上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の評価と介入。ECRB腱症・鑑別・負荷設計
セラピスト向け
「安静」だけでは長引きやすい、肘の外側痛
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は、短橈側手根伸筋(ECRB)起始部を中心とした腱症で、変性が主体で純粋な炎症は乏しい状態です。把持や手関節背屈で誘発される肘外側痛が主訴。自然経過は比較的良好な一方で遷延・再発も多く、完全安静や消炎一辺倒は噛み合いません。誘発負荷の管理と漸進的負荷、後骨間神経症候群や頚椎との鑑別が要点になります。
「テニス肘」は患者にも通る言葉ですが、臨床では上腕骨外側上顆炎として、病態・自然経過・評価・鑑別・負荷設計に分解して扱います。名称の「炎」に引っ張られて消炎処置に偏ると、変性主体の病態とずれてしまいます。
病態:「炎」ではなく腱症
主座は短橈側手根伸筋(ECRB)起始部の腱症です。組織学的にはコラーゲン線維の配列不整、血管新生、線維芽細胞の増生(いわゆる血管線維芽細胞性過形成)がみられ、急性炎症像は乏しい。慢性の修復不全と捉えるのが現実的です。
ECRBが選択的に傷みやすい背景には、起始部が外側上顆から橈骨頭近傍にかけて骨性の隆起と擦れる位置にあること、把持+手関節背屈+前腕回内で反復的な張力がかかることがあります。タオルを絞る・物を持ち上げる動作で誘発されやすいのはこのためです。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎疫学と自然経過(期待値の設定)
好発は35〜55歳で、利き手側に多い。テニスに限らず、家事・パソコン作業・工具使用など反復把持で生じます。喫煙・糖尿病・過負荷がリスクに挙げられます。
多くは数か月から1年ほどで自然軽快する一方、遷延例・再発例も少なくありません。「時間はかかるが多くは良くなる、ただし完全安静は逆効果」という見通しを最初に共有しておくと、過度な不安や不適切な安静を避けられます。
評価:テストを組み合わせて確からしさを上げる
圧痛は外側上顆の前下方(ECRB起始部)に集中します。誘発テストは複数を組み合わせます。
- Cozen(コーゼン)テスト(抵抗下の手関節背屈)/Mills(ミルズ)テスト
- Maudsley(モーズレイ)テスト(中指伸展抵抗=ECRBへの選択的張力)/Thomsen(トムゼン)テスト
- 無痛肢位での把持力低下(可能ならダイナモメーターで定量)
- 頚椎・神経学的スクリーニング(放散痛・しびれ・筋力の確認)
これらの徒手テストは感度・特異度ともに限定的で、単独で確定はできません。所見の組み合わせと、症状(誘発動作での再現痛)との一致で判断します。
鑑別(外せないもの)
外側上顆炎と決める前に、似た部位の痛みを除外します。
- 後骨間神経症候群・橈骨管症候群:圧痛がより遠位(回外筋部)、夜間痛、運動枝主体で感覚障害は乏しい
- 頚椎C6神経根症:頚部由来の放散、デルマトーム・反射の所見
- 変形性肘関節症、若年では離断性骨軟骨炎
- 外側滑膜ひだ障害、外側側副靭帯不全(不安定感)
- 肩・胸郭出口からの関連痛
介入:負荷を「抜く」のでなく「設計する」
腱症の運動療法は、休ませることより適切な負荷を段階的にかけ直すことが軸になります。
- 誘発動作の特定と修正(相対的安静。完全な不使用は推奨されない)
- 漸進的負荷:エキセントリック、またはヘビースローレジスタンス を中核に。運動中の軽度痛は許容しつつ、翌日に悪化しない範囲で漸増
- 運動連鎖:手関節伸筋だけでなく、肩甲帯・体幹・把持様式(グリップの太さ、道具の重さ)まで含めて負荷を再配分
- 補助:カウンターフォースブレース(張力分散による一時的除痛)、テーピング。物理療法はエビデンスが限定的で補助的
ステロイド注射は短期的に痛みを抑えますが、長期では無治療や運動療法より再発・成績が劣るという報告があり、安易な反復は避けたいところです。難治例では体外衝撃波やPRP(多血小板血漿)が検討されますが、エビデンスは賛否があります。手術適応となるのは一部です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎腱の変性と痛みの主因は分けて考える
外側上顆の変性所見は、無症候でもみられることがあります。テスト単独や「炎」という名称に引っ張られず、誘発動作と圧痛を症状に結びつけて介入対象を絞ることが要点です(確認検査とANOテストのやり方/ANOテストの位置付け)。内側型のゴルフ肘(内側上顆炎・回内屈筋群)も、腱症という機序は同様に考えられます。













