膝の術後3年続くピリピリ感。身体知覚の異常を疑う評価と感覚の再学習
セラピスト向け
痛みゼロの手前に置くゴール。左右の感覚差に働きかける評価と運動療法
膝の手術から3年。動作で困っているわけではないのに、患側のピリピリした感覚と、左右で感じ方が違う気持ち悪さが続いている。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、身体知覚の異常(自分の体の感じ方のずれ)を疑うときの評価と、感覚の再学習の進め方を考えます。
相談されたのは、膝の手術から3年が経過した患者さんの症例です。紹介で来院され、患側の左脚、すね前面のあたりにピリピリした感覚が残っています。何かができなくなっているわけではなく、いちばんの訴えは「左右の感覚が違うのが気持ち悪い」こと。そして「一生このままなのかな」という不安でした。
本人の温度感は、諦めるなら諦めるで困りはしない、ただ治るなら治ってほしい、というもの。一度は症状が軽くなった時期があったため、担当者としても、方法があるなら諦めきれないと感じている状況でした。
- 手術から3年、患側のすね前面にピリピリした感覚が続いている
- 動作の制限や、できなくなったことは特にない
- 主訴は痛みの強さより「左右の感覚が違う気持ち悪さ」
- 「一生このままなのか」という不安がストレスになっている
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎ゴール設定:痛みゼロの手前に、落ち着きどころを描く
長期化した術後の症状は、痛みを完全に消すことが難しい場合が少なくありません。検討の場でも、鎮痛、つまり痛みゼロを最終目標にはしないほうがよさそうだ、という方向で話が進みました。
背景にあるのは、「治るはず」と思っているほど苦しくなる、という傾向です。本当は治るはずなのに治らない、おかしい、どうすればいいのか、と悩みが深くなっていきます。逆に、ここまでは残るかもしれないという見通しを共有できると、不安の側が軽くなることがある。これも検討の場で共有された臨床印象です。
ピリピリ感は多少残るけれど、左右の感覚差は以前よりましになってきて、気分も前ほど不安ではなくなってきた。検討では、このあたりがすごくいい着地の一例として共有されました。
身体知覚の異常を疑うときの、2つの評価
感覚の訴えが中心の症例では、身体知覚の異常、つまり自分の体の位置や感覚の捉え方のずれが起きていないかを評価します。検討で挙がったのは次の2つでした。
- 二点識別覚検査健側と患側の両方で行います。2点の刺激を離れた位置から少しずつ近づけていき、どの距離で1点に感じるか。逆に近い位置から少しずつ離していき、どこで2点に分かれるか。両方向から確かめて左右を比べます。知覚のずれがある方では左右差がはっきり出やすい、というのが検討の場での見立てでした。
- 関節角度の再現テスト健側の膝を特定の屈曲角度に置き、その状態を覚えてもらいます。いったん下ろしてから、目を閉じたまま患側の膝を同じ角度まで動かしてもらう。ずれが大きければ、関節の位置感覚のずれを示す手がかりになります。角度計があれば、角度を決めて行うと比べやすくなります。
触れて調べる感覚検査の基本の手順は、触覚検査の動画記事で扱っています。また、身体知覚を評価推論に使う視点は部位の一貫性の記事も参考になります。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎感覚の再学習:ゲームのように進めるエクササイズ
検討で挙がった再学習は、評価をそのまま介入に変えるものと、番号や文字を使ってゲームのように進めるものでした。
- 角度の再現エクササイズ健側の膝で角度を作って覚え、目を閉じて患側で再現します。ずれていたら目を開けて「この状態が正しい」と確認し、また目を閉じて再現。これを何回か繰り返すと、少しずつ精度が上がってきます。
- 番号当てゲーム患部の周辺に小さい付箋を貼り、1から9まで番号を振ります。まず目で見て位置を覚えてもらい、目を閉じて、触れられた場所が何番かを当ててもらう。外れたら目を開けて「ここが5番」と確認し、もう一度。この往復で当てる精度がどんどん上がっていきます。
- 文字当てゲーム精度が上がってきたら、皮膚の上に書いた文字を当てる課題に進めます。最初はまったく分からなくても、少しずつ分かってくる感覚が出てきます。
知覚のずれがある方では、番号当てで驚くほど的外れな答えが返ってくることがある、というのが検討の場での臨床印象です。だからこそ、正解を確認してはやり直す往復に意味があります。分かってくる手応えそのものが、患者さんにとっての変化の実感にもなります。
運動療法は部位を問わず、達成感のある種目で
並行して行う運動療法について、検討では「下肢であれば部位はどこでもよい」という話でした。股関節でも膝でも、それらしい種目でよく、動かすこと自体が大事だという位置づけです。
種目選びの目安は、やっている感があること、少し難しい課題をクリアした達成感があること、楽しく続けられること。スクワットでもよいですし、体を動かす家庭用ゲームソフトのようなものでもかまいません。強度は徐々に上げていきます。それなりの運動療法ができるようになるまで数ヶ月かかる場合もあり、結果はすぐには出ない前提で、最低半年ぐらいの長い目で焦らず進めます。
腰痛や肩こりなど別の主訴があれば、その施術のついでに「おまけで少しやりましょうか」ぐらいの位置づけで始めると、患者さんも気軽に取り組めます。検討の場でも、この進め方なら心理的なハードルが下がりそうだと話されました。
最初から長めの治療計画を立てて、のんびりゆっくり
この症例は、二点識別覚検査と関節角度の再現テストで身体知覚のずれを評価し、番号当てゲームなどの感覚の再学習と、達成感のある運動療法を、半年程度の長期スパンで進める方針になりました。困っていることの改善という文脈で、できることを積み上げていく形です。
なお、術後の経過そのものの医学的な評価は主治医の領分です。経過に気になる変化があれば、受診をすすめたうえで並走します。痛みの場所や感じ方がはっきりしないケースの考え方は、身体の感じ方と痛みの記事でも扱っています。
瀬谷崎





