鎖骨骨折と肋骨骨折が重なったとき。応急固定の順序と考え方
施術・検査ガイド
同時に2箇所折れていたら、どちらから固定するか
飲酒後の転倒で、鎖骨骨折と肋骨骨折が同時に見つかった実例があります。2箇所を固定するとき、どちらから手を付けるか。応急処置の実務での考え方を取り上げます。
このコラムでは、当院のカンファレンスで検討した実例をもとに、鎖骨骨折と肋骨骨折が重なったときの応急固定の順序を取り上げています。バストバンド(胸部の固定帯)の位置づけ、鎖骨の固定を胸郭を開いた状態で行う理由、固定後に医療機関へ送るまでの流れに触れています。
結論:重要度で優先するのは、転位(骨のずれ)が進むリスクのある鎖骨です。ただし鎖骨の固定は胸郭を開いた状態で行うため、実務では肋骨をバストバンドで固定してから鎖骨固定に移る順序で進めやすく、固定を終えたら速やかに医療機関へ送ります。
前日の転倒から固定までの経過
実例は、前日にお酒に酔って転倒し、左の肋骨のあたりと肩の痛みを訴えて来院された方です。体格がふくよかで、触診だけで骨の状態をつかむのが難しいケースでした。触診で骨の輪郭を確かめにくい分、受傷のしかたと痛みの部位から疑いを組み立てる必要があります。
受傷のしかたと痛みの部位から骨折が疑われたため、その場で応急固定を行い、医療機関へ送っています。整形外科での診断は鎖骨骨折と肋骨骨折。肋骨は下部、9番のあたりでした。
肋骨骨折と鎖骨骨折が同時に起きている方は、経験のある施術者でもあまり遭遇したことがないと言うほど、まれな組み合わせです。だからこそ、その場での判断の根拠をあとから検証しておく価値があります。
柔道整復師が骨折に施術を行えるのは、応急手当を除き、医師の同意がある場合に限られます。骨折を疑った時点での対応は、応急固定と医療機関への引き継ぎが基本になります。
実際に行った固定の手順
担当者が迷ったのは、鎖骨と肋骨のどちらから固定するかでした。鎖骨の固定には胸郭を開く姿勢が必要になるため、どちらを優先するかで手順が変わってきます。実際に行った手順は次のとおりです。
- 肋骨をバストバンドで固定バストバンド(胸部の固定帯)を、骨折が疑われた下部肋骨(9番のあたり)の高さに合わせて装着した。
- 鎖骨をクラビクルバンドで固定続けて、クラビクルバンド(鎖骨用の固定帯)を装着した。
- 医療機関へ送る固定を終えた状態で整形外科へ送り、診断と整復(ずれた骨を元の位置に戻す処置)につないだ。
つまり、肋骨を先に固定してから鎖骨に移る順序です。担当者自身、病院へ送ったあとも「この順序でよかったのか」という疑問を持ち帰っていました。
検証の結果、経験のある施術者も「自分でも同じ順序にする」と答えており、この順序は妥当という結論になりました。決め手のひとつは、固定の進めやすさです。先にバストバンドを巻いておくと、そのあとの鎖骨固定に手が回しやすくなります。
優先度は鎖骨、手順は肋骨から
順序を考えるうえでの出発点は、どちらの骨折を固定しないままにしたときのリスクが大きいかです。鎖骨骨折は転位が進むおそれがあり、固定の重要度はこちらが上と考えられます。転位があるとわかっている場合は、なおさら鎖骨を軸に考えることになります。
一方、肋骨骨折に対するバストバンドは、必須とまでは言えない位置づけです。固定がなくても経過をたどれることが多いとされ、補助的な固定と考えられています。
ここで鍵になるのが姿勢です。鎖骨の固定は、胸郭をある程度開いた状態で行う必要があります。鎖骨を最優先に考えるなら、肋骨側の事情にかかわらず、胸を開いた姿勢を確保したうえで固定することになります。
- 転位が進むリスクの高い骨折はどちらかを見きわめる(今回は鎖骨)
- 鎖骨の固定は、胸郭を開いた状態で行う
- 肋骨のバストバンドは補助的で、必須の固定ではない
- 先に行う固定が、あとの固定に必要な姿勢と両立するかを確認する
逆に言えば、肋骨の固定を先に済ませる場合も、鎖骨の固定に必要な胸を開いた姿勢がとれることが前提になります。順序そのものより、鎖骨の固定条件を保つことが優先事項です。
今回の手順は、先に肋骨へバストバンドを巻き、そのうえで胸郭を開いた姿勢を保って鎖骨を固定する流れでした。重要度の軸足は鎖骨に置きつつ、手を動かす順番としては肋骨からの方が進めやすい。この2つは矛盾しない、というのが検証の結論です。
固定は応急、確定は医療機関で
応急固定は、あくまで一時的な処置です。今回も固定後は速やかに整形外科へ送り、病院で整復が行われました。整復後は、同じクラビクルバンドを使った固定が継続されています。
その後は整形外科で治療を続ける方針となり、経過の連絡があったほか、レントゲン画像も確認できました。骨の位置が整ったかどうかは画像でしか判断できないため、応急処置の妥当性をふり返る材料としても、こうした経過の共有は貴重です。
送ったあとに診断と整復の結果まで確認できると、その場の判断が適切だったかを検証でき、次の症例への引き出しが増えます。応急処置は、医療機関との連携までを含めてひとつの流れと考えています。
2箇所同時の骨折で確認すること
- 転位のリスクが高い骨折はどちらか
- それぞれの固定に必要な姿勢は何か(鎖骨なら胸郭を開く)
- 手順として進めやすい順序はどちらか(今回は肋骨から鎖骨)
- 固定後に送る医療機関と、整復・レントゲンでの確認





