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子どもの首が回らないとき何を考えるか。環軸関節回旋位固定と内科系疾患の鑑別

首を傾けたまま来院した8歳。頸部の問題か、内科系かをどう分けたか

子どもが首を回せないまま来院したとき、何から確かめるでしょうか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった8歳男児の相談をもとに、小児頸部のレッドフラッグ(重篤な疾患を疑わせる危険なサイン)と鑑別の考え方をたどります。

相談されたのは、こんなケースでした。8歳の男の子が、ゲームセンターで釣りゲームの竿を回す動作をしていたところ、肩を痛がるそぶりを見せたあと気分が悪くなり、その場に倒れ込んでしまった。意識はあったものの冷や汗が出て、自分では動けない状態だったそうです。

しばらく休むと動けるようになり、父親に連れられて来院。来院時には頸部の痛みに加えて、右回旋・右側屈の位置で首が固定されたような状態でした。担当者は重い疾患の可能性を心配し、紹介状を書いて整形外科へ。医科では厚紙で首の動きを止める固定を行い、経過を見る対応がとられました。

相談の柱は2つです。小児でもレッドフラッグに相当する状態は起こるのか。起こるとしたら、どんな疾患が考えられたのか。

まなぶ先生まなぶ先生

頸部痛にめまいや気分不良が重なると、成人ならまず脳血管系が頭に浮かびますが、あちらは中年以降のイメージが強いですよね。8歳でこの組み合わせだと、候補がすっと出てきません。

教子先生教子先生

経過だけ見ると外傷系とも内科系とも取れます。首が固定された肢位という見た目の情報を、どこまで手がかりにしてよいのかも迷うところです。

瀬谷崎瀬谷崎

私もこの症状の並びなら、まず環軸関節回旋位固定を考えると思います。頭痛やめまい、肩の痛み、嚥下障害まで、典型像にかなり重なる印象でした。

環軸関節回旋位固定という候補を持っておく

環軸関節回旋位固定(かんじくかんせつかいせんいこてい)は、第1頸椎と第2頸椎のあいだが回旋した位置のまま動かなくなってしまう状態です。子どもの首が傾いたまま戻らないとき、真っ先に挙げたい候補のひとつになります。

典型とされる症状は次のとおりで、今回のケースの経過とよく重なります。

  • 首の可動制限(回旋・側屈した肢位のまま固定される)
  • 頭痛・めまい・ふらつき・気分の悪さ
  • 肩の痛みや肩こり
  • 嚥下障害(食道が圧迫され、水を飲み込みにくいという訴え)

めまいや気分の悪さについては内耳系の関与が示唆されており、頸部の問題であっても倒れ込むほどの気分不良が出ることは矛盾しません。嚥下障害は変わった症状に見えますが、この疾患では特徴的な訴えとして知られています。

今回の子も、竿を回す動作のあとに肩を痛がり、気分が悪くなって倒れ込み、右回旋・右側屈で首が固定されていました。きっかけこそゲームの動作でしたが、症状の並びは典型像によく沿っています。

補足

環軸関節回旋位固定に実際に遭遇する機会は多くありません。だからこそ、症状の組み合わせを知識として持っておくことが第一歩になります。

発熱・体重減少・咳。内科系は随伴症状で分ける

似たような症状の出方でも、背景に内科系の疾患が隠れている可能性は残ります。検討に挙がったのは次の4つでした。

  • 熱中症:気温の高い時期なら、気分不良と倒れ込みの説明になりうる
  • 髄膜炎:炎症性の疾患のため、吐き気に加えて発熱を伴うことが多い
  • 悪性腫瘍:原因不明の体重減少など、レッドフラッグサインを伴う
  • 結核:頸部痛に咳や息切れが重なってくる

熱中症は季節要因が大きく、気温が上がる時期なら子どもでも十分に起こりえます。商業施設で遊んでいて気分が悪くなり倒れた、という経過だけなら候補に残る疾患です。

いずれも、頸部の関節だけを見ていては区別がつきません。発熱があるか、体重が減っていないか、咳が続いていないか。随伴症状の有無が分岐点になります。

体温測定から始める

今回の院では、来院時に非接触型の体温計で検温する運用があり、発熱がないことをその場で確認できていました。もし発熱していれば、髄膜炎など別の疾患を優先して考える展開になっていたはずです。頸部の訴えであっても、バイタル(体温・脈拍などの生命兆候)の確認は体温測定から始める価値があります。

疑ってから紹介までの流れ

今回の対応を振り返ると、確かめる順序は次のように置けます。

  1. 体温を測る来院時にバイタルを確認する。発熱があれば髄膜炎など内科系の優先度が上がる。
  2. 経過と随伴症状を聴く発症のきっかけ、気分不良や倒れ込みの有無、体重減少・咳・息切れの有無を確かめる。
  3. 頸部を観察する固定された肢位と可動制限、頭痛・めまい・嚥下の訴えを確かめる。
  4. 固定して紹介する重い疾患の可能性が残るなら、首の動きを止めたうえで紹介状を添えて医科へ送る。
  5. 経過を追う医科の判断を確認しながら経過観察につなげる。

今回のケースは、紹介先の整形外科でも厚紙による固定と経過観察という対応でした。固定・紹介・経過観察という流れは環軸関節回旋位固定への対応として典型的で、検討の場でも妥当な判断だったという評価に落ち着いています。

候補を知っていれば、その場で動ける

小児の頸部で頭痛・めまい・嚥下障害が重なる像は、知らなければ戸惑う組み合わせです。環軸関節回旋位固定という候補を持ち、発熱・体重減少・咳といった随伴症状で内科系を分け、疑いが残るなら固定して紹介する。この筋道があれば、珍しい訴えを前にしてもその場で判断を進められます。今回のような相談を共有しておくことは、次に同じ像に出会う誰かの初動を早くしてくれるはずです。

瀬谷崎瀬谷崎

私自身、この状態を数多く見てきたわけではありません。それでも症状の組み合わせを知っていれば、候補を挙げて検討できます。体温測定というささやかな確認が鑑別の分かれ目になる点も含めて、日々の診療の参考になればうれしいです。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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