左右の血圧差をどう測り、どう読むか。急な背部痛で大動脈解離を疑うとき
施術・検査ガイド
動きと関係のない背中の痛みは、血管も測って考える
会議中に鈍い痛みが出た51歳男性の例をもとに、左右の血圧を測って考える視点を取り上げます。
背中の痛みの多くは、動作にともなって強くなったり楽になったりします。ここで取り上げるのは、動きとは関係なく安静時から続く鈍い痛みという、少し違う経過をたどった例です。問診で確認したい項目、左右の血圧を測る意味、大動脈解離という疾患の考え方をカンファレンスでの検討に沿って解説します。
結論:急な発症で、動作と関係なく続く背部痛は、左右の上肢で血圧と脈拍を測って考えます。収縮期で20ミリメートル水銀柱以上の左右差は病的な目安とされ、判断に迷えば救急相談へつなぎます。
会議中に出た、動きと関係のない鈍い痛み
51歳男性の例です。その日の昼、会議中に肩甲骨の間から少し下あたりに鈍い痛みが出ました。痛みの強さはNRS(痛みの度合いを表す指標)で6から7ほど。所見は次のとおりでした。
- 前屈や後屈、体幹の回旋、上肢や頸部の動きを試しても痛みの強さは変わらない
- 楽になる姿勢が見つからない
- 押して痛みが強くなる部位が見当たらない
- 背中以外に痛む場所はない
動かしても変わらず、安静にしていても続く鈍い痛みだった、という経過が最初の手がかりになります。
同じ回では、この症例の直前に圧迫骨折を疑う検査(壁後頭間距離と肋骨骨盤間距離の見方)も扱われており、背部・腰部の痛みを一つの型に当てはめて終えるのではなく、複数の可能性を並べて絞り込む姿勢が共有されていました。
発症のしかたと随伴症状を確認する
問診では、増悪する動作の有無に加えて、次の項目の有無を一つずつ確認していきます。
- 胸の苦しさや呼吸のしづらさ
- 動悸
- しびれ
- 他の部位の痛み
この症例では、胸部の痛み・呼吸のしづらさ・しびれ・増悪動作のいずれも見られませんでした。皮膚の視診でも帯状疱疹を思わせる所見はなく、眼球の動きにも異常はありませんでした。
長時間のデスクワークによる筋肉や筋膜由来の背部痛と区別するうえで重視したいのが、発症のしかたです。じわじわ強くなってきた痛みなのか、急に出た痛みなのか。この視点は発症のしかたで疾患を絞り込む考え方とも重なります。
今回の例は、会議中という安静の場面で急に始まった痛みでした。デスクワーク由来の背部痛の多くは、徐々に強まる経過をたどることが多く、この違いは区別の手がかりとして重視したい部分です。
左右の血圧と脈拍を測る
鈍い背部痛が安静時に急に出ている場合、鑑別に挙がる疾患のひとつが大動脈解離です。この可能性を考えたとき、左右の上肢で血圧と脈拍を測ることが共有されました。
| 10ミリメートル水銀柱未満 | おおむね正常範囲とされる差です。 |
|---|---|
| 15ミリメートル水銀柱前後 | グレーゾーンとされ、他の所見と合わせて判断します。 |
| 20ミリメートル水銀柱以上 | 病的な差の目安とされます。 |
この10・15・20ミリメートル水銀柱(mmHg)という目安は、カンファレンスで共有されたものです。
収縮期血圧の左右差は5から10ミリメートル水銀柱ほどで、この数値だけを見ると大きな異常とは言えませんでした。ただし、収縮期血圧だけに注目するのではなく拡張期血圧にも目を向けたところ、右が70、左が95と、25ミリメートル水銀柱ほどの差が見つかりました。脈拍は測定時に115/分まで上がっていました。
収縮期血圧の差だけで判断せず、拡張期血圧も含めて左右差を確認する姿勢が、この症例では手がかりにつながっています。
なぜ左右で血圧に差が出るのか
大動脈解離は、大動脈の壁が裂ける状態です。裂ける場所が鎖骨下動脈につながる部位に及ぶと、その血管が狭くなり、片側の上肢への血流が変わります。これが、左右の血圧差として表れる理由です。
| スタンフォードA型 | 心臓に近い場所で解離が起こるタイプ。脳につながる血管にも影響しやすく、意識障害を伴うなど重い症状につながりやすいとされます。 |
|---|---|
| スタンフォードB型 | 心臓から離れた場所で起こるタイプ。症状が比較的軽いこともあります。 |
今回の例は、このB型に近い経過だったと考えられています。
痛みの強さだけで考えないこと
大動脈解離というと、引き裂かれるような激しい痛みのイメージを持つ方も多いかもしれません。ただ、今回のようにNRS6から7程度の鈍い痛みで、動作による増悪もないまま経過することもあります。
痛みがそこまで強くない、身動きが取れないほどではない、という理由だけで大動脈解離の可能性を外してしまうと、見立てがずれることがあります。痛みの強さよりも、発症のしかたと左右の血圧差を合わせて考える視点が、この症例が伝えているところです。
こんな背中の痛みは、血圧も確認したい
- 動かしても強くなったり楽になったりしない、安静時からの背中の痛み
- 会議中や座っている最中など、思い当たる動作がないまま急に始まった痛み
- 押しても痛みが強くなる部位が見当たらない
- 胸の苦しさや呼吸のしづらさ、しびれなど他の症状は今のところ乏しい
- 痛みの強さ自体は、特別激しいわけではない
胸の痛みや呼吸のしづらさ、意識が遠のく感じ、手足の脱力やしびれ、片側の顔や腕の動かしにくさが加わる場合は、様子を見ずに救急要請を検討する対象になります。
整骨院でできること
整骨院で大動脈解離そのものを診断することはできません。できるのは、動きと関係のない急な発症や左右の血圧差といった手がかりから疑いを持ち、必要な受診につなぐところまでです。
判断に迷うときは、地域の救急相談窓口(例として、♯7119のような窓口があります)に相談する、あるいは救急車を要請するという選択肢を優先します。
血圧計は数千円程度で用意できる機器で、背中や胸の痛みを訴える方への確認に活用できます。
とんとん整骨院では、痛む場所や動作だけでなく、発症のしかたやバイタルサインも含めて確認し、施術の対象になる痛みかどうかを見極めることを大切にしています。
しびれを伴って進行する症状の実例は実例で学ぶレッドフラッグでも取り上げていますし、胸椎まわりの痛みを症状名ではなく除外から考える見方は肋間神経痛をどう捉えるかで取り上げています。





