ストレッチしても伸び感が出ない胸鎖乳突筋。つまむ・介助で働きかけを変える
セラピスト向け
伸ばしているのに伸びない首の前面。手の使い方から見直す
首の前面、胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)のつまり感が院内では軽くなるのに、生活へ戻るとまた出てくる。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった相談をもとに、ストレッチしても伸び感が出ないこの筋への働きかけの変え方を考えます。
症例は30代の男性。発症から2年ほど経過し、当初あった肩上部や後頭部の張りは軽くなった一方で、右の胸鎖乳突筋、それも停止部に近い上のほうのつまり感だけが残っています。デスクワーク中心で、FHP(エフエイチピー・頭部前方位姿勢)も見られる、臨床でよく出会うタイプの首です。
確認検査(症状の増減を確かめる検査)では、肩甲骨を内転方向に保持する介入で症状がわずかに変わる程度。肩甲骨外転症候群としては陰性寄りで、原因は胸鎖乳突筋そのものと考えるのがもっともらしい状態でした。
院内の施術では楽になる。それでも仕事や自宅の生活に戻ると、また苦しくなってくる。この「すぐ戻る」の理由を、施術メニューの中身から見直していきます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎伸び感がない=伸ばせていない可能性を疑う
仰向けでベッドから頭を出して行う胸鎖乳突筋のストレッチは、院内でも自宅でも実施していました。それでも本人の感覚は「少し伸びるかな」という程度。ここまで伸張感が乏しいなら、形はできていても、うまく伸ばせていない可能性をまず疑います。
胸鎖乳突筋は、もともと伸張感を出しにくい筋でもあります。かなり強く伸ばしても伸び感がほとんど出ない人が一定数いる一方で、この症例は伸び感が出てもよさそうなタイプに見えました。だとすれば、ストレッチの手技そのものを実技で確かめ直す価値があります。筋の走行と姿勢の関係はFHPと胸鎖乳突筋を扱った記事で書いたとおりで、走行を外したポジションでは伸び感は出ません。
体質的に伸張感が出にくい人に強度を上げて追い込むのは危険です。その場合はストレッチにこだわらず、後述するダイレクトストレッチなど別の手段へ切り替えるほうが安全です。
過剰収縮する筋を、自動運動だけで外すのは難しい
もうひとつの手がかりが、頸長筋のトレーニング中に喉元へつまり感が出ていたことです。狙った頸長筋ではなく、胸鎖乳突筋が代償的に過剰収縮している状態が疑われました。
こうしたタイプでは、自動運動だけで胸鎖乳突筋の関与を外すのはほぼ不可能だろう、という見立てが検討のなかで出ています。本人が意識しても、動き出しで顎が前へ出てしまうためです。そこで、他動的な介助への切り替えが提案されました。
- つまんで抑制をかける仰向けに寝てもらい、施術者が胸鎖乳突筋を軽くつまんで、収縮が入りにくい状態を作ります。
- 顎を引いた位置を保つ患者さんには顎を引いた位置を保ってもらいます。動作中に顎が前へ離れたら、そのつど戻します。
- 頭部の持ち上げを介助する施術者が反対の手で頭部を支え、持ち上げる補助をつけながら頸部の屈曲を誘導します。自力では上がらない範囲を介助で補う形です。
この症例では、頸長筋トレーニングは補助なしの自動運動で行われていました。介助をつけるだけで結果が変わる可能性があります。逆に言えば、胸鎖乳突筋に入ってしまう形のトレーニングを自宅で続けていたのなら、症状がすぐ戻るのもうなずける話です。狙った筋の収縮を触って確かめながら引き出す考え方は、多裂筋の収縮を引き出す伝え方の記事と同じ発想です。
即時変化を狙うなら、直接つまんで伸ばす
その場での変化をいちばん出しやすいのは、胸鎖乳突筋への直接介入だろうという見解でした。仰向けで筋腹をつまみ、下方向へ引っ張るダイレクトストレッチです。押して、つまんで緩めれば、2〜3日は楽だったという反応が返ってくる可能性は高そうだ、という温度感で共有されています。
あわせて候補に挙がったのが相対法です。動かすと嫌な方向と問題ない方向があるとき、問題ない方向へ動かしてもらう手技で、原理が分かれば全身のどこにでも応用できます。今回なら、右のつまり感に対して左への側屈方向。実際この症例では、後頭部の張りは相対法だけで軽くなった一方、胸鎖乳突筋そのものには直接は入りにくい印象でした。
つまむ強さが強すぎると、かえって筋が硬くなるリスクがあります。部位が首であることも踏まえて、響き方を確かめながら慎重に強度を調節します。
自宅運動には、つまみながら行うひと工夫を
胸鎖乳突筋の扱いやすいところは、患者さん自身でもつまめることです。特別なテクニックは要りません。自宅のエクササイズ時に、自分でこの筋をつまんで抑制をかけながら動いてもらうと、余計な収縮を抑えたまま、狙った筋の収縮を出しやすくなります。
- 顎を引くエクササイズの前に、自分で胸鎖乳突筋をつまんでから動き出す
- 収縮させたい筋と入ってしまう筋のインバランスは他部位でもよくある(大殿筋を狙ってハムストリングスが入るなど)
- その場合も、入ってしまう筋を押さえながら動くという同じ工夫が応用できる
即時変化と並行して、分節的コントロールを続ける
発症から2年と経過が長い症例なので、その場のつまり感を消す手技だけで完結する構成は考えにくいところです。上頸部の安定性の回復と、頸椎を分節的にコントロールする運動は、働きかけ方を調整しながら継続していきます。首全体の運動量を確保するために、頸部のエクササイズを何かしら加えておく方向も検討されました。
なお、首の愁訴は頸椎だけを見ていると判断に迷う場面があります。伸展時の痛みで胸椎の関与を切り分ける手順は別の記事で扱っているので、評価の並びとしてあわせて確認してみてください。
瀬谷崎





