EMS(電気的筋刺激)で腰痛は良くなるのか?寝ているだけの筋トレに頼りすぎない考え方
症状コラム
EMS:電気的筋刺激(Electric Muscular Stimulation)を「魔法の筋トレ」にしないために
電気を流せば、筋肉は収縮します。ただし、それだけで腰痛が良くなる、再発しなくなる、使える筋肉が勝手に育つ、と考えるのは少し飛びすぎです。
EMSは、使い方しだいです。全員にすすめる魔法の機械ではありません。でも、全く意味がないと切り捨てるのも違います。大切なのは、何のために使うのかをはっきりさせることです。
整骨院や整体院で、EMSという言葉を見たことがある方は多いと思います。
電気刺激で筋肉を動かす機械です。インナーマッスルを鍛える、腰痛予防になる、寝ているだけで筋トレになる。そんな説明で紹介されることもあります。
この手の機器は、話が極端になりやすいです。
肯定する側は「これをやれば腰痛が改善する」と言いがちですし、否定する側は「そんなもの意味がない」と切り捨てがちです。
でも、臨床ではたいてい、その真ん中に大事な話があります。

まなぶ先生

瀬谷崎
筋肉が動くことと、使えるようになることは違う
EMSでは、電気刺激によって筋肉の収縮を起こすことができます。
多裂筋や腹横筋のような、腰まわりの深い筋肉に反応が出ることもあります。研究でも、刺激によって筋厚の変化や筋活動を確認しているものがあります。
なので、「EMSでは筋肉が一切動かない」という話ではありません。
問題は、その先です。
筋肉が収縮したことと、その筋肉を自分の身体の中で上手く使えるようになることは別問題です。
電気で筋肉が動くことを、「腰痛が良くなる証拠」として扱うのは、少し短絡的です。
たとえば、電気刺激で多裂筋が反応したとしても、その人が立つ、歩く、しゃがむ、荷物を持つ時に、必要なタイミングで腰まわりをコントロールできるかは別です。
腰痛では、単純な筋力だけでなく、動くタイミング、怖さ、生活習慣、疲労、睡眠、仕事の姿勢など、いろいろな要素が関わります。
だから、EMSで筋肉が動いたから腰痛の原因が解決した、とは言い切れません。
腰痛に必要なのは、筋力だけではない
腰痛の話になると、「インナーマッスルが弱いから」「体幹が弱いから」という説明がよく出てきます。
これは分かりやすいです。分かりやすいので、患者さんにも伝わりやすい。
ただ、分かりやすい説明ほど、少し注意が必要です。
腰痛のある方では、腹横筋や多裂筋の働きに変化が見られることがあります。これは重要な所見です。
でも、それが「弱いから鍛えればいい」という単純な話に変換されると、だいぶ雑になります。
腰まわりの筋肉に変化があることと、「その筋肉だけを鍛えれば腰痛が治る」ということは同じではありません。他の所見と合わせて総合的に見る必要があります。
体幹トレーニングやモーターコントロールエクササイズは、腰痛に対して役立つ可能性があります。
一方で、他の運動療法より明らかに優れているとは言い切れない、という報告もあります。
つまり、「体幹だけが正解」ではありません。
歩く、しゃがむ、股関節を使う、呼吸を整える、仕事中の姿勢を工夫する、不安を減らす。必要なものは人によって変わります。
その中のひとつとしてEMSを使うなら分かります。
でも、EMSだけで腰痛を丸ごと解決しようとすると、現実からズレやすいです。
「寝ているだけで」は、魅力的だけど危うい
EMSが売りやすい理由のひとつは、「寝ているだけでいい」という分かりやすさです。
運動が苦手な人でもできる。痛みがある人でも始めやすい。忙しい人でも受け入れやすい。
これはメリットです。
ただし、受け身の施術だけが続くと、患者さんが自分の身体を取り戻す方向から離れてしまうことがあります。

まなぶ先生

瀬谷崎
腰痛のガイドラインでも、活動性を保つことやセルフケアは重視されています。
もちろん、痛みを無視して動けばいいわけではありません。
でも、「機械を当ててもらわないと良くならない」と患者さんが感じてしまうと、回復の主導権が外に行きすぎます。
本当は、最終的に自分で動けることが大切です。
EMSは、そのための補助輪であって、ゴールではありません。
EMSを使うなら、目的を絞る
EMSを使うなら、まず「何のために使うのか」をはっきりさせたいです。
腰痛の人全員に、同じ説明で、同じ回数をすすめる。これはかなり危ない運用です。
使う場面として考えやすいのは、たとえば次のようなケースです。
- 痛みが強く、自分で筋肉に力を入れるのが難しい
- 腰まわりの筋収縮の感覚がつかみにくい
- 運動への恐怖が強く、いきなり動くことに抵抗がある
- 手術後や長期の不活動などで、筋収縮の再学習が必要な可能性がある
- 運動療法につなげる前段階として、身体の感覚を作りたい
こういう場合、EMSで筋肉の収縮を感じてもらうことが、運動療法への入口になることがあります。
ただし、入口のまま終わらせない。
ここが重要です。
電気を流しながら、自分でも動く
EMSをより臨床的に使うなら、受け身で終わらせない工夫が必要です。
たとえば、通電のタイミングに合わせて軽く力を入れる。
呼吸と一緒に腹部の収縮を感じる。
ヒップリフトや軽い体幹運動と組み合わせる。
最終的には、電気なしでも同じように身体をコントロールできることを目指します。
EMSで筋肉を動かすことが目的ではなく、患者さんが自分で身体を使えるようになることが目的です。機械は、その途中を助ける道具として考えます。
少し辛口に言うと、「寝ているだけで鍛えられます」と言い切るのは、患者さんにとって楽な言葉ではあります。
でも、楽な言葉がいつも回復に近いとは限りません。
患者さんに必要なのは、楽をする理由ではなく、安心して少しずつ動ける理由です。
周波数の言葉に引っ張られすぎない
EMSでは、周波数の話もよく出てきます。
高い周波数だから深く届く。深部まで刺激できる。こういう説明を聞くことがあります。
ただ、ここも少し整理が必要です。
電気刺激では、皮膚抵抗を下げるための中周波の考え方と、実際に筋収縮のリズムを作る刺激の考え方が分かれます。
数字が大きいほどすごい、という単純な話ではありません。
| 見たいポイント | 雑に扱うと起きること | 臨床で考えたいこと |
|---|---|---|
| 筋収縮が起きているか | 刺激しているだけで鍛えた気になる | 目的の筋に反応が出ているかを見る |
| 患者さんが耐えられるか | 強ければ良いと考えて不快感が増える | 痛みや不安を増やさない範囲で調整する |
| 随意運動とつながるか | 寝ているだけで終わる | 自分で力を入れる練習へ移行する |
| 生活動作に反映されるか | 筋肉は動くが、日常の動きが変わらない | 立つ・歩く・しゃがむ動作までつなげる |
機械のスペックを見ることは大事です。
ただ、患者さんの身体はスペック表通りには変わりません。
刺激の強さ、痛みの出方、恐怖心、動作のクセ、生活で困っていること。そこまで見て、初めて臨床判断になります。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、機械を使うこと自体を悪いとは考えていません。
ただし、機械に判断を丸投げすることはしません。
腰痛には、筋肉の状態、動き方、仕事や生活の負担、不安、睡眠、過去のケガなど、いろいろな要素が関わります。
だから、EMSを使うとしても、それが本当にその人に必要なのかを考えます。
必要なら使う。
必要でなければ使わない。
使う場合も、最終的には患者さん自身が動けるようになる方向へつなげます。
「電気を当てたから終わり」ではなく、「その後、自分でどう動けるようにするか」まで見る。ここを抜かすと、EMSは便利な道具ではなく、受け身の施術を続ける理由になってしまいます。
こんな方は一度ご相談ください
- 腰痛が長引いていて、何をしたらいいか分からない
- 体幹を鍛えた方がいいと言われたが、やり方が分からない
- 運動すると悪化しそうで怖い
- 電気治療や機械だけで本当に良いのか不安がある
- 自分の腰痛に合った運動や施術を知りたい
強い痛みが急に出た、足のしびれや脱力が強い、排尿・排便の異常がある、発熱や外傷を伴う、安静にしていても強い痛みが続くなどの場合は、まず医療機関での確認が必要になることがあります。
EMSは補助輪であって、ゴールではない
EMSは、筋肉を収縮させる道具です。
使い方によっては、筋収縮の感覚をつかむきっかけになったり、運動療法に入る前の橋渡しになったりします。
ただ、それだけで腰痛が全部解決するわけではありません。
大切なのは、機械を使うことではなく、患者さんが自分の身体を少しずつ使えるようになることです。
そのために必要なら、EMSを使う。
必要なければ、別の方法を選ぶ。
道具に振り回されず、目的から逆算することが大事だと思っています。

瀬谷崎
参考
- Santos TRT, et al. Motor control exercise for chronic non-specific low-back pain. Cochrane Review. 2016.
Cochrane - Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. Spine. 1996.
PubMed - Smith BE, et al. An update of stabilisation exercises for low back pain: a systematic review with meta-analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2014.
PubMed - Hicks GE, et al. Exploring Neuromuscular Electrical Stimulation Intensity Effects on Multifidus Muscle Activity in Adults With Chronic Low Back Pain. Global Advances in Health and Medicine. 2019.
PMC - Chou R, et al. Diagnosis and treatment of low back pain: a joint clinical practice guideline. Annals of Internal Medicine. 2007.
PubMed













