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前屈で骨盤が後傾しない股関節痛。前方すべり症候群と屈曲症候群を見分ける検査手順

その前屈、曲がっているのは背中だけかもしれない

前屈しても骨盤が後ろへ倒れない患者では、前方すべり症候群と屈曲症候群という2つの候補が挙がります。検査所見と生活の情報から候補を絞り、絞りきれないときにどう進めるかを取り上げます。

この記事について

このコラムでは、当院のカンファレンスで検討した、前屈で骨盤が後傾できない股関節痛の症例をもとに、前方すべり症候群と屈曲症候群を見分ける検査の進め方を取り上げています。2つの症候群の典型パターンの対比、立位保持での悪化といった生活情報の扱い、ストレッチで変化がないという結果の読み方、検査的介入という考え方まで触れています。

著者アイコン 伊藤聡史

検査台の上の所見だけで結論が出ないケースほど、どんな場面で悪化するかという生活の情報や、介入への反応そのものが所見になります。今回はその使い方が主役です。

結論:骨盤前傾が強く立位保持で悪化するなら前方すべり症候群、骨盤が後傾できず他動屈曲でも痛むなら屈曲症候群を第一候補にします。二択が残ったときは、検査的介入で改善した方を治療方針に採用します。

骨盤が後傾しない前屈とはどんな状態か

前屈やしゃがみ込みでは、本来は骨盤が後ろへ倒れ(後傾し)、腰椎が屈曲しながら上体が下りていきます。ところが今回の症例では、前屈してもらうと胸椎から上だけが丸まり、下部腰椎はほとんど曲がらず、骨盤も後ろへ落ちていきませんでした。

体の使い方が分かっていないのではありません。骨盤を後方へ引き込もうとしても抵抗が強くて動かない、つまり可動域そのものの制限として骨盤の後傾が失われている状態でした。

この症例で得られた検査所見

  • PLFテスト(側臥位で片方の膝を胸へ近づけ、腰椎屈曲の可動性を見る検査)が陽性で、ほとんど動かない
  • エリーテスト(うつ伏せで膝を曲げ、太もも前面の大腿直筋の伸びを見る検査)で膝の屈曲は90〜100度にとどまり、殿部が持ち上がって骨盤が回旋する代償が出る
  • SLR(仰向けで膝を伸ばしたまま脚を上げる検査)は60〜65度で、全身的に体が硬い
  • 他動で股関節を屈曲させても、同じ場所に痛みが出る

2つの症候群の典型パターンを対比する

股関節前面の痛みで候補に挙がるのが、前方すべり症候群と屈曲症候群です。前方すべり症候群は大腿骨頭が関節の前方へ寄った状態で動くタイプ、屈曲症候群は骨盤が後傾できないために、曲げるたびに股関節前面でインピンジメント(挟み込み)が起こるタイプです。

前方すべり症候群の典型は、骨盤前傾がむしろ過剰な人です。骨盤が前傾しているぶん立位では常に股関節が伸展位となり、前方の関節包が伸ばされ続け、前方の軟部組織に負担が集中します。他動で曲げれば代償が使えるので痛みにくいのに、自動運動では筋のバランスの崩れからインピンジメントが起きて痛む、という出方がかなり強い典型とされます。

見るポイント前方すべり症候群屈曲症候群
骨盤の傾き前傾が過剰で、立位では常時股関節伸展位後傾ができず、屈曲方向の可動域が制限される
他動屈曲での痛み出にくい(自動運動で痛むのが典型)他動でも同じ場所が痛む
悪化しやすい場面自動運動、20分以上の立位保持前屈やしゃがみ込みなどの屈曲動作

今回の症例は骨盤が後傾できず、他動屈曲でも痛むため、型どおりに読めば屈曲症候群が第一候補です。ただ、判断を難しくする情報がひとつありました。

生活の情報とテストへの反応も所見になる

それが、20分以上の立位保持で痛みが強くなるという訴えです。立位は股関節が伸展位になる姿勢であり、前方の関節包が伸ばされ続ける前方すべり症候群でよく聞かれる悪化条件に当てはまります。検査台の所見と、どんな場面で悪化するかという生活の情報は、症候群を分ける材料として同じ重みで扱います。

もうひとつの手がかりが、筋へのテスト的な介入に対する反応です。この症例では、大腿直筋にハイボルテージ(高電圧の電気刺激)をかけても症状は変わらず、ハムストリング(太もも裏の筋)のストレッチでも変化がありませんでした。

消去の論理

筋の緊張が主因なら、その筋への介入で症状は多少なりとも動くはずです。動かないという結果は、筋性というより可動域の制限や骨性の要因の関与を示す所見として扱えます。変わらなかったことも情報のうちです。

二択が残ったときは検査的介入で選ぶ

所見が2つの症候群にまたがるとき、その場で無理に断定はしません。介入そのものを検査として使い、反応で判断します。

  1. 第一候補に介入する所見から確からしい方の症候群を想定して介入し、症状が変化するかを確認します。
  2. 変化がなければ候補を替える症状が動かないときは、もう一方の症候群を想定したテストと介入に切り替えます。
  3. 改善した方を採用する反応が良かった方の想定を治療方針として採用し、次回の来院時に再評価で検証します。

骨盤の後傾を促す介入

屈曲症候群と考えた場合、施術の柱は骨盤が後傾できるようにすることです。具体的には次のような選択肢が挙がりました。

  • 股関節周囲の筋を緩める
  • 腰部への手技で、腰椎の屈曲方向の動きを引き出す
  • 超音波やラジオ波(高周波の温熱機器)で温熱を入れる
  • 腹斜筋のトレーニング。仰向けでベッドと腰の間の隙間をなくすように腰を丸める感覚を促し、股関節屈曲時にスムーズに骨盤が後傾できるようにする

なお、股関節の屈曲制限がどこまで股関節単独の問題なのかという切り分けは股関節と腰椎の代償を分ける検査手順の記事で、骨盤後傾で痛みが変わるかを見る伸展型の評価は伸展型腰痛の評価法の記事で取り上げています。屈曲と伸展の両方向から、股関節と腰の関係をとらえる手がかりになります。

著者アイコン 伊藤聡史

一回の検査で確定できないことは珍しくありません。介入への反応まで含めて検査と考えると、方針の立て直しが早くなり、患者さんに説明できる根拠も増えていきます。

伊藤聡史
株式会社とんとん/とんとん整骨院。臨床技術責任者。柔道整復師。

臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」講師。院内では臨床研修責任者として若手の技術指導を担い、論文抄読会の主催など、根拠に基づく施術(EBM)の浸透に取り組んでいる。

監修:瀬谷崎将也
とんとん整骨院代表・柔道整復師

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