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バイオメカニクスで説明できない現象を、どう考えるか。8月のアカデミー内カンファレンスより

説明がつかないのは、現象のせいか。知識のせいか

バイオメカニクス(生体力学)の知識で、臨床で起こる現象をすべて説明しようとするべきではない。一方で、説明がつかない現象の多くは、私たちの知識不足によるものかもしれない。8月のカンファレンスで持ち帰った、二つの見方の話です。

臨床には、仕組みの知識で説明しきれない現象があります。それを「そういうもの」で片づけるか、自分の知識不足を疑って調べ直すか。その線引きを考えるために、私たちはアカデミーで症例を持ち寄り、検討を続けています。

2026年8月25日、ANOアカデミーのオンライングループカンファレンスを行いました。各地のメンバーがオンラインで集まり、現場で迷った症例や疑問を持ち寄って検討する場です。

今回の議題は4つでした。
・肩の癒着性滑液包炎に対するアプローチについて
・股関節の屈曲制限の要因
・膝の深屈曲時痛に対するアプローチの考え方
・改善した患者さんの症状に対する考察

ANOアカデミー オンライングループカンファレンス アーカイブ(2026年8月25日)
今回のオンライングループカンファレンス(2026年8月25日)。録画はアカデミー内のアーカイブでメンバーに共有しています。
伊藤聡史伊藤聡史

今回のカンファレンスを終えて感じたのは、バイオメカニクス的な知識で、臨床で起こり得る現象をすべて説明しようとするべきではない、ということでした。ただその一方で、説明がつかない現象の多くは、私たちの知識不足によるものなのかもしれない、とも思うんです。

瀬谷崎瀬谷崎

その両方を同時に持っておくのが大事な気がしますね。仕組みで説明できると、施術の組み立てに筋が通る。でも、説明できたつもりになると、目の前の反応より理屈を優先してしまうことがある。説明とは別に、実際にどう変わったかを確かめる姿勢は残しておきたいです。

動きの制限をどう読むか。肩と股関節の議題

ひとつめの議題は、肩の癒着性滑液包炎(かつえきほうえん。骨と腱の間で滑りを助ける組織が、炎症のあとに癒着した状態)へのアプローチでした。ふたつめは、股関節の屈曲制限(曲げにくさ)の要因。どちらも「動きが制限されている」という点は同じですが、原因の候補はひとつではありません。

伊藤聡史伊藤聡史

肩は、癒着している組織そのものの問題なのか、痛みをかばって動かさなくなった結果なのか、切り分けが要ります。どの方向の動きで、どの角度から引っかかるのかを確かめながら、医療機関での検査や評価が必要なケースかどうかも含めて検討しました。

瀬谷崎瀬谷崎

股関節の屈曲制限も同じで、関節そのものが原因のこともあれば、前側の詰まり感、後ろ側の筋肉の硬さ、骨盤の動きが足りないだけのこともある。要因の候補を並べてから、確認検査で一つずつ消していく。派手さはないですけど、この順番を崩さないことが結局は近道なのかなと思います。

膝の深屈曲時痛。角度と条件で切り分ける

みっつめの議題は、膝の深屈曲時痛(しんくっきょくじつう。しゃがみ込みや正座など、深く曲げたときだけ出る痛み)へのアプローチの考え方でした。浅い曲げ伸ばしでは何ともないのに、深く曲げると痛む。この「条件つきの痛み」をどう読むかが論点になりました。

伊藤聡史伊藤聡史

深く曲げたときだけ痛むなら、その角度で負担が集まる組織はどこか、という考え方がまず立ちます。膝の後ろ側で組織が挟まれるのか、前側が引き伸ばされるのか。体重をかけたときだけなのか、かけなくても痛むのかでも、候補は変わります。

瀬谷崎瀬谷崎

ここはまさに、バイオメカニクスの知識が効く場面ですよね。ただ、理屈どおりの組織にアプローチしても変わらないことはあって。そのときに、理屈に合わせて現象を曲げて解釈するのではなく、検査に戻って確かめ直す。ANOテストで原因の筋を絞り込むのも、その確かめ直しの一つだと考えています。

改善した症状を、あとから考察する

よっつめの議題は、少し毛色が違いました。うまくいかなかった症例ではなく、改善した患者さんの症状について、なぜ変わったのかをあらためて考察する、というものです。

伊藤聡史伊藤聡史

良くなったなら結果オーライ、で流してしまいがちなんですが、なぜ変わったのかを説明できないと、次の似た患者さんで再現できません。施術が効いたのか、時間の経過なのか、生活の変化なのか。候補を並べて検討しました。

瀬谷崎瀬谷崎

改善したケースほど、考察は甘くなりやすいんですよね。痛みが引いた理由をぜんぶ自分の施術に引き寄せてしまうと、学びがそこで止まってしまう。うまくいったときこそ、説明のつかない部分がどれだけ残っているかを数えておきたいなと思います。

説明がつかない現象の多くは、私たちの知識不足によるものかもしれない。

説明できる範囲と、知識不足の線引き

4つの議題に共通していたのは、仕組みの知識で説明できる範囲をどう扱うか、という問いでした。理屈で押し切るのでも、考えるのを放棄するのでもなく、その間に立ち続ける。7月のカンファレンスで話した「基礎医学が見立ての幅を広げる」という学び方とも、地続きの話です。

伊藤聡史伊藤聡史

説明がつかないとき、「臨床はそういうものだ」で片づけるのは楽なんです。でも、その多くは単に自分が知らないだけかもしれない。そう疑って調べ直すと、実際に説明がつくようになったケースを、今回もいくつか経験しました。

瀬谷崎瀬谷崎

伊藤先生の言うとおりで、ただ、調べても説明がつかない部分は最後まで残るんですよね。だから、説明できることは丁寧に説明し、説明できないことは説明できないまま、目の前の変化を確かめ続ける。当たり前のことを当たり前にやる、に結局は戻ってくる気がします。

患者さんのために、研鑽を続ける

ANOアカデミーでは、オンラインカンファレンスや実技練習会を通じて、現場の迷いを持ち寄り、見方を確かめ合う場を続けています。説明できる範囲を少しずつ広げながら、説明できない部分には正直でいる。その積み重ねが、目の前の患者さんへの判断の質につながると考えて、研鑽を続けていきます。

執筆者の勤務店舗

この記事を書いた伊藤聡史は、とんとん整骨院 ときわ台店に勤務しています。東武東上線ときわ台駅すぐ。板橋区常盤台・上板橋・中板橋エリアの方が多く来院されています。

ときわ台店のご案内・アクセス

伊藤聡史
株式会社とんとん/とんとん整骨院。臨床技術責任者。柔道整復師。

臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」講師。院内では臨床研修責任者として若手の技術指導を担い、論文抄読会の主催など、根拠に基づく施術(EBM)の浸透に取り組んでいる。

監修:瀬谷崎将也
とんとん整骨院代表・柔道整復師

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