか」と、印象に残っている具体的な場面まで掘り下げる。
- 場面の言葉で目標にする出てきた場面をそのまま使い、「またあそこを歩けるように治療を進めましょう」の形で提案する。
先ほどのケースなら、共感を挟んでから具体を聞きます。過去にぎっくり腰の経験があり、再発したら仕事ができなくなるのが怖い。そこまで出てくれば「ぎっくり腰にならない体を作っていきましょう」で、自然に「お願いします」が返ってきます。
間欠性跛行(かんけつせいはこう)の患者役を使った練習でも、この流れがきれいにはまりました。休み休みでないと歩けなくなり、体力の低下を感じて気持ちが沈んでいる。「どういう時に一番感じますか」と聞くと、いつもの散歩コースをぐるっと回れなくなった、という場面が出てきます。
そこで「そのコースをまた元気に歩けるように治療を進めていきましょう」と提案すると、すっと受け入れられます。逆に「体力低下の不安に対してやっていきましょう」では、何をされるのか患者には見えません。
ゴールは雑談の中でポロっと出てくる
別の練習では、腰が痛いのでとりあえず来た、という設定の患者役に対して、初回はあえてゴール設定をせず「痛みを何とかしましょう」で問診を終えました。
ところが施術中の雑談で、「来月、妻と旅行に行く予定がある。行けるかどうか実は不安で」という話が出てきます。今までは何とかなると思って接骨院にも行っていなかったけれど、来月のイベントがあるから来た、という背景まで見えてきました。
そこまで引き出せれば、「来月の旅行に不安なく行けるようにしましょう」という提案がしっくりきます。この種の話は最初の問診ではまず出てきません。雑談だから出てくるのです。
体の状態説明とゴール設定は、無理にリンクさせなくて構いません。状態説明にはデスクワークが長いといった普段の生活動作を絡めれば十分で、目標は目標で会話から拾います。
「できると思っていなかったこと」に気づく瞬間
もうひとつ、目標そのものを諦めていた患者役にゴールが生まれた例があります。瀬谷崎はもともと体がかなり硬く、FFD(エフエフディー・指床間距離)でいえば床に遠く届かないタイプです。
問診練習で、その柔軟性が症状に関わっているという説明を受け、「小さい頃から硬い自覚があります」と返すやり取りが続きました。その流れの中でふと、患者役として「これって、床に手がつくようになるんですかね」と漏らしたそうです。
スタッフが「できるようになりますよ」と返した瞬間、腰痛は一旦置いておいて、床に手をつくことが本人の目標になりました。できると思っていなかったことが、できるかもしれないと気づいた瞬間です。
ゴールは会話の中で拾う
この瞬間は質問で狙って作れるものではなく、会話の中で自然に生まれます。生まれた一言を目標の形にして返せるかどうかが、ゴール設定の実際のところです。
初回で出なければ保留し、雑談と施術中の会話に耳を澄ませておく。その構えだけで、拾えるゴールはずいぶん増えます。
瀬谷崎





