徒手検査の使い分け。感度と特異度を臨床でどう組み合わせるか

徒手検査は、順番と目的で意味が変わる

感度と特異度を知っていても、使い分けられなければ臨床ではもったいない。重い所見を見逃したくない時と、運動器の可能性を絞りたい時では、検査の選び方が変わります。

検査は、全部同じ目的で行うものではありません。まず見逃したくないものに網をかけるのか、疑っている状態の関与を強めたいのか。目的によって、感度と特異度の使い方は変わります。

感度は陰性で可能性を低く見積もる材料になりやすい。

特異度は陽性で関与を疑う材料になりやすい。

この基本を知っていても、実際の臨床で「じゃあ、どの順番で使うのか」となると急に難しくなります。

検査は、ただ並べればいいわけではありません。

患者さんの訴え、重症度、見逃した時のリスク、疑っている状態、使える検査の特徴。

これらを見ながら、検査の目的を決めていきます。

まなぶ先生
まなぶ先生

感度と特異度は覚えたんですが、現場でどちらを先に使うか迷います。

瀬谷崎
瀬谷崎

まず、その場面で怖いのが見逃しなのか、誤認なのかを考えます。目的が変われば、使う検査の優先順位も変わります。

重大な所見は、まず見逃しを減らす

命に関わる可能性や、早めに医療機関での確認が必要な可能性がある場合は、見逃しを減らすことが優先になります。

ここで大事なのは、「少しでも疑わしい人を拾う」ことです。

多少、疑いすぎになることがあっても、見逃しの方が問題になる場面があります。

こういう時は、感度の高い問診項目や評価、スクリーニングの考え方が重要になります。

重い所見の考え方

重大な可能性がある時は、「違うかもしれないけど念のため拾う」ことが大事です。整骨院だけで抱え込まず、医療機関での確認が必要な可能性も考えます。

これは、患者さんを怖がらせるためではありません。

安全に進めるためです。

検査や問診は、施術するためだけでなく、施術しない判断や他機関につなぐ判断にも使います。

運動器の評価では、疑いを強める検査も必要になる

一方で、命に関わる可能性が低く、運動器の中で状態を整理したい場面もあります。

たとえば、関節の変性、腱の問題、筋の問題、滑液包の関与など、どの構造が関わっていそうかを考える場面です。

この時は、特異度の高い検査で陽性が出ると、関与を疑う材料として使いやすくなります。

もちろん、単独で断定はしません。

ただ、どこに介入するか、どんな説明をするか、医療機関での確認をどう考えるかの材料になります。

見逃したくない所見を確認
検査前の見立て
感度・特異度を見て検査を選ぶ
複数所見で見積もりを更新

検査の順番は、教科書の並び順だけで決めるものではありません。

何を先に安全確認したいのか、何を次に絞りたいのかで決めます。

決め手の検査がない時は、周辺を消していく

臨床では、いつも都合よく「これで分かる」という検査があるわけではありません。

たとえば、肩の痛みで、滑液包の関与を疑う場面があるとします。

でも、その状態を一発で強く示せる検査がはっきりしないこともあります。

その場合、似た症状を出しやすい別の状態をひとつずつ見ていきます。

腱板の関与はどうか。二頭筋長頭腱はどうか。関節由来の反応はどうか。神経症状はどうか。

それぞれの可能性を、感度の高い検査や問診で低く見積もれるかを確認していく。

そうすると、残った可能性が相対的に見えやすくなります。

場面 使いやすい考え方 注意点
重大な所見を見逃したくない 感度の高い評価で広く拾う 疑わしければ医療機関での確認も考える
疑っている状態の関与を強めたい 特異度の高い検査で陽性を確認する 単独で断定しない
決め手になる検査が弱い 周辺の可能性を低く見積もって残りを見る 消去法だけで強く言い切らない

こういう考え方は便利です。

ただし、消去法は万能ではありません。

消したつもりの所見が、実は十分に消せていないこともあります。

だから、経過や反応を見て、必要なら見立てを戻す柔軟さが必要です。

「残ったからそれ」と強く言いすぎない

周辺の可能性が低く見積もれた時、残ったものが一番それらしく見えることがあります。

でも、「他が違いそうだから、これで決まり」と強く言い切るのは危ないです。

検査には限界があります。

問診にも見落としがあります。

患者さんの症状は、ひとつの組織だけで説明できないこともあります。

だから、「現時点ではこの関与を疑う」「他の所見と合わせると、この可能性が高そう」といった言い方の方が自然です。

まなぶ先生
まなぶ先生

消去法で残ったものも、断定はしない方がいいんですね。

瀬谷崎
瀬谷崎

そうです。消去法は便利ですが、残ったものを強く言いすぎると、また別の見落としが起きます。現時点の見立てとして扱うのが大事です。

検査の順番は、患者さんの負担にも関わる

検査の使い分けは、推論の精度だけでなく、患者さんの負担にも関わります。

痛い検査を何度もする。

必要性が低い検査を長く続ける。

検査のたびに不安になる説明をする。

こうなると、評価のための検査が患者さんの負担になります。

だからこそ、検査前に「何を知りたいか」を決め、必要な検査を選ぶことが大切です。

検査を選ぶ時の視点

見逃すと危ないものは先に確認する。疑いを強めたいものは検査特性を見て選ぶ。患者さんの痛みや不安を増やしすぎない。これらを同時に考えます。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、徒手検査を「たくさんやること」自体を目的にしません。

まず、見逃したくない所見を確認する。

その上で、目の前の症状に対して、どの可能性を高く見るのか、どの可能性を低く見るのかを整理する。

必要な検査を選び、結果を患者さんに分かる言葉で説明する。

そして、経過が合わなければ見立てを修正する。

この流れを大切にしています。

  • 重大な可能性を先に確認する
  • 感度と特異度の役割を分けて使う
  • 決め手が弱い時は周辺の可能性も見る
  • 消去法で残った見立てを強く言いすぎない
  • 患者さんの負担を増やしすぎない検査順を考える

検査は、組み合わせてはじめて臨床になる

感度の高い検査、特異度の高い検査。

それぞれの特徴を知ることは大事です。

でも、実際の臨床では、その検査をどう並べるか、何を先に確認するか、どこで判断を保留するかが問われます。

見逃したくないものには広く網をかける。

疑っているものには、関与を強める材料を探す。

決め手が弱い時は、周辺の可能性を低く見積もりながら、残ったものを慎重に見る。

この組み合わせができて、徒手検査はただの手順ではなく、臨床判断の道具になります。

参考

  • Centre for Evidence-Based Medicine, University of Oxford
    Likelihood Ratios
  • NCBI Bookshelf. Diagnostic Testing Accuracy: Sensitivity, Specificity, Predictive Values and Likelihood Ratios.
    StatPearls
瀬谷崎
瀬谷崎

徒手検査は、覚えた順に全部やるものではありません。何を見逃したくないのか、何を疑っているのか。その目的に合わせて組み合わせるから、臨床で使える検査になります。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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