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施術で変わらない痛みを、内臓由来の関連痛から考える

その痛み、本当に筋肉のものですか

筋骨格を診て施術していると、体表に出ている痛みが実は内臓の不調に由来する関連痛だった、という場面にまれに出会います。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで挙がった、内臓の関連痛が起こる機序の復習をもとに、施術者が疑いを持って医療機関へつなぐための基礎知識を共有します。

私たちが日々ふれている痛みの大半は、筋・関節・神経といった筋骨格系に由来します。ただ、そのなかにごくまれに、内臓の不調が体表の離れた場所に痛みとして現れているケースが混ざります。これが関連痛(かんれんつう)です。

施術で狙いどおりに変わらない、痛む場所が解剖学的な走行や動きと合わない。そういう痛みに出会ったとき、内臓由来の可能性を鑑別に入れられるかどうかは、施術者としての安全性に直結します。

まなぶ先生まなぶ先生

患者さんは腹部や胸の痛みを訴えているのに、原因が内臓のほうにある。どうして離れた体表に痛みが出るんでしょうか。

教子先生教子先生

患者さんは体表が痛いと感じているので、筋肉の問題だと思って来院されますよね。私たちが機序を知っていないと、そのまま筋骨格の施術を続けてしまいそうです。

瀬谷崎瀬谷崎

脊髄後角(せきずいこうかく)での信号の混線が関係していると考えられています。まず、その仕組みから振り返ってみましょう。

なぜ内臓の不調が体表の痛みになるのか

内臓の痛みを伝える感覚神経があります。そして皮膚の痛覚を支配する感覚神経があります。この二つが、同じくらいの高さの脊髄後角に入ってしまうことがあります。

そこで信号が合流すると、大脳皮質の体性感覚系(たいせいかんかくけい)が、届いた信号を内臓からのものか皮膚からのものか区別できなくなります。その結果、内臓の痛みを皮膚の痛みだと誤って受け取り、対応する高さの体表に痛みを感じます。信号が同じ経路に集まって体表側に投射される、この仕組みは収束投射(しゅうそくとうしゃ)と呼ばれます。

説の扱い方

この機序はまだ説の段階で、完全に解明されているわけではありません。ただ長い間この考え方で通っており、ある程度は自信を持ってよい理解として扱えます。断定はせず、鑑別の視点として持っておくくらいがちょうどよい距離感です。

代表的な関連痛のパターン

どの内臓がどのあたりの体表に痛みを出しやすいか、代表的な対応を知っておくと、鑑別の初動が早くなります。検討で例として挙がったものを中心に挙げます。

  • 胃の不調(胃潰瘍など)は、対応する高さの腹部に痛みとして現れることがある
  • 心臓の不調は、胸の痛みや左腕にかけての痛みとして現れることがある
  • 関連痛は皮膚に近い表在痛(ひょうざいつう)として感じられることが多い
  • 一方で、深部の痛みとして訴えるケースも実際にある

表在痛が多いという傾向はありますが、深部痛を訴える人もいる以上、痛みの深さだけで内臓由来を外すことはできません。あくまで傾向として押さえ、断定材料にはしないでおきます。

逆に言えば、対応する高さの体表というパターンから外れた場所に痛みが出ることもあります。教科書どおりの部位に必ず出るわけではないので、パターンは初動の手がかりとして持ちつつ、そこに当てはまらないから内臓は関係ないと決めつけないほうが安全です。

まなぶ先生まなぶ先生

患者さん自身は体表が痛いと感じているわけですよね。私たちが最初に内臓を疑う手がかりは、どのあたりに出てくるものなんでしょうか。

教子先生教子先生

いつもどおり筋や関節に介入しているのに、思ったように痛みが動かないときは、ふと立ち止まりたくなりますね。あの違和感は手がかりになりますか。

瀬谷崎瀬谷崎

その違和感は大事にしてほしいです。施術で反応しない痛みと、解剖で説明しにくい場所の痛み。この二つが揃ったら、内臓由来も候補に残しておく。あくまで候補として、ですけれど。

内臓由来を鑑別に入れる流れ

施術中に内臓由来の関連痛を疑うきっかけは、大きく二つです。筋骨格への介入で痛みが動かないこと、そして痛む場所が解剖学的に説明しにくいことです。この二つが重なったら、次のように進めます。

  1. 施術での反応を確認する筋・関節への介入や姿勢の変化で再現痛が増減するかを診ます。狙った操作で痛みがまったく動かないなら、筋骨格以外の可能性が上がります。
  2. 痛みの場所と解剖を照らす訴えている部位が、筋の走行や関節の動きで説明できるかを確かめます。解剖学的なつながりで説明しにくい痛みは、関連痛を候補に加えます。
  3. 随伴する所見を拾う痛み以外に気になるサインがないかを問診します。姿勢や動作と無関係に出入りする痛みなどは、内臓由来を疑う手がかりになります。
  4. 疑いを持って医療機関へつなぐ私たちは診断をする立場ではありません。内臓由来が拭えないと感じたら、そこで抱え込まず、医療機関の受診をすすめます。
立ち位置の確認

ここでの目的は、内臓の病名を当てることではありません。筋骨格の施術で扱ってよい痛みかどうかを見立て、そうでないと感じたら医療機関へ橋渡しをするところまでが、施術者の担当範囲です。

疑いを持ち、つなぐところまでが施術者の仕事

内臓由来の関連痛は、日々の臨床でそう頻繁に出会うものではありません。それでも機序を知っていれば、施術で変わらない痛みや解剖と合わない痛みに出会ったとき、内臓系を鑑別の候補に加えられます。危険な病気の絞り込みそのものは医療機関の役割です。私たちは疑いを持ち、必要な人を適切につなぐところまでを担います。

瀬谷崎瀬谷崎

収束投射の話は説の段階なので、私も断定はしません。ただ、この視点を一つ持っておくだけで、いつもの施術で反応しない痛みに出会ったときの動き方が変わってきます。迷ったら抱え込まず、受診をすすめる。そこまでが私たちの役割だと考えています。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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