石灰沈着性腱板炎は湿布だけで治るのか。急性型の自然経過と施術側にできること
セラピスト向け
注射なしで返された強い肩の痛み、10日で収まった経過をどう読むか
強い肩の痛みから石灰化を疑い、病院へ紹介した。注射で早く楽にしてもらえるだろうと思っていたら、返ってきたのは「湿布で1週間ぐらいで良くなりますよ」という説明と、鍼灸院・整骨院には行かないようにという指示。そして実際、10日ほどで症状は収まりました。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに挙がったこの相談をもとに、急性期の石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)に施術側が何をできるのかを考えます。
相談の経緯はこうです。肩の痛みがかなり強く、経過の聞き取りから石灰化を疑って病院の受診を勧めました。担当者としては、これだけ痛みが強ければ注射をしてもらうのが手っ取り早いだろう、というイメージでの紹介でした。
ところが病院の対応は予想と違いました。注射はなく、湿布などの処方で経過を見る方針。入っていた次回の予約も取り消しになり、担当者は戸惑います。それでも10日ほど後に連絡を取ると、症状はほぼ収まっていたそうです。
- ある時から急に強い肩の痛みが出た(急性型に特徴的な経過)
- 病院では注射をせず、湿布等の処方と安静で経過観察の方針
- 鍼灸院・整骨院には行かないように、という指示つき
- 実際に10日ほどで症状は落ち着いた
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎急性型は自然経過で軽快する例が珍しくない
検討でも、「治る人はいるんじゃないですかね。割と放っておくイメージが僕もあります」という感覚が最初に共有されました。急性型では、沈着した石灰が吸収される過程で、数週間のうちに症状が改善していく例が珍しくないためです。
臨床像も特徴的です。ある時急にバンと痛みが強くなり、凍結肩(いわゆる五十肩)の炎症期のピークのような症状が突然出てくる。こうした経過は他の病態では考えにくく、そこに画像上の石灰があれば、石灰沈着性腱板炎と判断するのはもっともらしい流れです。
朝起きたら肩が強烈に痛い。すぐ落ち着くかと思ったら仕事が終わってもまだ痛いので来院した。そういう方が病院で鎮痛薬を処方してもらい、落ち着いてしばらくしたら大丈夫になった、という経過も検討ではよくある像として挙がりました。
急な発症、凍結肩の炎症期ピークのような強い症状、画像上の石灰化。この組み合わせは急性型に特徴的で、他の病態では考えにくい経過です。逆に言えば、この経過であれば「数週間単位で症状が引いていく可能性がある」という見通しを患者さんと共有できます。
急性期に施術側ができることは限られている
検討で一致したのは、急性期は炎症が強いだけの時期であり、施術側にできることが少ないという認識でした。この時期の目標は、炎症を広げないこと。つまり安静が中心になります。
痛いのに無理して動かす、痛む部位をマッサージする。要は安静にしない対応が炎症を広げ、慢性化につながることはおそらくあるだろう、という見方も出ました。石灰があっても炎症が起きていなければ痛くない以上、初期対応のあり方は軽視できません。
・急性型がほぼ確定と見たら、次回予約は取らずにまず安静を伝える
・痛みが非常に強い場合は病院へ。注射や、適応があれば穿刺(せんし)などの処置は医師の領域
・体外衝撃波のような機器も選択肢になりうるが、設備のある施設に限られる
・この時期に施術をするなら、鎮痛目的と割り切る
実際、今回の症例でも初回は動きを確認しながら鍼をしています。屈曲が90度に届かなかったのが、自動でも他動でも160度ほどまで動くようにはなった。それでも着替えのときには痛みが残りました。急性期の鍼は、可動域を出すことより鎮痛目的という位置づけで考えるのが妥当だろう、という話になりました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎画像上の石灰化が、すべて症状の原因とは限らない
典型的な急性型であれば、特徴的な臨床症状と画像を照らし合わせて、だいたい判断がつきます。一方で、別の原因で肩が痛い人のレントゲンに、以前からあった石灰がたまたま写ることもあります。画像の石灰化イコール症状の原因、とは限りません。
そこで確認検査です。とんとんでは、関節運動を1つ抜いて再現痛の増減を見る確認検査と、原因と疑う筋への押圧で増減を見るANOテスト(エー・エヌ・オーテスト。とんとんで使っている確認検査の呼び名です)を組み合わせて評価しています。
典型的な急性型では、確認検査やANOテストをやっても症状はすっきり変化しないだろう、というのが検討での見立てでした。逆に、検査で症状の8割ほどが軽くなるなら見え方が変わります。
確認検査とANOテストで症状の8割ほどが取れたなら、残りの2割はおそらく以前からある石灰が原因で、そこは取り切れないかもしれない。そう説明したうえで、8割の部分に対する治療を続ける判断がありえます。
例えば前方すべり症候群のような機能的な病態が背景にあり、そのせいで石灰化が症候性になったのではないか。そういう推論が立つ場合は、前方すべり症候群への通常の治療として進めていくことも考えられる、という話でした。
症状が落ち着く2週間前後を境に、見るものを切り替える
急性期の役割は、炎症を広げない環境を作ることと、病院受診の判断を支えること。症状は2週間前後で落ち着いていくことが多いため、機能面の評価や施術はその後からで十分間に合います。
急いで手を入れて悪化させるより、この時間軸を患者さんと共有するほうが、結果として信頼にもつながるはずです。今回の症例の「予約が取り消しになった」という経過も、その文脈で読めば納得のいくものでした。
瀬谷崎





