圧迫骨折を疑うときの検査。壁後頭間距離と肋骨骨盤間距離の見方
施術・検査ガイド
軽い痛みでも、条件が揃えば疑う
急な腰痛の背景に、骨がもろくなって起こる圧迫骨折が隠れていることがあります。壁後頭間距離と肋骨骨盤間距離という2つの検査の見方を取り上げます。
このコラムでは、当院のカンファレンスで検討した症例をもとに、脆弱性圧迫骨折を疑うときの視点を取り上げています。壁に背をつけて頭が壁に付くかを見る壁後頭間距離、肋骨の下縁と骨盤の間の隙間を確認する肋骨骨盤間距離という2つの検査の見方と限界、痛みの強さだけで判断しない考え方、骨粗鬆症以外の背景まで触れています。
結論:高齢・骨粗鬆症・軽い動作での急な発症がそろったら、痛みの強さにかかわらず圧迫骨折を疑います。2つの検査は疑いを補強する手がかりで、確定には医療機関の画像診断が必要です。
どんな組み合わせで疑うか
症例は70代の女性でした。数年前から骨粗鬆症と診断されて薬を服用しており、漬物の樽を持ち上げた瞬間に腰の痛みが強く出たという経過です。
持ち上げていた重さは10kgに届かない程度で、決して大きな負荷ではありませんでした。それでも、次の条件が揃うと、脆弱性骨折という、骨がもろくなったことで起こる骨折をまず候補に挙げる必要があります。
- 高齢である(今回の症例は70代)
- 女性である
- 骨粗鬆症の診断・服薬の既往がある
- 軽い動作をきっかけに急に発症した
しゃがんで重いものを持ち上げたわけでも、転んだわけでもないのに強い痛みが出た場合、負荷の軽さに引っ張られて筋・筋膜性の腰痛だと決めつけると、判断を誤ることがあります。
骨がもろい状態では、お孫さんを抱き上げた拍子や、くしゃみ、布団の角を足で直そうとした動作だけでも骨折に至ることがあるとされます。負荷の大きさだけでなく、骨の状態と発症のしかたを合わせて見る視点が必要です。
脆弱性骨折は椎体だけで起こるものではなく、手首や上腕、大腿骨の付け根、肋骨など、日常の軽い動作でも負担がかかりやすい部位で起こりうるとされます。腰や背中の既往だけでなく、こうした部位での骨折歴がないかを問診で確認しておくと、疑いの精度が上がります。
壁後頭間距離テスト
壁後頭間距離は、壁を背にして立ってもらい、後頭部が壁に付くかどうかを見る検査です。
- 壁を背にして立つかかと、お尻、背中を壁に付けた状態にします。
- 後頭部が壁に付くかを見る頭が自然には壁に付かない場合は、胸椎の圧迫骨折が進んで背中が丸くなっている可能性を示唆する所見とされます。
この検査は姿勢のクセや円背でも陽性に近い結果が出ることがあり、これだけで骨折を確定できるものではありません。
ただ、脆弱性骨折があるときに陰性になりにくいという性質があり、除外の手がかりとして使いやすい検査だと言えます。頭が壁に付くようであれば、胸椎の圧迫骨折の可能性はいったん下げて考えられます。
肋骨骨盤間距離
肋骨骨盤間距離は、立った姿勢で確認する検査です。
- 後ろから指を入れる肋骨の下縁と骨盤の間に指を入れて、隙間がどれくらいあるかを確認します。
- 隙間の広さを見る指2本程度、目安として2cm前後より狭ければ、椎体がつぶれて背骨の高さが縮んでいることを疑う手がかりになるとされます。
当院のカンファレンスでは、骨粗鬆症の外来に通う方を対象にした報告として、この検査の感度は88%、特異度は46%という数値が紹介されました。感度が高い一方で特異度は高くないため、陽性であれば疑いを強め、陰性であれば除外に近づけるという使い方が実用的だと共有されています。ほかの所見と合わせて解釈する検査です。
痛みの強さだけで判断しない
今回の症例ではNRS(痛みの強さを0〜10の数値で表す指標)が10と、強い痛みを訴えていました。ただ、実際の圧迫骨折では、強い痛みの方だけでなく、比較的軽い痛みで済んでいる方もいると考えられます。
体位を変えられるかどうかも同じです。強い痛みで寝返りすら難しい方もいれば、つらさはありながらも普通に歩いて来院できてしまう方もいます。動作ができることや痛みの数値が低いことだけを根拠に、圧迫骨折の可能性を下げてしまうのは注意が必要です。
年齢、性別、骨粗鬆症の既往、発症のしかた、既往歴といった条件が重なっているときは、痛みの強さや動作の可否にかかわらず、疑いを持ち続ける姿勢が求められます。
実際に、痛みの程度は軽めで、前屈から戻る動作や左への側屈だけがつらいという程度の見え方だった方が、しばらく一般的な腰痛として施術を受け続けたあとに脆弱性骨折だとわかったという経過も報告されています。
負荷の軽さや痛みの数値だけで判断せず、動きのなかでの違和感や条件の重なりを丁寧に見ていく必要があります。
骨粗鬆症だけが原因ではない
今回のように骨粗鬆症を背景に起こる圧迫骨折は脆弱性骨折と呼ばれますが、椎体の圧迫骨折は悪性腫瘍が背骨に転移して起こることもあります。
問診票に骨粗鬆症の記載があると、そちらに意識が向きやすくなりますが、原因不明の体重減少や発熱、安静にしていても続く痛みがあるときは、骨粗鬆症以外の背景も併せて考える必要があります。
悪性腫瘍による椎体の変化では、壁後頭間距離や肋骨骨盤間距離で見られるような背中の丸まりが、骨粗鬆症性の圧迫骨折ほどはっきり出ないこともあるとされます。所見が乏しいからといって安心せず、経過や随伴症状を含めて見ていく必要があります。
こんな組み合わせに気をつける
- 65歳以上の女性で、骨粗鬆症の診断や治療歴がある
- 転倒や強い外力がないのに、急に強い腰背部痛が出た
- 骨折の既往(手首・上腕・大腿骨など)がある
- 安静にしていても痛みが完全には引かない
- 原因不明の体重減少や発熱を伴う
疑ったら医療機関へ
壁後頭間距離や肋骨骨盤間距離は、あくまで疑いの手がかりを絞り込むための検査です。骨折の有無を確定させる画像診断は医師の領分であり、当院で行える範囲を超えます。
条件が揃って脆弱性圧迫骨折や、そのほかのレッドフラッグの可能性を考えたときは、施術を進める前に医療機関の受診を案内することが大切です。当院では、問診と検査で得られた所見をもとに、施術の対象になる痛みか、医療機関につなぐべき痛みかを判断したうえで、必要な場合は速やかに受診をすすめるようにしています。
骨癒合が確認できたあとも背中の痛みが残る、という相談が別の回で挙がりました。第11・12胸椎のあたりが痛み、朝は固まって顔を洗うのがつらいという訴えです。
検討では、受傷から数か月たち病院で骨の安定が確認されているなら、骨自体の痛みは治癒していると考えるのが自然で、骨の痛みなら本来もっと強く出るはず、という見方が共有されました。分離症やすべり症と同じく、周囲の軟部組織の痛みが典型という位置づけです。
対応の方向は、他の部位で代償できる体の使い方を覚えてもらい、慢性痛としてセルフマネジメントと全身の疼痛閾値の視点で介入を進める、というものでした。





