膝術後に出る内側の説明しにくい痛み。スクリューホームムーブメントから考える
セラピスト向け
術部から離れた膝の痛みに、回旋の視点を足す
大腿骨螺旋骨折の髄内釘固定術後1か月あまりの49歳女性。膝の内側裂隙付近に、屈伸の中間可動域で不意に鋭い痛みが走るという相談が、とんとんの治療家向けオンラインカンファレンスに寄せられました。損傷部位からも手術の侵襲部位からも少し離れた場所に出る痛みを、回旋という視点から考えた回です。
相談を持ち込んだのは回復期の病院に勤めるセラピスト。患者さんは大腿骨の螺旋骨折で、円周の3分の1ほどが斜めに割れる骨折を髄内釘で固定した状態でした。手術から1か月と1週間ほどが経過し、膝関節そのものへの侵襲はなく、骨折線も膝の裂隙までは及んでいないとのことでした。
困っていたのは、屈曲90度から60度あたりの中間可動域で、内側裂隙のやや前方に、自動運動でも他動運動でも不意に鋭い痛みが走る点です。
- 毎回ではなく時折で、抵抗をかけても強さは変わらない
- 一方で閉鎖運動連鎖(CKC・足が床についた状態で行う運動)、つまり立ち上がりや歩行では痛みが出ない、というやや珍しい組み合わせ
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎自動と他動、両方で出る痛みから何を外せるか
評価の起点は、自動運動と他動運動のどちらでも同じように痛みが出て、抵抗を加えても強さが変わらない、という点でした。
- 痛みの主因が筋の収縮そのものにあるなら、抵抗を強めるほど痛みも強くなりやすい
- 今回はその差がほとんどなく、毎回ではなく時折という出方だった
ここから、筋の収縮不全そのものより、関節内の何か、あるいは組織の滑走に関わる問題を先に疑ってよさそうだ、という話になりました。
スクリューホームムーブメントの機能不全という仮説
次に候補に挙がったのが、スクリューホームムーブメント(screw home movement・膝の伸展終盤に脛骨が自動的にわずかに外旋する正常な運動機構)です。
膝が完全伸展に近づくと大腿骨の内側顆と外側顆の形の違いから脛骨が外旋して関節が締まり、屈曲時にはこの逆に内旋しながら関節が緩みます。今回の患者さんは、この屈伸に伴う脛骨の内外旋がほとんど出ていませんでした。
手術侵襲や長期の免荷、痛みへの警戒からくる筋緊張が重なると回旋の連動が働きにくくなり、逃がされるはずの負荷が内側裂隙のあたりに集中している可能性がある、という見立てです。
内側半月板の位置異常を疑い、健側と比較する
不意に走る鋭い痛みという表現からは、内側半月板そのものの状態という可能性も検討しました。
- 内側裂隙の出っ張りを健側と比較する触診では、変形性膝関節症の患者さんで骨棘とともに半月板が外側へはみ出しているケースと同じ視点で、内側裂隙が健側と比べて出っ張っていないかを確認することを提案しています。
- 左右差があれば整復的な手技も候補股関節・膝関節を90度に保った姿勢から膝を外反させて内側裂隙を開き、母指で押し込みながら伸展させていく整復的な手技も候補に挙がりました。
- 術後は外反ストレスに慎重な判断を関節面の損傷はなく固定も安定しているという執刀医の説明はあったものの、痛みだけを引き出す結果にならないよう、まずは健側との比較にとどめる話になりました。
半膜様筋(はんまくようきん)は脛骨内側後面や斜膝窩靭帯などに加えて内側半月板にも付着し、屈曲時に半月板を後方へ引き込んで関節面との適合を保つ働きに関わっています。
この収縮や滑走がうまくいかないと屈曲時の半月板インピンジメントにつながり、典型的には屈曲時の後方部の痛みとして出やすいとされます。
今回は内側のやや前方という点で典型例とは少し違いますが、患者さんは膝を屈曲させていく際にハムストリングス(膝屈筋群)の働きがなめらかでなく、他動運動の最中にも力が入ってしまう場面がありました。
可動域制限と筋の働き方の視点からも、半膜様筋まわりの状態は見ておきたいところです。
筋によるエンドフィールと、痛みによるエンドフィールの見分け方
この患者さんの評価では、エンドフィール(可動域の最終域で感じる抵抗の質)の解釈も論点になりました。筋によるエンドフィールでは伸張感というべきストレッチの感覚が中心に出ます。
一方で痛みが強い状態で動きが止まっている場合、本当に筋によるものなのか、痛みそのものが可動域を止めているのか、区別が難しい場面が少なくありません。
目安として紹介されたのが、電気刺激(ハイボルトなど)で疼痛を抑えた状態にしてから可動域が改善するかを見る方法です。電気で痛みを抑えるだけで可動域が広がるなら、その制限は痛みによる可能性が高いと考えられます。
全身麻酔で可動域が変わるのと同じ構図で、術後の患者さんは痛みによるエンドフィールの割合が高いのかもしれません。
今回のケースでも、膝を曲げていく際にハムストリングスの収縮がうまく出ないまま、本人が痛みを警戒して力を入れてしまっている様子があり、痛みに対する防御的な反応が強く影響していそうだ、という話になりました。
- 自動・他動どちらでも同じように痛みが出て抵抗でも強さが変わらない場合、筋収縮そのものを主因と考える優先度は下げてよい
- 屈伸に伴う脛骨の内外旋がほとんど出ていないときは、スクリューホームムーブメントの機能不全を候補に入れる
- 内側裂隙の出っ張りは健側と比較して確認する。整復的な手技は固定の状態を踏まえて慎重に行う
- 半膜様筋は内側半月板に付着し屈曲時の後方への引き込みに関わるため、収縮・滑走の状態も見ておく
- エンドフィールは電気刺激で疼痛を抑えた状態での可動域変化から、痛み由来かどうかを推測する材料にできる
- CKCで出ずOKC・他動で出る組み合わせは典型例と言いにくく、術後の軟部組織の滑走不全が残っている可能性も留保しておく
痛みの機序は複数を並べたまま、回旋という視点を足す
今回の相談は、損傷部位や侵襲部位から離れた場所に出る痛みだったからこそ、複数の仮説を並べて検討する形になりました。スクリューホームムーブメントの機能不全、内側半月板の位置異常、半膜様筋まわりの滑走不全、痛みによる防御的な筋緊張。それぞれが重なり合って起きている可能性が高い、という見立てです。
固定明けでリハビリの機会が空いてしまった患者さんと同じく、術後は屈伸という一方向の動きだけでなく、回旋という軸を足してみる価値がありそうです。
瀬谷崎




