実例で学ぶレッドフラッグ。変形性股関節症の診断の先で見つかった、リウマチ性多発筋痛症
セラピスト向け
両側のお尻と肩の夜間痛。診断名がついた後の変化を、どう拾って送り直すか
変形性股関節症の診断で通院していた60代の女性が、経過の途中から両側のお尻と肩の痛みを訴えるようになり、最終的にリウマチ性多発筋痛症と判明しました。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に共有された実例をもとに、診断名がついた後の再鑑別と、医療機関への送り直しを考えます。
60代の女性。整形外科で変形性股関節症(股関節OA・オーエー)の初期と診断され、長く歩くと股関節が痛むという主訴で来院されました。施術で歩行時の症状は一度落ち着いています。
ここまでは、よくある経過です。話が動き出すのはそのあとでした。朝と寝入りの痛みだけが残り、やがて反対側のお尻へ、さらに肩へと広がっていきます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎経過を時系列で追う
最終的な診断名を知ったうえで振り返ると、変化の節目がいくつも見えてきます。まず、実際の経過を順に並べます。
- 変形性股関節症の診断で来院整形外科で初期の変形性股関節症と診断。長く歩くと股関節が痛むという主訴で、施術により歩行時の症状は落ち着いた。
- 朝と寝入りの痛みが残る朝起きる時と寝入りにお尻が痛む。痛み止めを飲めば日中は全く平気で、家事も昼寝もできていた。
- 反対側のお尻へ広がる経過を追ううちに、反対側のお尻まで痛むようになった。ここで痛みが両側化している。
- 肩にも痛みが出る肩の施術で一時的には良くなるものの、朝には肩も股関節も痛むように。部位を替えながら同じ性質の痛みが続いた。
- 家族の看護師の指摘「そんなに痛いのはおかしい」という家族からの一言が、再受診の後押しになった。
- 別の医療機関で血液検査最初の整形外科では変形性股関節症の診断のもと経過観察が続いたため、別の医療機関で血液検査を受け、専門の病院でリウマチ性多発筋痛症と判明。
- ステロイドで数日のうちに改善服薬を始めて数日で、朝も普通に起きられて階段も上れるように。現在は落ち着いた状態で通院を再開している。
疑いを立てる手がかりになったサイン
この経過には、変形性股関節症という診断名だけでは説明しにくいサインがいくつも重なっていました。あとから振り返って挙げると、次のとおりです。
- 股関節・肩といった大きな関節の痛みで、夜間と朝に目立つ
- 施術で歩行時の症状は落ち着いたのに、時間帯の決まった痛みだけが残る
- 痛み止めを飲めば日中は平気になる(消炎成分が効いている可能性がある)
- 反対側にも同じ性質の痛みが出てくる(両側化)
- 指などの小さな関節には症状が出ていない
一つひとつは、それだけで別の病態を意味するものではありません。ただ、これらが重なってきた時には、初診時の診断名とは別の何かを考えたくなります。
診断名がついていても、痛みの両側化と大関節の夜間痛が重なってきたら、その診断名だけで説明しきれていない可能性を考え、血液検査を含めた再受診をすすめる。
変形性関節症でも夜間痛は出るから難しい
難しいのは、変形性関節症でも夜間痛が出ることがある点です。初診の時点では歩行時痛が主体で、初期の変形性股関節症という見立てと矛盾しない経過でした。最初の診断が誤りだったという話ではありません。
変わったのは症状のほうです。両側化、肩への拡大、時間帯の固定、薬を飲めば日中は平気。この変化に一番近い場所で立ち会えるのは、定期的に体を診ている施術者です。良くなっては戻る肩からリウマチを疑った実例と同じで、施術への反応と残り方が手がかりになります。
痛み止めで平気になっていた点も、あとから見れば手がかりでした。消炎鎮痛薬が効くということは、背景に炎症がある可能性を残します。ステロイドで数日のうちに楽になったという転帰も、炎症性の病態だったことと符合します。
高齢で発症するタイプのリウマチは肩や膝など大きな関節に出やすく、指に出にくいという見方が共有されました。リウマチ性多発筋痛症も、股関節や肩の夜間痛が目立つとされます。診断そのものは血液検査を含む医師の評価によるもので、施術者の側でできるのは、疑いを持って送ることまでです。
送り直しの実際。診断名を否定せず、事実の経過を渡す
この方の場合は、家族に看護師の方がいて「そんなに痛いのはおかしい」という一言が再受診の後押しになりました。同じ役割は、施術者の声かけでも果たせるはずです。
伝えるのは事実の経過だけで足ります。いつから、どの部位が、どの時間帯に痛むか。薬で日中はどう変わるか。いつから両側になったか。診断名の当否には触れず、変化だけを言葉にして渡します。
最初の医療機関で検査がすぐに進まないこともあります。この実例でも、血液検査は別の医療機関で受けていました。血液検査という具体的な選択肢まで添えて送り出せると、患者さんが次の一歩を踏み出しやすくなります。
診断名の後も、経過は動き続ける
診断名は初診時点の見立てであって、その後の経過まで保証するものではありません。良くなった部分と残った部分を分けて観察し、残った側の性質が変わってきたら、疑いを立てて医療機関へつなぐ。この実例が教えてくれるのは、その積み重ねの価値だと思います。
瀬谷崎





