両手のばね指、保存でどこまで続けるか。手術を勧めるラインと注射との違い
セラピスト向け
クリックが消えても曲がらない。ばね指の保存と手術、選択肢の示し方
両手のばね指で、片方の手はよくなったのに、もう片方には痛みと曲げにくさが残っている。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった相談をもとに、保存療法をどこまで続け、どの時点で手術という選択肢を患者さんに示すかを考えます。
相談の題材になったのは、はっきりした誘因なく両手にばね指(弾発指)が出た患者さんです。パソコン作業が多く、趣味でアクセサリーを作る、日常的に手をよく使う方でした。
- 右手は半年前から、左手は3ヶ月前から症状が出ていた
- 弾発症状は左手の示指・中指と、右手の中指
- しびれなどの神経症状はなし
- 右手には体外衝撃波や握るトレーニング、自動運動も併用していた
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎片手は改善、もう片手は一歩残った
左手は、確認検査で反応の出た前腕の屈筋群と母指内転筋に施術したところ、痛みが取れ、屈曲時のクリックも消えました。とんとんでは、動作で再現される痛みを筋の押圧で増減させて原因の筋を絞り込む確認検査を、ANO(エーエヌオー)テストと呼んでいます。
一方の右手は、体外衝撃波や自動運動を重ねて自動屈曲はできるようになったものの、日によって曲がらない日があり、弾発が消えた後も痛みと曲げにくさが残りました。
施術のたびに曲がるようになるのに、1週間ほどで元に戻ってしまう。改善はしているのに、あと一歩が出ない。ここが相談の中心でした。
共有された保存アプローチの基本形
- 前腕屈筋群のストレッチ指を曲げる筋のこわばりを緩め、腱にかかる負担を減らします。
- 反応した筋への施術確認検査(ANOテスト)で陽性になった筋を押圧し、弾発や痛みの変化を確かめます。
- A1(エーワン)プーリーのストレッチ指の付け根で腱を押さえる帯状の腱鞘(A1プーリー)を、広げる方向に伸ばします。
この組み合わせで弾発が消え、痛みなく曲げ伸ばしできるようになる例は少なくない、というのが共有された経験でした。固定と運動をどう切り替えるかは、固定期間とストレッチを入れるタイミングの記事で扱っています。
小さなボールや蓋のようなものを、MP関節とPIP関節(指の中ほどの関節)を90度ほど曲げた形で押しつぶす運動は、内在筋(手のひらの中の小さな筋)のトレーニングとして紹介されることがあります。
ただ、この形は腱鞘を引き伸ばすA1プーリーのストレッチとして知られているものです。同じ見た目の運動でも、何を狙っているのかは分けて考えたい、という確認もありました。
保存で改善する層と、手術を勧める層
保存でスムーズに改善していくのは、症状がそれほど強くない層ではないか、という感触が共有されました。ストレッチと施術で弾発と痛みが順調に引いていくなら、そのまま保存を続ける判断でよさそうです。
逆に、症状が強い場合や、施術で改善しても戻りを繰り返す場合、瀬谷崎は手術(腱鞘切開術・けんしょうせっかいじゅつ)を選択肢として伝えることが多いと話しました。
症状が軽く、弾発と痛みが順調に引いていくなら保存を継続。
症状が強い、または改善と戻りを繰り返すなら、手術という選択肢を早めに共有し、適応の判断は医師につなぎます。
実際この患者さんは、手術は選択肢にないという受け止めで、よくなってきたこと自体は喜んでいました。だからこそ、保存を続けながらも、どこまでを保存で狙うのかという線は施術者の側で持っておく必要があります。
手術と注射、性格の違いまで伝える
手術に話が及ぶと、この患者さんのように「どうせ再発するんでしょ」とためらう方は少なくありません。ここで手術と注射の性格の違いを話せるかどうかが、ひとつの分かれ目になります。
- 腱鞘切開術は、引っかかりの原因になっている腱鞘を開く手術で、10〜15分ほどで終わる
- 腱鞘そのものを開くため、術後に再発するイメージはほとんどない、というのが共有された感触
- ステロイド注射は、おおむね3ヶ月以上は無症状になることが多い一方、再発も少なくないとされる
医師の患者向け説明に「手の使い方や筋力の弱さで再発する」と書かれていることもありますが、それは注射後の話と混ざっている可能性がある、という指摘も出ました。再発しやすいのは注射で、切開後の再発はまれ。この違いを伝えられるだけで、患者さんが選ぶときの見え方は変わります。
一方で、術後は1週間ほど手が使いにくくなります。この患者さんのように手を使う仕事や趣味を持つ方には、再発よりもむしろそこが実際のハードルでした。生活への影響まで含めて話し合い、最終的な適応の判断は医師にゆずる。この流れなら、施術者が手術を話題に載せることにためらいは要りません。
保存で続ける根拠と、手術を勧める根拠の両方を持つ
ばね指は、症状が軽ければ保存で十分に改善が狙えます。同時に、症状が強い例や戻りを繰り返す例には、短時間で再発の少ない手術という選択肢があります。片手が改善して片手が残った今回の症例は、その線引きを考えるのにちょうどよい題材でした。
保存の経過を自分の手で追ってきた施術者だからこそ、切り替えを話すタイミングにも、注射との違いを説明する言葉にも根拠が生まれます。
瀬谷崎





