実例で学ぶレッドフラッグ。外反母趾の予約で来た、両足に広がる進行性のしびれ
セラピスト向け
両側・進行性・誘発動作なし。足のしびれから内科疾患を疑うまで
外反母趾の相談として予約が入った患者さんの主訴は、実際には両足に広がるしびれでした。整形外科的な検査を重ねても所見がそろわず、後日、医療機関の検査で内臓の腫瘍が見つかった。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に共有されたこの実例をもとに、内科疾患を疑う条件と紹介までの手順を追います。
予約の段階で伝えられていたのは、外反母趾の相談でした。ところが来院された患者さん(40代・女性)が困っていたのは、両足のしびれ。先に受診していた整形外科では、短い診察で「外反母趾によるしびれだろう」と説明されただけで、詳しい検査は受けていなかったそうです。
しかも、しびれの範囲はその受診時より広がっていました。最初は指先だけだったものが足部全体へ。夜、眠っている間に目が覚めてしまうほどの強さになっていました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎検査を重ねても、所見がそろわない
担当したセラピストは、しびれの原因を確かめるために一通りの評価を行いました。結果は次の通りで、はっきりした異常がほとんど出てきません。
- アキレス腱反射・膝蓋腱反射は両側とも同程度で、明らかな異常なし(上肢の反射も左右差なし)
- 足部の筋力に目立った低下なし
- 足根管症候群を思わせる所見なし
- SLR(下肢伸展挙上テスト)で症状の誘発なし
- 腰部の屈曲・伸展など、動きや姿勢で症状が変わらない
- 坐骨神経の伸張ストレステストも陰性
手がかりといえるのは、ふくらはぎを強めに把持するとしびれが少し増すことくらい。加えて、座っていても歩いていても強い冷感があるのに、触れても冷たくないという訴えがありました。もともと冷え性ではない方です。
セラピストはしびれの分布から、外反母趾が原因とは考えにくいことを患者さんに伝え、症状が続くようなら改めて医療機関で検査を受けるようすすめました。
その後、年末年始の休みをはさんで予約はキャンセルに。電話で経過を確認すると、患者さんは入院中で、医療機関の検査で内臓に腫瘍が見つかり、それがしびれの原因だったと分かりました。
内科疾患を疑う三つのサイン
この実例を振り返ると、気になる点は三つに絞られます。どれも単独では珍しくありませんが、重なった時に意味が変わってきます。
- 症状が両側に出ている(左右対称に近い分布)
- 症状が進行性で、範囲が徐々に広がっている
- 症状を誘発する動作や姿勢が見つからない
腰が原因かどうかの判断は動診に頼る場面が多く、動診で症状が出ないケースは腰由来との区別が難しくなります。SLRも腰椎の伸展も陰性で、40代で両下肢に症状。この組み合わせなら、腫瘍そのものを当てにいくのではなく、血管疾患や糖尿病を含む内科系の疾患をひとまず候補に挙げるのが現実的です。
冷感の訴えも参考になります。施術者が触れて確かめる温冷覚は確実なものではないので、患者さん自身が「冷たい」と表現するなら、その言葉を所見のひとつとして扱っておきたいところです。
除外から紹介までの五つの手順
では、同じような患者さんが初診で来た場合、どの順で考えればよいのでしょうか。この実例の検討から出てきた流れを、手順の形に直すと次のようになります。
- 整形外科的な疾患を除外する脊柱管狭窄症・椎間板ヘルニア・腓骨神経障害・足根管症候群など、下肢のしびれで想定される疾患を、SLRや伸張ストレステスト、腰部の動診で一通り確認します。
- 血管系の疾患を確認する閉塞性動脈硬化症やバージャー病(閉塞性血栓血管炎)であれば、下肢の運動時痛や間欠性跛行(歩くと症状が出て、休むと引く)を伴うはずです。この有無を問診で確かめます。
- 糖尿病の可能性を確認する体重や体型、家族歴、口渇・頻尿といった随伴症状を聞きます。既往歴や健康診断の結果もあわせて確認します。
- 紹介先を決める血管系のサインがあれば内科へ。どれにも当てはまらなければ、診療科を細かく絞らず、かかりつけの内科へ大きめに送ります。絞り込みすぎると、かえって候補から外してしまう恐れがあります。
- 紹介状は簡潔に書く所見の羅列や自分の推測は書かず、「御高診のほどよろしくお願いします」と依頼するにとどめます。書きすぎは医師との関係を損ねやすいためです。
なお、糖尿病によるしびれは左右対称に出やすいことが知られています。足先の感覚低下との関係は糖尿病性ニューロパチーの記事で扱っているので、あわせて確認してみてください。
鑑別には二つのルートがある
鑑別の進め方には、危険な疾患から順に除外していくトップダウンのルートのほかに、もうひとつのルートがあります。初回で絞り込めない場合に数回の検査的介入をはさみ、症状に変化がなければ鑑別を上位へ戻すという進め方です。
今回の実例は後者にあたります。初回の所見だけで内科疾患まで見当をつけるのは難しく、1〜2回は様子を見たくなる際どいラインでした。
初回でこの原因に行き着くのは相当に難しいケースです。ただ、範囲が広がってきた・夜間も強くなってきたという増悪のサインが出た時点で紹介へ切り替えられれば、対応としては成立します。実際このセラピストも、症状が続くなら再検査をと初回の時点で伝えていました。
所見がそろわない時ほど、候補を外へ広げる
私たちが施術で担えるのは、動きや姿勢で説明のつく症状です。裏を返せば、検査を尽くしても説明がつかない症状は、担える範囲の外にある可能性を示しています。両側・進行性・誘発動作なし。この組み合わせに出会ったら、院内で原因を追い続けるより先に、紹介という選択肢を候補へ加えてみてください。
瀬谷崎





