実例で学ぶレッドフラッグ。足をつけないほどのかかとの痛み、正体は痛風だった50代男性
セラピスト向け
誘因のない急性の踵の痛みで、内科の線を思い浮かべる条件
朝起きた時から、足をつけられないほどかかとの後ろが痛い。レントゲンは異常なし、運動歴の変化も靴の変更もない。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった、踵骨隆起の激痛が痛風だった50代男性の症例から、足部の急性痛で内科的疾患を疑う条件を考えます。
相談されたのは50代男性の症例です。体型は中肉中背で、仕事はデスクワークに営業が加わる程度。金曜の朝、起きた時から片足が痛み、翌日に整形外科を受診しました。レントゲンでは全く問題なしとされ、「大丈夫じゃないか」という話のまま、週明けの月曜に来院されます。奥様の付き添いが必要なほどで、足をつけられない状態です。圧痛が最も強いのはアキレス腱の実質部ではなく、踵骨隆起(かかとの後ろの出っ張り)でした。
一方で、初回の時点では母趾や足首周囲に発赤や紅斑はなく、目立つ浮腫もありません。強い痛みのわりに、炎症の見た目のサインが乏しい状態でした。そして何より、担当者が引っかかったのは誘因の不在です。
- 前日に運動した事実がなく、デスクワークと営業という普段の仕事量も変わっていない
- 靴を変えて当たるようになった、といった外的な変化もない
- 既往歴・服薬を聞いても手がかりがない
- それでも、足をつけられないほどの強い痛みが朝から急に出ている
担当者がのちに率直に語っていたのは、この初回の時点では痛風の認識が持てていなかった、ということです。いきなり痛風と判断する材料はなく、かといってアキレス腱周囲の病態と言い切れる誘因もない。決めつけが難しい状態のまま、ひとまずハイボルト(高電圧の電気刺激)で痛みの抑制をかけると、その場では割と歩きやすくなる反応があったといいます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎使いすぎ系の鑑別は、誘因の有無で確からしさが変わる
踵骨隆起の周囲の痛みで真っ先に挙がるのは、アキレス腱炎やアキレス腱周囲のファットパッド(脂肪体)の炎症といった、使いすぎ系の病態です。圧痛が踵骨隆起に限られているなら、候補はもともといくつかに絞られてくる部位でもあります。検討では、発赤や浮腫がはっきりあればわかりやすく、運動習慣があって以前からじわじわ痛かった経過ならそちらを疑う可能性は十分ある、という見方が共有されました。
本例はその条件がそろいません。運動歴の変化も靴の変更もなく、仕事量も普段どおり。じわじわではなく、朝起きた時からの急性発症です。使いすぎ系の病態を支える材料が見当たらないまま、炎症を思わせる強い痛みだけがある状態でした。こうなると、内科的なもの、つまり痛風を疑うのは割と自然だという結論になります。急激な発症だったという時間経過そのものが、検討の中でもあらためて確認された論点でした。
運動歴の変化や靴の変更といった明確な誘因がない、急性発症の関節周囲の炎症は、痛風などの内科的疾患を疑うきっかけになります。型に合わない部分を打ち消して既知の病態に寄せるのではなく、違和感のまま残しておくことが次の一手につながります。
水曜の悪化と、同じ週に届いた健診結果
担当者は初回の時点で決めつけず、アキレス腱周囲の問題が否定できないなら一度内科も、という話を最初から患者さんに伝えていました。月曜の初回から水曜の再来院までに症状はさらに強まり、松葉杖を貸し出す状態に。そしてこの時点で、母趾のMP関節に発赤が現れました。典型的な部位に所見が出たことで内科受診をあらためて強く勧め、実際に受診した結果は痛風の診断でした。
もうひとつ、判断を裏づける材料がありました。患者さんは今月健康診断を受けたばかりで、その結果がちょうど水曜に手元へ届いていたのです。担当者の記憶では尿酸値の数値そのものは記載に見当たらなかったものの、腎機能が少し落ちていることと肥満の指摘があり、精密検査までは要さないが要注意、とされていました。体型の見た目は中肉中背でも、検査値は別の情報を持っていたわけです。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎足部のレッドフラッグは、どこまで警戒すべきか
相談者からの「足部周りで他にレッドフラッグ的な鑑別はあるか」という問いに対して、回答の前にまず確かめられたのは前提の所見でした。出血ではないこと。発熱も浮腫も特にないこと。訴えは一切、痛みだけであること。そのうえでの答えはシンプルでした。足部の領域で緊急性の高いレッドフラッグはほぼなく、出血や発熱、浮腫を伴わない「痛みだけ」の訴えであれば、重篤な整形外科的疾患はめったに想像しない、という見方です。
しびれを除いた四肢の痛みでレッドフラッグを考えるなら、基本は悪性腫瘍の可能性を念頭に置く程度でよく、それを示す所見や既往歴がなければ過度に心配しなくてよい。そのうえで、痛風が疑わしければ内科へ紹介する、が基本の線になります。施術で抱え込む対象ではありません。
まなぶ先生
瀬谷崎誘因のない足部の急性痛では、次の点を順に確かめます。
- 出血・発熱・浮腫を伴うか(伴わない痛みだけの訴えなら、重篤な整形外科的疾患は考えにくい)
- 運動歴の変化・靴の変更など、使いすぎ系の鑑別を支える誘因があるか
- じわじわ続く経過か、それとも誘因のない急性発症か(後者は内科的疾患を疑うきっかけ)
- 既往歴・服薬・健診結果に、臨床像と重なる内科的な手がかりがないか
- しびれを除く四肢の痛みでは、悪性腫瘍を示す所見・既往がないか
瀬谷崎





