治療家の初心は、ビジネスの中で薄まっていく。それでも忘れたくないもの

ロマンを半分にしたくないから、ソロバンを見る

患者さんを良くしたい。臨床に誠実でありたい。たぶん多くの治療家は、最初にそういう気持ちを持ってこの業界に入ってきたはずです。

治療家になりたての頃、患者さんを良くしたいと思っていた。

臨床に誠実でありたいと思っていた。

人の役に立てる仕事がしたいと思っていた。

そういう気持ちは、たぶん多くの人にあったはずです。

でも実際に現場に出ると、きれいな気持ちだけでは回りません。

売上、リピート、単価、人件費、広告費、教育、採用、離職。

臨床はビジネスの中に置かれています。

そこで折られる人もいるし、当初の想いが薄まっていく人もいる。

そして、どこかで「大人になれ」と言われる。

ただ、個人的には、初心を捨てることを大人になることだとは思いたくありません

まなぶ先生
まなぶ先生

臨床の理想と経営の現実って、やっぱり半々くらいで折り合いをつけるものなんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

ロマンとソロバンって言葉はあります。でも、僕は50:50にしたくないんですよね。ロマンを残したいからこそ、ソロバンを見ないといけないと思っています。

ロマンだけでは、患者さんを診続けられない

患者さんを良くしたい。

その気持ちは大切です。

ただ、それだけで院は続きません。

院が続かなければ、スタッフに給料を払えません。

スタッフが残れなければ、教育も積み重なりません。

教育が積み重ならなければ、良い臨床を安定して届けることもできません。

つまり、ロマンだけを掲げてソロバンを見ないことは、結果的にロマンを守れないことにもつながります。

順番の問題

経営を見ることは、理想を捨てることではありません。むしろ、理想を現場に残し続けるために必要な作業です。

ここを履き違えると、臨床に誠実でありたい人ほど苦しくなります。

売上を考えることに罪悪感を持つ。

継続通院の提案に後ろめたさを感じる。

スタッフに数字を見せることを悪のように感じる。

でも、数字を見ないまま続けられるほど、治療院経営は甘くありません。

ソロバンを見た瞬間に、初心が消えるわけではない

問題は、数字を見ることではありません。

数字だけしか見なくなることです。

売上を立てるために、必要のない通院を促す。

単価を上げるために、患者さんの不安をあおる。

利益を残すために、臨床の質を落とす。

これは、ソロバンを見ているのではなく、ロマンを手放しているだけです。

一方で、必要な臨床を届け続けるために、売上構造を考える。

スタッフが学び続けられるように、利益を残す。

患者さんに無理なく通ってもらうために、説明と計画を整える。

これは、初心を守るための経営です。

ロマンとソロバンを50:50にするのではなく、ロマンを薄めないためにソロバンを使う。この順番を間違えたくないんです。

勉強のきっかけは、きれいじゃなくてもいい

臨床の勉強を始める動機も、必ずしも美しいものだけではありません。

「患者さんを良くしたい」という純粋な気持ちもあると思います。

でも同時に、「この患者さんの信頼を失いたくない」「嫌われたくない」「できない人だと思われたくない」という、みっともない動機で勉強を始める人もいるはずです。

個人的には、それでいいと思っています。

むしろ、最初から崇高な理由だけで走れる人の方が少ないかもしれません。

大事なのは、きっかけが何だったかより、その後に何を積み重ねたかです。

  • 患者さんの信頼を失うのが怖かった
  • 説明できない自分が嫌だった
  • 先輩や同僚に負けたくなかった
  • 目の前の症状に何もできないのが悔しかった
  • 自分の臨床に根拠がないことに気づいてしまった

こういう動機は、少し格好悪いかもしれません。

でも、そこから勉強が始まるなら十分です。

みっともないきっかけでも、患者さんに向き合う力に変わるなら、ちゃんと価値があります。

「大人になる」が、諦める意味になっていないか

業界で働いていると、「理想だけじゃ食っていけない」と言われることがあります。

それは本当にそうです。

でも、その言葉がいつの間にか「だから理想は捨てろ」に変わっているなら、そこには注意が必要です。

理想だけでは食っていけない。

だから、理想を現実に乗せるための仕組みを作る。

本来は、そういう話のはずです。

それなのに、ビジネスの中で折られた結果、最初の想いそのものを馬鹿にするようになる。

患者さんを良くしたいなんて青い。

臨床に誠実でいたいなんて甘い。

そうやって自分の初心を笑い始めたら、けっこう危ないと思います。

残したいもの

現実を見ることと、初心を捨てることは違います。現実を見るのは、初心を現場に残すためです。

初心を守るには、感情ではなく仕組みがいる

初心を忘れたくないなら、気持ちだけに頼らない方がいいです。

人は忙しくなると忘れます。

売上が苦しくなると、視野が狭くなります。

スタッフが増えると、教育や管理に追われます。

患者さんのためにと思って始めたはずなのに、いつの間にか目の前の業務をこなすだけになる。

だから、初心を守るには仕組みが必要です。

臨床の基準を作る。

問診や説明を整える。

学び続ける時間を確保する。

数字を見て、院が続く状態を作る。

そういう地味なことを積み重ねることで、最初に持っていた想いは現場に残りやすくなります。

ロマンは、現場に残してこそ意味がある

患者さんを良くしたい。

臨床に誠実でありたい。

この気持ちは、きれいごとかもしれません。

でも、きれいごとを現場に残すために、経営があり、教育があり、仕組みがあります。

ロマンだけで突っ走って院が潰れたら、患者さんを診続けることはできません。

ソロバンだけになったら、何のためにこの仕事をしているのか分からなくなります。

だから、現実は見る。

でも、初心は手放さない。

その両方をやるのが、治療家としても経営者としても、一番しんどくて、一番大事なところなんだと思います。

瀬谷崎
瀬谷崎

大人になることが、最初に持っていた気持ちを捨てることなら、僕はあんまり大人になりたくないですね。現実は見ます。でも、患者さんを良くしたいとか、臨床に誠実でいたいとか、そういう初心は忘れたくないんです。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

読みもの

瀬谷崎コラム

施術・検査ガイド

とんとんブログ

電話
タップで電話がかかります
LINE
24時間予約受付中
東武練馬店
ときわ台店
下板橋店
南浦和店