技術があるのに選ばれない施術者に足りないもの

技術だけで臨床は完結するのか

施術技術は、もちろん大切です。ただ、評価と施術だけを臨床だと思っていると、患者さんとの関係性や説明の力をかなり軽く見てしまうことがあります。

コミュニケーションは、おまけではありません。目標をそろえ、課題を共有し、安心して通える関係を作ることまで含めて臨床です。

治療院業界では、よくこんな話を聞きます。

「あの先生は技術はあるのに、なぜか患者さんが続かない」

「知識もあるし、勉強もしているのに、売上が伸びない」

「職人気質だから、コミュニケーションが苦手なんだよね」

この言い方、分かるようで、少し危ないです。

なぜなら、コミュニケーションを臨床の外側に置いているからです。

でも実際には、患者さんとの関係性、説明、目標のすり合わせ、安心感は、施術結果にも通院の継続にも関わります。

まなぶ先生
まなぶ先生

でも、ちゃんと治せる技術があれば、患者さんは分かってくれるんじゃないですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

分かってくれる患者さんもいます。ただ、伝わっていない技術は、患者さんにとって存在しないのと近いです。

臨床を「評価と施術」だけに狭めない

評価して、原因を考えて、適切な施術をする。

これは大切です。ここを軽く見るつもりはありません。

ただ、それだけで患者さんが納得して動けるようになるかというと、そうとは限りません。

患者さんは、身体だけを持って来院しているわけではありません。

不安、仕事、家族、過去の経験、通院への迷い、費用、時間。

そういうものも一緒に持ってきています。

少し辛口に言うと、「自分は技術で勝負するのでコミュニケーションは苦手です」は、臨床の一部を放棄している言い訳になりやすいです。

患者さんが何を不安に思っているのか。

何を目標にしているのか。

なぜ通院が必要なのか。

自宅で何をすればいいのか。

ここを共有できなければ、いくら施術内容が良くても、患者さんは途中で迷います。

治療同盟という考え方

セラピューティック・アライアンスという言葉があります。

日本語では、治療同盟と呼ばれることがあります。

ざっくり言えば、患者さんと施術者が同じ方向を向いて、一緒に取り組めている関係です。

これは、ただ仲良くなることではありません。

目標を共有し、やることを明確にし、お互いに信頼して進める状態です。

要素 意味 臨床で起きること
目標の合意 何を目指すのかを患者さんと共有する 痛みを減らすだけでなく、仕事復帰や趣味の再開など生活の目標が見える
課題の合意 目標のために何をするのかを明確にする 通院頻度、セルフケア、避けたい動作などに納得しやすくなる
絆の形成 安心して話せる関係を作る 困っていることや不安を話しやすくなり、方針の修正もしやすくなる

慢性腰痛を対象にした研究では、治療同盟を強化した関わりによって、痛みや筋の痛覚過敏に良い影響が出たと報告されています。

つまり、関係性はただの雰囲気ではありません。

患者さんの体験や結果に関わる、臨床の一部です。

言葉は、薬にも毒にもなる

施術者の言葉は、思っているより強いです。

「骨盤がかなり歪んでいます」

「このままだと悪化します」

「年齢のせいですね」

「筋肉が全然ありません」

こういう言葉は、患者さんの中に残ります。

必要な説明として伝えるべきこともありますが、不安だけを残す説明は避けたいところです。

注意したいこと

不安をあおる説明は、患者さんの行動を小さくすることがあります。説明は正確であるだけでなく、患者さんが次にどう動けばいいか分かる形にしたいです。

いわゆるノセボ効果という言葉があります。

否定的な期待や不安が、症状の感じ方に影響することがあります。

逆に、安心できる説明や納得感のある関わりは、患者さんが動き出す助けになります。

一方的な説明ではなく、一緒に決める

昔ながらの医療では、専門家が方針を決め、患者さんがそれに従う形が多くありました。

もちろん、専門家として提案することは必要です。

ただ、患者さんの生活や価値観を抜きにして方針を決めると、続きません。

そこで大切になるのが、共同意思決定です。

英語ではSDM、Shared Decision Makingと呼ばれます。

まなぶ先生
まなぶ先生

患者さんに決めてもらうなら、専門家の意味が薄くなりませんか?

瀬谷崎
瀬谷崎

丸投げではありません。専門家として選択肢を示して、患者さんの生活に合う形を一緒に選ぶということです。

たとえば、週2回の通院が理想でも、仕事や家庭の事情で難しい人がいます。

セルフケアも、毎日20分は無理でも、1日3分ならできるかもしれません。

専門家の理想を押しつけるのではなく、その人が実際に続けられる形に調整する。

これも臨床の大切な力です。

売上は、必要な通院が伝わった結果でもある

売上という言葉が出ると、少し身構える人もいるかもしれません。

でも、治療院を続けるには売上が必要です。

そして、売上は単に売り込んだ結果だけではありません。

患者さんが自分の状態を理解し、必要な通院やセルフケアに納得し、継続する。

その結果として、売上が立つこともあります。

「売上を上げるために通わせる」のではなく、「必要なことが伝わるから通院が続く」。ここを逆にすると、臨床は一気に濁ります。

技術があるのに選ばれない人は、技術が足りないのではなく、技術の意味が患者さんに届いていないのかもしれません。

もちろん、売上だけを追えば良いわけではありません。

ただ、患者さんに必要なことを伝えられず、結果として途中で離脱してしまうなら、それも臨床上の課題です。

今すぐ見直したい関わり方

コミュニケーションというと、話術や営業トークを想像する人がいます。

でも、まず大事なのはもっと基本的なことです。

  • 患者さんの話を途中で遮っていないか
  • 患者さんの目標を聞けているか
  • 施術者側の目標と患者さんの目標をすり合わせているか
  • 通院やセルフケアの理由を説明できているか
  • できないことを誤魔化さず、分からない時は分からないと言えているか
  • 患者さんが質問しやすい空気を作れているか
  • 説明が、不安を増やすだけで終わっていないか

派手なテクニックではありません。

でも、こういう基本が崩れると、患者さんは安心して通えません。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、問診、評価、施術を大切にしています。

同時に、患者さんが自分の状態を理解し、納得して施術を受けられることも大切にしています。

痛みを減らすことだけが目標ではない場合もあります。

仕事に戻りたい。趣味を再開したい。家事を楽にしたい。不安なく動けるようになりたい。

そうした目標を一緒に確認しながら、必要な施術や通院の目安を考えていきます。

瀬谷崎の考え方

コミュニケーションは、技術の代わりではありません。技術を患者さんに届く形にするための、臨床の一部です。

施術者が見直したいこと

  • 技術不足ではなく、説明不足で伝わっていない可能性を考えているか
  • 患者さんの生活目標を聞かずに、痛みだけを追っていないか
  • 通院継続を、患者さんの納得ではなく勢いで取ろうとしていないか
  • 不安をあおる言葉で、患者さんを動かそうとしていないか
  • 職人気質を理由に、関係性づくりから逃げていないか

技術を届けるところまでが臨床

施術技術や知識は大切です。

でも、それだけで臨床が完結するわけではありません。

患者さんと目標をそろえ、やることを共有し、安心して相談できる関係を作る。

その上で技術が届くから、患者さんは納得して行動しやすくなります。

「技術だけでは売上が上がらない」というより、技術を届けるところまで含めて臨床だと考えた方が、ずっと自然だと思います。

瀬谷崎
瀬谷崎

うまい施術をするだけでなく、その意味が患者さんに伝わるところまで責任を持つ。そこまで含めて、臨床だと思っています。

参考

  • Hall AM, Ferreira PH, Maher CG, Latimer J, Ferreira ML. The influence of the therapist-patient relationship on treatment outcome in physical rehabilitation: a systematic review. Physical Therapy. 2010.
    PubMed
  • Fuentes J, et al. Enhanced therapeutic alliance modulates pain intensity and muscle pain sensitivity in patients with chronic low back pain: an experimental controlled study. Physical Therapy. 2014.
    PubMed
  • Clinical relevance of contextual factors as triggers of placebo and nocebo effects in musculoskeletal pain. Pain Reports. 2018.
    PMC
  • Shared decision making and physical therapy: What, when, how, and why? Journal of Humanities in Rehabilitation. 2022.
    PMC
瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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